風力発電事故5年で200件、羽根破損は30件…亡くなった男性「タラの芽採りに」自転車で外出

 巨大な風車が突然壊れ、地域住民の憩いの場に墜落した。秋田市の公園で2日、風力発電施設の羽根が落下した事故。近くには地元の男性が倒れており、間もなく死亡が確認された。風力発電に関連する事故は各地で後を絶たず、安全面のリスクが改めて浮き彫りになった。(浜田萌、秋田支局 広瀬辰馬)

羽根が折れた風力発電。根元から大きく損傷している(2日午後、秋田市で)=夏目拓真撮影

 事故があった公園は日本海に近く、海岸には多くの風力発電機が立ち並ぶ。亡くなった同市の無職男性(81)は作業服姿で公園内の道路付近に倒れており、約1メートル離れた場所に羽根があった。

 男性の義妹(74)によると、男性は「タラの芽を採りに行く」と話し、自転車で出かけたとみられる。現場近くの雄物川沿いにはタラの芽が生え、よく採りに行っていたという。この日、秋田市内には強風注意報が発表されており、義妹は「なんで風が強いのに外に出たんだろう」と涙ながらに語った。

現場周辺を規制する警察官(2日午後、秋田市で)

 散歩でよく公園を通るという近くに住む無職の70歳男性は「風車の下を歩くと羽根が迫ってくる感覚があり、前から危ないと思っていた。こんなことになるとは」と顔をこわばらせた。

 秋田県クリーンエネルギー産業振興課によると、県内には3月末現在、74か所に307基の陸上風力発電の風車が設置されている。洋上風力と合わせ、県の経済活性化の切り札と期待されており、2024年末時点の風力発電導入量は、北海道、青森県に次ぎ、全国で3番目に多い。

■倒壊、破損が多発

 風力は太陽光、水力などと同じ「再生可能エネルギー」だ。風力発電事業者らでつくる一般社団法人「日本風力発電協会」によると、風力発電の導入量は年々増え、24年末現在、2720基で計5840・4メガ・ワットに上り、この10年で2・1倍となった。

 一方で、設備不良や保守の不備などで風車が倒壊したり、風雨や雷が原因で羽根が破損したりする事例は各地で相次いでいる。

 政府は17年、出力500キロ・ワット以上の発電設備を対象として、3年ごとの定期検査実施と、第三者機関による審査を義務化。だが、18年に和歌山県日高町で、23年にも青森県六ヶ所村でそれぞれ風力発電所の風車が倒壊するなどした。

 経済産業省によると、23年度までの5年間に風力発電に関連する事故は約200件発生し、このうち羽根が破損したケースは約30件あったという。羽根は先端部の回転速度が時速300キロ程度に達し、空気中の砂や雨にさらされるため、損傷を放置すると落下につながりかねない。

■設備のチェック強化を

 政府は2月、中長期的なエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」を閣議決定し、全電源に占める風力発電の比率を23年度の1・1%から、40年度に4~8%程度に引き上げる目標を掲げた。風力発電施設はさらに増えると見込まれている。

 小野田弘士・早稲田大教授(システムエネルギー工学)は「近年は風車の大型化が進んでおり、今回のような落下事故が起きた場合、より重大な被害につながる可能性がある。エネルギー事業者は、自主的な点検などを行い、設備のチェック体制を強化すべきだ。原因究明と再発防止に向け、国も事業者任せにせず、積極的に関与するのが望ましい」と話している。

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