イギリス、核搭載可能な戦闘機を購入へ 「戦時下」に備える新安保戦略を発表

画像提供, Nathan Laine/Bloomberg via Getty Images

イギリス政府は24日、核兵器の搭載が可能な新型戦闘機12機を購入し、北大西洋条約機構(NATO)の空中核任務に参加する方針を明らかにした。キア・スターマー英首相が25日に、欧米32カ国が加盟する北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議で正式に発表する。

イギリス政府は24日、新たな国家安全保障戦略を発表。「戦時下の状況も含め、直接的な脅威にさらされる可能性に積極的に備える必要がある」と警告した。

戦闘機の購入決定は、先に発表されたイギリスの「戦略的防衛レビュー(SDR)」を受けたもの。ジョン・ヒーリー国防相は、「他国が核戦力を増強・近代化・多様化させるなかで、我々が新たな核リスクに直面していることが確認された」と述べている。

英首相官邸はこの動きを、「この世代における最大の、イギリスの核態勢の強化だ」と述べた。

新たに導入されるF-35A戦闘機は、通常兵器の搭載も可能だが、アメリカ製の核爆弾を装備するオプションも備えている。

NATOの空中核任務では、加盟国の航空機に、ヨーロッパに備蓄されたアメリカ製のB61核爆弾を搭載することが含まれている。

現在、アメリカやドイツ、イタリアなど7カ国が、通常兵器と核兵器の両方を搭載可能な戦闘機を運用している。

核兵器の使用には、NATOの核計画グループの承認に加え、米大統領と英首相の許可が必要とされる。

スターマー首相は、「不確実性が極めて高い時代において、平和を当然のものと考えることはもはやできない。だからこそ、我が政府は国家安全保障への投資を進めている」と述べた。

また、今回の決定により、国内で100社と2万人の雇用が支援されるとし、「世界をリードする英国空軍(RAF)の新たな時代だ」と歓迎した。

NATOのマーク・ルッテ事務総長は、この発表を「NATOに対するイギリスの力強い貢献の一例だ」と評価した。

NATOサミットでは、各国が2035年までに国内総生産(GDP)の5%を安全保障に充てることで合意する見通し。内訳は軍事費に3.5%、広義の安全保障支出に1.5%とされている。

新型戦闘機は、イングランド東部ノーフォーク州にあるRAFマーラム基地に配備される予定だ。

RAFは長年、長距離飛行が可能で、より多様な爆弾やミサイルを搭載できる戦闘機を求めてきた。そのため、今回のF-35A戦闘機の導入決定を勝利と受け止めている。

現在、RAFおよび王立海軍の艦隊航空隊が運用しているF-35B戦闘機は、航続距離が短く、搭載可能な兵器の数も限られている。

F-35Bは短距離離陸・垂直着陸が可能なため、王立海軍の空母「クイーン・エリザベス」および「プリンス・オブ・ウェールズ」での運用を前提に選ばれた経緯がある。

アメリカはすでに、ヨーロッパにB61核爆弾を備蓄している。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク氏によると、戦時においても、これらの核兵器の使用と発射の権限はアメリカが保持しており、イギリスがその運用に依存する形となることは、今後議論を呼ぶ可能性があるという。

現在、イギリスが保有する戦略核兵器を飛ばす方法は、ヴァンガード級原子力潜水艦から発射される弾道ミサイル「トライデント」に搭載させるのみだ。

「トライデント」はアメリカで製造・整備されているが、搭載される核弾頭はイギリス国内で製造・維持されており、イギリスの歴代政権は、その使用がアメリカに依存しないと強調してきた。そのため、イギリスの核戦力は「独立した抑止力」と位置づけられている。

RAFの戦闘機は、1998年まで小型核兵器の搭載が可能だった。この年、英国産のWE177戦術核爆弾が運用を終えた。

ブロンク氏は、RAFが「核任務に復帰するには時間がかかる」と指摘。F-35A導入の最も明白な利点は、航続距離の長さと、より多様な通常兵器を搭載できる点にあると述べた。

画像提供, Getty Images

24日に発表された新たな安全保障戦略では、イギリスが「安全保障を脅かす勢力との対立の時代にある」とし、ロシアによるウクライナ侵攻を「最も明白かつ差し迫った例」と位置づけた。

また、「イギリス国内におけるイランの敵対的活動」や、「敵対勢力」によるエネルギーやサプライチェーンの妨害計画にも言及している。

その上で、国家の安全を高めるには「社会全体の取り組み」が必要だとし、「国民が一丸となる必要がある」と訴えた。

イギリス下院で発言したパット・マクファデン内閣担当相は、この国家安全保障戦略は「我々が直面する課題に対する現実的かつ厳格な計画」を提示するものだと述べた。

この戦略は、国境警備の強化、同盟国との連携改善、造船や原子力、人工知能(AI)といった分野におけるイギリスの能力増強を目的としている。

また、生物兵器攻撃への防衛力を高めるため、「国立バイオセキュリティーセンターの新たなネットワーク」に10億ポンド(約2000億円)を投じる方針だと明らかにした。

戦略文書では、イギリスは「敵対勢力による強要や操作の余地を縮小する能力を含めた、他国への依存」を減らす必要があると指摘している。

さらに、他国からの脅威が増す中で、イギリスは「暗殺、脅迫、スパイ活動、破壊工作、サイバー攻撃、その他の民主主義への干渉といった敵対的行為によって直接的な脅威にさらされている」と警告している。

敵対勢力は偽情報を拡散し、ソーシャルメディアを通じて「世代間、ジェンダー間、民族間の緊張をあおっている」とも記されている。

また、海底ケーブルなどの重要インフラが「今後も標的となり続ける」との見解も示した。

マクファデン氏は下院で、中国のような大国との関係において「国家安全保障を守り、経済的利益を促進する」ために、イギリス政府は「現実的な姿勢」で臨むと述べた。

この日の議会ではまた、デイヴィッド・ラミー外相が、政府によるイギリスと中国の関係を精査した監査について声明を発表。監査には機密情報が含まれているため全文は公開しないとした上で、その要旨を説明した。

ラミー外相は、中国を「高度で執拗(しつよう)な脅威」と表現しつつも、その中国の影響力は「否定できない現実だ」と述べた。

「中国と関わらないという選択肢は存在しない」とラミー氏は述べ、イギリス政府が中国との貿易関係を望んでいることを認めた。

また、イギリスの対中方針は「進歩的現実主義に基づき(中略)世界を願望ではなくありのままに受け止める」姿勢を基にしていると説明。「協力できるところでは協力し、必要な場面では対抗する」と述べた。その上で、「国家安全保障を決して犠牲にしない」と強調した。

これに対し、最大野党・保守党のプリティ・パテル影の外相は、この監査は「いかなる戦略的枠組みも提示していない」と批判した。

さらに、「政府は経済運営の失敗を中国に救済してもらおうと、頭を下げて頼みに行ったのだ」と非難した。

関連記事: