スラムダンク聖地、箱根は…日中摩擦も中国人客は満喫、“市民外交”続く

江ノ島電鉄鎌倉高校前駅の踏切に設置されたエリアで撮影を楽しむ訪日観光客ら=4日、鎌倉市腰越

 台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁から7日で1カ月。日本と中国の政府間で生じた摩擦は長期化が避けられない事態に陥っているが、足元の市民交流はこれまで通り健在。神奈川県内の観光地では中国人旅行客が食事や買い物を満喫し、友好イベントでは互いの文化に理解を深めている。「政治と市民生活は同じではない」「今こそ草の根交流を」。日中の“市民外交”に陰りはないようだ。

 「ここには初めて来た。とても美しく息をのむような景色で、心から楽しむことができた」

鎌倉高校前駅近くの人気スポットで撮影を楽しむ訪日観光客ら=4日、鎌倉市腰越

 人気アニメ「スラムダンク」の聖地として知られ、多くの訪日客らでごった返す江ノ島電鉄鎌倉高校前駅の踏切。中国北部から旅行で訪れた20代男性は笑顔で話した。  中国政府は日本への渡航自粛を通知しているが、「日本への旅行を希望する中国人はいる」と男性。自身も「日本語の勉強を始めたので、たくさん学びたい」と訪日を決めたという。

 中国人旅行客の姿は箱根でも。妻と子ども2人と箱根湯本を訪れていた中国人男性(41)は、大涌谷の土産袋を手に旅行を楽しんでいた。「半年ほど前から計画し、東京、神奈川、静岡を1週間で巡るプランを立てている。箱根の温泉で1泊する」と声を弾ませた。

観光客でにぎわう商店街=4日、箱根湯本駅前

 ただ、渡航自粛に話が及ぶと「答えたくない」と苦笑い。別の中国人男性は「政治と生活は完全に同じではなく、日本にも中国にも平和を愛する人々や若者はたくさんいる」と話した。  東京に宿泊し、箱根など県内には日帰りで訪れることが多いという中国人観光客。地元の肌感覚では、団体旅行のツアー客は減ったものの、個人旅行者に変動はないとみられる。  湯本で雑貨店を営む男性(60)は「もともと中国人客は少なかったから影響はほとんどない」。土産店の男性も「中国人が減っても日本人が増えて売り上げは上がっている。今なら箱根が空いてると思って訪れる人が多い」と話した。

 箱根で三つのホテルを運営する小田急リゾーツ(小田原市)の原眞示社長は「中国人の予約キャンセルは少しあったが、すべて日本人客で埋まっている。今のところは影響はない」とした上で、「中国人客が増える春節の季節にどう響いてくるか注視している」。

出展者と来場者が交流を深めた「2025かながわ日中友好フェスタ」=6日、横浜市中区

 6日には横浜市中区で「かながわ日中友好フェスタ」が開かれ、日本語と中国語が飛び交う和やかな空間で約400人が交流を深めた。30団体が参加し、中国の伝統芸能などを披露するステージ企画も。京劇「貴妃酔酒」を演じた劉妍(りゅうけん)さんは、「いろいろな問題があるけれど、仲良くすることが大事」と呼びかけた。

 「隣人として直接触れ合えば、決して戦う相手などではないと分かる」

会場を沸かせた中国の伝統芸能「変面」の演技=6日、横浜市中区

 「アジアの一員として一緒にこの地域を平和にしていきたい。政治家もそうした意識を持つことが大事」

 参加団体からは、首相の発言に対する懸念や市民交流の大切さを説く声が続出。友好協会の関係者も「敵対心や憎悪をあおるのではなく、対話の道を模索してほしい」と力を込め、続けた。

「2025かながわ日中友好フェスタ」を彩ったステージイベント=6日、横浜市中区

 「国レベルでぶつかっているからこそ、日中両国の民間でより良い信頼を築いて継続していくことが大事。それこそが平和な世界を築く土台になる」

(かながわフォーカス取材班)

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