MastercardはSteamやitch.io上のゲームに「いかなる制限も要求していない」と主張もValveは決済代行業者経由で圧力をかけてきたと主張
Steamやitch.ioといったゲーム販売プラットフォームが、MastercardやVisaといったクレジットカード会社からの圧力により、一部のアダルトコンテンツを取り扱うことができなくなったと主張しています。しかし、Mastercardは「いかなる制限も要求していない」と主張しているのですが、Steamの運営元であるValveはMastercard側の主張を否定しています。
Mastercard insists it has not "required restrictions of any" game on Steam or itch.io, but Valve claims otherwise | Eurogamer.net
https://www.eurogamer.net/mastercard-insists-it-has-not-required-restrictions-of-any-game-on-steam-or-itchio-but-valve-claims-otherwise2025年7月中旬、Steamがプラットフォーム上から一部のアダルトゲームを削除しました。これに合わせてSteamはルールとガイダンスを更新し、公開すべきでないゲームの特徴に「Steamの決済サービス業者、関連カードネットワークや銀行、インターネットネットワークプロバイダーなどによって定められた規則や基準に違反する可能性のあるコンテンツ。特に、特定の種類の成人指定(アダルトオンリー)コンテンツ」という非常にあいまいな項目を追加しました。これは「決済サービス業者、関連カードネットワークや銀行、インターネットネットワークプロバイダーが望まないコンテンツはすべて削除されてしまうのではないか」として、ゲーマーから批判の声が寄せられました。Steamが突如アダルトゲームを規制した背景には、反ポルノ団体のCollective ShoutがVisa、PayPal、Mastercardといった決済プラットフォームに圧力をかけたことが関係していることも明らかになっています。
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その後、Steamと同じく、itch.ioもアダルトコンテンツの規制を発表。itch.ioは規制の理由を「決済代行業者から調査を受け、4月に禁止される前にitch.ioで一時的に配信されていた『No Mercy』というゲームが原因で、 Collective Shoutという団体がSteamおよびitch.ioに対するキャンペーンを開始し、両プラットフォームに存在する特定のコンテンツ(アダルトコンテンツ)の性質について決済代行業者に懸念を表明しました」と説明しており、Collective Shoutのキャンペーンにより決済代行業者から圧力がかかり、一部のアダルトコンテンツを規制せざるを得なくなったと明確に説明しています。なお、itch.ioはその後、アダルトコンテンツ規制を一部解除しています。
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今回の出来事は「決済代行業者からの事実上の検閲である」と問題視されており、一部のゲーマーは削除されたコンテンツをリスト化したり、決済代行業者による検閲に反対するオンライン署名を行ったりしています。 また、Steamと同じくPCゲーム向けの販売プラットフォームであるGOG.comが、決済代行業者による事実上の検閲に反対するキャンペーン「FreedomToBuy.games」を展開しました。
これに対して、Mastercardは2025年8月1日に公式サイト上で声明を発表。声明のタイトルは「ゲームコンテンツに関する最近の見出しを解説」で、内容は「メディアの報道や主張とは異なり、Mastercardはいかなるゲームも評価しておらず、ゲームクリエイターのサイトやプラットフォームにおけるいかなる活動にも制限を要求していません。 当社の決済ネットワークは、法の支配に基づく基準に従っています。つまり、当社のネットワークではあらゆる合法的な購入が可能です。同時に、加盟店には、Mastercardが違法なアダルトコンテンツを含む違法な購入に使用されないよう、適切な管理体制を整えることを義務付けています」というもの。Mastercardは明確に「いかなる制限も要求していない」と説明しています。
Clarifying recent headlines on gaming content
https://www.mastercard.com/us/en/news-and-trends/press/2025/august/clarifying-recent-headlines-on-gaming-content.htmlこれに対してSteamの運営元であるValveはゲームメディアのKotakuに対し、「ValveはMastercardに直接連絡を取るよう要請したにもかかわらず、連絡を取りませんでした」「Mastercardは決済代行業者とその加盟銀行と連絡を取り、決済代行業者はValveに対して懸念を伝えました。Valveは2018年以降、配信が合法なゲームは配信するよう努めるというSteamの方針を概説しましたが、決済代行業者はこれを拒否し、Mastercardの規則5.12.7とMastercardブランドへのリスクを具体的に挙げました」と説明しています。
Mastercardの規則5.12.7には、「違法な取引、または法人の独自の裁量により法人の信用を損なったり商標に悪影響をおよぼす可能性がある取引を、加盟店はアクワイアラーに提出してはならず、顧客はインターチェンジシステムに提出してはなりません」と記載されています。この「法人の独自の裁量により法人の信用を損なったり商標に悪影響をおよぼす可能性がある取引」について、Eurogamer.netは「あいまいな内容であり、何が許容され、何が許容されないかを定義する上で、Mastercard側に無制限の自由を与えてしまっている」と指摘。
「法人の独自の裁量により法人の信用を損なったり商標に悪影響をおよぼす可能性がある取引」について、Mastercardは「明らかに不快で、重大な芸術的価値を欠く画像(例:合意のない性行為、未成年者の性的搾取、人物または身体の一部の合意のない切断、獣姦の画像など)を含む製品またはサービスの販売」を例として挙げています。さらに、「法人がマークに関連して販売することが容認できないと判断するその他の資料」も禁止事例として挙げており、これも前述と同じように「Mastercardの裁量次第」であらゆるコンテンツを規制することができてしまうような内容です。なお、Mastercardの規則5.12.7に違反すると、罰金、監査だけでなく、決済処理業者による企業の排除対象となる可能性もあります。なお、クレジットカード会社がSteamとitch.ioに対して検閲まがいの介入を行ったことについて、業界関係者は懸念を示しており、国際ゲーム開発者協会(IGDA)は「主要プラットフォームにおけるアダルトゲームのモデレーションおよび対応の透明性・公平性の向上を求めています。合法かつ合意に基づき倫理的に開発されたゲーム、特にLGBTQ+や社会的弱者を描いたゲームを、リストから削除したりプラットフォームから排除したりするあいまいなポリシーの施行に、私たちは懸念を抱いています。開発者には明確なルール、公正な警告、そして異議申し立ての権利が与えられるべきです。誤解のないように言っておくと、IGDAは改革、開発者の意見、プラットフォームの説明責任を主張しているのであって、有害なコンテンツを擁護しているわけではありません。IGDAは最近のコンテンツ削除の影響を評価するため、匿名のデータを収集しており、これを使用して、影響を受ける開発者に代わって支援活動を行います」と述べました。
Press Release: Statement on Game Delistings – IGDA
https://igda.org/news-archive/press-release-statement-on-game-delistings/一方で、イギリスのオンライン安全法など、多くの国が成人向けコンテンツを規制することにつながるような法案の起草に着手しているため、「今後アダルトゲーム業界はより困難な道を歩むことになるかもしれない」とEurogamer.netは指摘しました。
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