20歳の連続殺人犯キム・ソヨン被告に判決 防犯カメラとドラレコが阻む「シリアルキラー」
ソウル市江北区のモーテルなどで男性らに薬物を混ぜた飲料を飲ませ、2人を殺害、4人に重軽傷を負わせたとして殺人、特殊傷害などの罪に問われているキム・ソヨン被告(20)の一審判決が、27日午後、ソウル北部地裁で言い渡される。検察側は「反省の色がない」などとして死刑を求刑している。
キム被告は韓国のPCL-R(精神病質チェックリスト)で25点を記録し、「サイコパス(反社会性パーソナリティ障害)」に分類された。通常の凶悪犯でも平均15点前後とされ、早期逮捕に至らなければさらに犯行が繰り返された可能性が指摘されている。
一方、被害者側の弁護士はキム被告について、「連続殺人が事実上不可能な時代に登場した連続殺人犯」との趣旨で厳しく非難した。この言葉は、事件の異様さだけでなく、韓国の犯罪捜査を取り巻く環境が過去数十年で大きく変化したことを端的に示している。
■ 1平方キロ281台、ソウルを覆うCCTV
韓国では1980~90年代の華城連続殺人事件や、2000年代初頭のユ・ヨンチョル事件など、犯人が長期間にわたって犯行を重ねる凄惨な連続殺人事件が社会を震撼させてきた。前者は『殺人の追憶』(2003年、ポン・ジュノ監督)、後者は『チェイサー』(2008年、ナ・ホンジン監督)と、映画の題材になったことでも知られる。
しかし、現在の韓国では、同じような犯行を長期間、捜査網を逃れながら続けることは格段に難しくなっている。
その大きな理由の一つがCCTV(防犯カメラ)の普及だ。ソウル市や25区、市関連機関などが運用するCCTVは約17万台に上る。国際比較調査では、政府が管理したりアクセスしたりできるカメラは1平方キロ当たり約281台、人口1000人当たりでは約18台とされ、世界でも極めて高い監視密度を形成している。
東京については、2020年のComparitechの調査で人口1000人当たり約1.06台との推計もある。ただし、国や都市によって民間カメラを含めるかなど集計方法や調査時期が異なり、単純な倍率比較はできない。それでも、ソウルに極めて密度の高い公的CCTV網が張り巡らされていることは間違いない。
事件が起きれば、警察は現場だけでなく、周辺道路や地下鉄駅、商業施設などの映像をたどり、容疑者が「どこから来て、どこへ消えたのか」を追跡できる。過去の連続殺人事件とは捜査の前提そのものが違う。
■ もう一つの監視網「ブラックボックス」
さらに韓国の特徴として見逃せないのが、自動車のドライブレコーダーだ。韓国では「ブラックボックス」と呼ばれ、事故の責任判定や駐車中の当て逃げ対策などを背景に一般車両へ極めて広く普及している。駐車時にも24時間、稼働しているケースが多い。
固定式CCTVが捉えられない場所でも、道路を走る車や駐車中の車のカメラが人物や車両を記録している可能性がある。事件捜査で警察が周辺車両のブラックボックス映像を集め、容疑者の足取りを追うことが当たり前になっている。
日本でも普及は急速に進んでおり、チューリッヒ保険会社の2025年調査では自家用車への装着率は66.6%に達した。ただ、韓国ではブラックボックスが早くから日常的な装備として定着し、固定式CCTVとともに犯罪捜査を支える巨大な映像情報源となっている。
そこにスマートフォンの位置情報、携帯電話の通信記録、クレジットカードや交通カードの利用履歴などが加わる。韓国はキャッシュレス化も早かった。現代の都市生活で、長期間にわたり全く「足跡」を残さないことは極めて難しい。
■「数年間捕まらない連続殺人犯」は消えるのか
今回の事件も、こうした時代に発生した。キム被告は短期間に薬物を使った犯行を繰り返したとされるが、かつての連続殺人犯のように何年にもわたって正体を隠し続けることはできなかった。
左はキム・ソヨン被告がSNSで使用していたもの。右は警察公開の写真(※27日14時に追加アップロード)もちろん、CCTVの増加によって連続殺人そのものが不可能になったと断定することはできない。カメラの死角は残り、映像があっても犯罪を事前に防げるとは限らない。しかし、同一犯が殺人を重ねながら長期間捜査網を逃れ続ける余地が、華城連続殺人事件の時代と比べて著しく狭まったことは確かだろう。
一方、韓国では近年、「ムッチマ(何も聞くな)犯罪」と呼ばれる不特定多数を狙った無差別殺傷事件が社会問題となっている。こうした犯罪は逃走や証拠隠滅より、短時間に凶行を完結させる場合が多く、監視カメラによる事後の犯人特定が容易でも、犯行そのものを防げるとは限らない。
かつてのような「何年も捕まらない連続殺人犯」は、技術の進歩によって生まれにくくなった。しかし、カメラが犯人を捕まえることと、犯罪そのものを防ぐことは同じではない。キム被告の事件は、その二つの間に残る現代社会の治安の難題を改めて浮かび上がらせている。
元大韓金融新聞・東京支局長。東京生まれの在日韓国人3世。「李策」のペンネームで朝鮮半島問題、日本国内・海外の各種事件を取材し、週刊誌などで発表してきた。『板橋資産家殺人事件の真相 「日中混成強盗グループ」の告白』(宝島社)など著書・共著多数。2021年2月~2025年3月まで韓国の金融専門紙に在籍した。