オーストリアの高校で銃撃、10人死亡 容疑者は元生徒
画像提供, EPA
オーストリア中部の都市グラーツの高校で10日、銃撃事件が発生した。これまでに10人の死亡が確認されており、同国で近年に起きた銃撃事件で最も死者数の多いものとなった。
10日夜には、街の広場に集まった人々がろうそくをともし、犠牲者を追悼した。
警察によると、銃撃したとみられるのは21歳の元生徒で、事件後まもなく、校内のトイレで自ら命を絶ったという。
事件が発生したのは、グラーツ市北西部にあるドライアーシュッツェンガッセ高校。
ゲルハルト・カルナー内相は、銃撃により9人が死亡したと発表。警察は、さらに12人が負傷しており、そのうち数人は重傷だとした。
その後、地元メディアは、負傷していた女性1人が病院で死亡したと報じた。死者はこれで10人となった。
追悼集会に集まったグラーツ市民は、「市の中心広場をろうそくの海にしたい」と語り、その言葉通りの光景が広がった。
静寂の中、10日夕方から夜にかけて数千人が広場に集まった。多くは若者だった。人々は一人で、あるいは友人の腕や肩に寄り添いながら、ろうそくに火をともし、涙を流し、祈りや黙想の時間を過ごした。
その後、参加者たちは次々と前に進み出て、ボランティアにろうそくを手渡した。ボランティアはそれらを噴水の階段に丁寧に並べていった。
この噴水は「ヨハン大司教の泉」として知られ、グラーツ旧市街の中心、市庁舎前に位置している。この夜、この場所はオーストリア国民の深い悲しみと連帯の象徴となった。
通りがかりに追悼集会に立ち寄ったというフェリックス・プラッツァーさんは、ロイター通信の取材に対し「こうした事件を耳にすると、被害者に対して強い共感を覚える。もしかしたら知っている人だったかもしれない」と語った。
さらに「これは連帯の一例であり、皆で悲しみを分かち合うことで、少しでも乗り越えやすくなる」と述べた。
オーストリア政府は、銃撃事件の犠牲者を悼み、3日間の服喪期間を設けた。現地時間11日午前10時には、全国一斉に黙とうが行われる予定だ。
首都ウィーンにあるホーフブルク宮殿では、アレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領の執務室がある建物の国旗が半旗で掲げられる。
事件が発生した学校については、今後の通知があるまで閉鎖されると、クリストフ・ヴィーダーケーア教育相が明らかにした。
クリスティアン・シュトッカー首相は、10日を「わが国の歴史における暗黒の日」と表現し、今回の銃撃事件を「国家的悲劇」だと述べた。
「学校は単なる学びの場ではなく、信頼や安心、そして未来を育む空間だ」と同首相は記者会見で語り、この安全な場所が「踏みにじられた」と非難した。
さらに、「この困難な時において、人間らしさこそが我々の最大の力だ」と強調した。
オーストリア通信(APA)によると、今回の銃撃事件で死亡した10人のうち7人が生徒だった。
事件直後、シュトッカー首相は「この攻撃は、わが国の中心を直撃するものだ」と述べた。
「犠牲となったのは、これからの人生が待っていた若者たちだった」
グラーツ市のエルケ・カール市長は、今回の事件を「恐ろしい悲劇」と表現した。
欧州連合(EU)のカヤ・カラス副委員長は、「このニュースに深く衝撃を受けた」と述べた上で、「すべての子どもが学校で安心して過ごし、恐怖や暴力から解放された環境で学べるべきだ」と、ソーシャルメディアに投稿した。
カルナー内相は10日午後の記者会見で、事件の容疑者は元生徒で、同校を卒業していなかったと明らかにした。容疑者の氏名は現時点で公表されていない。
銃撃により、女性6人と男性3人が死亡したほか、病院で治療を受けていた女性1人が死亡した。
カルナー内相は、「事件をめぐって多くの憶測が飛び交っている」と述べた上で、「今後は刑事当局が捜査を進める」と強調した。
警察は同じ記者会見で、犯行の動機は現在も調査中だと説明した。
また、容疑者は事件前に警察に知られていた人物ではなかったと明らかにした。
現時点の情報では、容疑者は合法的に所持していた銃2丁を事件に使用したとみられている。また、警察によると、銃器所持許可証を保有していたとされる。
地元メディアは、容疑者がピストルとショットガンを使用して犯行に及んだと報じている。
警察はまた、容疑者はグラーツ広域圏出身のオーストリア人で、単独で行動していたと発表した。
警察は、学校内から銃声が聞こえたとの通報を受け、10日午前10時(日本時間同日午後5時)に現場での対応を開始した。
現場には、武装攻撃や人質事件などに対応する特殊部隊「コブラ(COBRA)」が出動した。
当局は、校舎内にいたすべての生徒と教職員を避難させた。警察は、学校の安全を確保し、一般市民に対するさらなる危険はないと発表した。
現地の日刊紙「クローネン・ツァイトゥング」のファニー・ガッサー記者は、「現地では、通りで泣いている人々や、事件当時に学校にいた友人と話す人々の姿が見られた。友人を失った人もいるかもしれない」と語った。
同記者はBBCニュースに対し、「グラーツはオーストリアで2番目に大きな都市だが、それほど大きな街ではないため、誰もが学校関係者を知っている」と述べた。
また、「この学校は、こうした攻撃に備えていなかった可能性が高い。私たちはアメリカではなく、非常に安全だと思われているオーストリアに住んでいる」とも語った。
学校に隣接する住宅の1階に住むアストリッドさんは、BBCの取材に対し、洗濯物を干し終えた直後に銃声を聞いたと語った。
「銃声が聞こえた。何発も、立て続けに。『パーン、パーン、パーン、パーン、パーン』って、何度も。家の中に戻って夫に『誰かが撃ってる!』と伝えた」と話した。
夫のフランツさんは、「最初は別の音かと思ったが、30発から40発は聞こえたと思う。それで警察に電話した」と振り返った。
フランツさんはまた、「窓際にいた生徒が、飛び降りようとしているように見えたが、結局中に戻っていった」と述べた。教師の姿も確認したという。
その後、生徒たちは「校舎の反対側、1階部分から外に出て、通りに集まっていた」という。
10日午後までに、グラーツ市内の献血センター前には長蛇の列ができた。
「今日はグラーツにとって本当につらい一日だ。助けを必要としている人のために血を提供しに来た」と、のシュテファニー・ケーニッヒさん(25)はロイター通信に語った。
ヨハンナさん(30)は、「何かしたかった。ニュースを見て無力感を覚えた」と話した。
列に並んでいた別の人物は、献血が「唯一できる支援の方法のように感じた」と語った。
オーストリアでは2020年、ジハーディスト(聖戦主義者)のクイティム・フェイズライ容疑者がウィーンの繁華街で銃を乱射し、4人を殺害、23人に重傷を負わせた。同容疑者は事件後に警官に射殺された。
2016年にはネンツィングのコンサート会場で銃撃事件が発生し、2人が死亡、11人が負傷した。容疑者はその後、自ら命を絶った。