海の熱波でクマノミがほぼ絶滅、紅海で想定外、「すでに限界」か
紅海中央部で、共生するイソギンチャクの白化した触手の間から、クマノミの一種であるレッドシーアネモネフィッシュ(Amphiprion bicinctus)の幼魚が顔をのぞかせている。(PHOTOGRAPH BY MORGAN BENNETT-SMITH)
健康なイソギンチャクは、岩やサンゴに咲くピンクの花のように見え、映画『ファインディング・ニモ』で有名になったクマノミのすみかとなる。しかし2023年、生物学者たちは紅海で、白化現象で幽霊のように真っ白になったイソギンチャクの群落を発見した。この現象は、そこにすんでいたクマノミの大半も死滅させた。論文は9月12日付けで学術誌「npj biodiversity」に発表された。
研究チームは、サウジアラビアの紅海の中央部にある3つのサンゴ礁で、すべてのセンジュイソギンチャク(Radianthus magnifica)を白化させた海洋熱波を記録した。イソギンチャクは白化現象から回復可能だとはいえ、センジュイソギンチャクの66%以上、クマノミの一種であるレッドシーアネモネフィッシュ(またはツーバンドアネモネフィッシュ)(Amphiprion bicinctus)の94%以上が死に、論文の題では「完全に近い局所絶滅」と表現している。
「私たちはおそらく、ある種の転換点に出くわしたのでしょう。そこには、これらの種が耐えられない最大(温度)があるのです」と研究論文の筆頭著者で、米ボストン大学の博士課程に在籍するモーガン・ベネット・スミス氏は述べている。
この大規模な被害は、世界中のサンゴ礁にとって暗雲を示唆していると言えるかもしれない。この地域は比較的、温暖化に耐性があると考えられていたためだ。
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紅海中央部のローズリーフで、レッドシーアネモネフィッシュ(Amphiprion bicinctus)がセンジュイソギンチャク(Radianthus magnifica)の触手に身を隠している。(PHOTOGRAPH BY MORGAN BENNETT-SMITH)
イソギンチャクの白化
海面温度の上昇に伴い、深刻なサンゴの白化現象が頻発している。しかし、脆弱なサンゴが失われるという懸念のなか、ほかの生物は見過ごされてきた。「誰もがサンゴ礁を本当に心配していました」とベネット・スミス氏は言う。「イソギンチャクの話をする人は誰もいませんでした」(参考記事:「サンゴの大量白化が世界で発生、最南端の世界遺産にも、一目瞭然」)
サンゴと同様、イソギンチャクも褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる小さな藻類と互恵関係にある。褐虫藻は宿主の体内に安全なすみかを得る代わり、光合成でつくり出した食物を共有する。この褐虫藻が水温の上昇などで体外に追い出され、サンゴやイソギンチャクが白くなるのを白化現象という。
白化したイソギンチャクは、サンゴより生き延びやすいようだ。理由は解明されていないが、海を漂う粒子を効率よく摂取できるためかもしれない。つまり、褐虫藻からの栄養の供給がなくても、より長く耐えられるということだ。
だがイソギンチャクの減少は、その“住人”として有名なクマノミにとって壊滅的な事態だ。クマノミは、刺胞(しほう)という毒針入りの袋をもつイソギンチャクの触手の中にすむことで、捕食者から身を守っている。クマノミの皮膚には粘液の層があり、イソギンチャクの刺胞から守られている。
「彼らは同じサンゴ礁の同じ場所にある同じイソギンチャクの中で25年も生きることができます」とベネット・スミス氏は説明する。(参考記事:「クマノミがイソギンチャクに刺されない謎を解明、秘密は糖の量に」)