14歳以下で妊娠する少女が急増、カトリック信仰の厚い国が陥る社会的緊急事態
バセコ地区にたたずむクララさん(14)。この地区に住む多くの少女たちが若いうちに母になると話す/Tom Booth/CNN
マニラ・フィリピン(CNN) 本記事に登場する未成年者の名前は、本人の希望により、身元を保護するために仮名を使用している。
フィリピンの首都マニラの中心に位置するマニラ湾に面したバセコ地区には6万4000人を超える人々が暮らしている。人々の住居はコンクリートブロックや廃材で造られ、トタン屋根には防水シートをのせてあるだけなので、洪水に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。
この地区に住むクララさん(14)は現在妊娠6カ月で、男の子が生まれることを願っている。
クララさんの学校では、性教育は行われなかったという。クララさんは、自分にリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関するより詳しい知識があったら、この若さで妊娠することはなかったと考えている。
フィリピンでは、クララさんのように10~14歳の思春期に妊娠してしまう少女が増えている。カトリック色の濃いフィリピンでは今、今後の性教育のあり方をめぐり立法者、保健の専門家、教会団体の間で激しい論戦が交わされており、クララさんのような事例はまさにその中心に位置している。
マニラのホセ・ファベラ記念病院のアイリーン・マリー・ルビオ医師によると、フィリピンの10代の若者の大半は、リプロダクティブ・ヘルス、同意、そしてどういう行為が虐待とみなされるかについて非常に限られた知識しかなく、性行為をすれば妊娠する可能性があることすら知らないという。
クララさんは友人を通じて現在の恋人と出会い、交際からわずか半年で妊娠した。出産予定日が3カ月後に迫っているが、クララさんはこれまで一度も妊婦健診を受けておらず、胎児の健康状態についてもほとんど知らない。
しかし専門家によると、これほど若い母親の場合、妊娠中や出産時の健康リスクは極めて高く、生まれてくる赤ちゃんにも同様のリスクがあるという。
国家の社会的緊急事態
フィリピンでは、子どもや10代の若者の妊娠はアジアで最も多い水準にある。2019年から23年にかけて、15~19歳の妊娠はわずかに減少したが、14歳以下の非常に若い少女たちの妊娠が急増しており、19年の2411件から23年には3343件と38%も増加した。
フィリピンの政府機関は長らく、10代の妊娠は「国家の社会的緊急事態」と宣言してきた。そして22年に、議員らによって最初の「青少年妊娠防止法案」が提出された。
しかし同法案は、保守系団体や教会組織からの激しい反発を受け、これまでに何度も修正が行われ、先月、最新版が提出されたが、最初の提出から3年が経過した今も法的手続きが進行中だ。
同法案は、学校における包括的性教育(CSE)を標準化し、性に関する保健サービスへのアクセスを改善することを目的としている。現在、18歳未満の若者が避妊具や避妊薬を入手するには、一部の例外を除き保護者の同意が必要だ。
同法案の主たる起草者であるリサ・ホンティベロス上院議員は「我々が好むと好まざるとにかかわらず、今、性的に活発な青少年が存在することはデータから明らかだ」とし、「思春期の子どもたちが自らを守れるようにするために同法案は必要だ」と訴えた。
しかし初期の法案は、敬虔(けいけん)なカトリック国家であるフィリピンにおいて、教会組織からの激しい反発に直面した。カトリック教会は、性交は結婚した夫婦の間でのみ行われるべきと考えており、それ以外の者には禁欲を説いている。また、人工的な避妊には反対しているが、夫婦間で自然な方法を用いて妊娠を回避することは認めている。
さらにフィリピンでは、レイプや近親相姦による妊娠を含め、いかなる状況においても中絶は違法とされている。
同法案に対する反発は最近、国内の少なくとも八つの福音派およびカトリック系団体の連合体によるロビー活動へと発展した。この活動は「プロジェクト・ダリサイ」という名で知られている。
プロジェクト・ダリサイ(別名プロジェクト・ピュア)は、同法案を性や親の権威に関するイデオロギーと敵対するものと解釈しており、その主な争点はCSEをめぐる問題だ。
同プロジェクトの発起人で、フィリピン最高裁判所の元長官であるマリア・ルルデス・セレノ氏は、CSEは性に関する議論の常態化を意図しているが、それはフィリピン文化の一部ではないと述べた。