ヨルダン川西岸でのイスラエルの新措置、事実上の併合だとパレスチナ人
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イスラエルの安全保障内閣が8日に、占領するパレスチナ・ヨルダン川西岸への入植を容易にするさまざまな措置を承認したことを受け、パレスチナ人とアラブ諸国、入植に反対するイスラエルの複数団体、およびイギリス政府は、イスラエル政府の動きを事実上の併合だと非難した。
極右のベザレル・スモトリッチ財務相は8日、入植者がパレスチナの土地を入手しやすくなる一連の措置を発表し、「我々は引き続き、パレスチナ国家という発想を葬り続ける」と声明で述べた。
内閣が決定した措置は、イスラエル軍のヨルダン川西岸担当司令官が承認する見通し。不動産法や土地取得の計画、許認可、執行などで、イスラエルによる支配を強化するのを目的としている。
新しい措置には、ヨルダン川西岸の土地をユダヤ人に直接売却することを禁じてきた数十年来の規制の撤廃や、これまで機密扱いされてきた西岸の土地登記簿の公開が含まれる。これまで入植者は、イスラエル政府が管理する土地にある住宅を登録企業からしか購入できなかったが、今後は土地の所有者を特定して交渉できるようになる。
イスラエルの閣僚らはこの措置について、「透明性を高め、土地の買い戻しを容易にする一歩」だと表現した。イスラエル外務省は後に、これまで「ユダヤ人、アメリカ人、ヨーロッパ人など、アラブ人ではない全員を、不動産購入について差別していた」「人種差別的な歪曲(わいきょく)」を是正するものだと主張した。
イスラエル内閣はさらに、不動産売買に取引許可を必要とする法的要件を廃止すると決定。これによって、不正防止に対する監視が弱まることになる。
パレスチナの人々は、一連の変更を通じて、土地を売るよう個人に圧力をかけやすくなるほか、偽造や詐欺行為につながると、懸念を強調している。
国連によると、ヨルダン川西岸の入植地は昨年、監視が始まって以来最も速いペースで拡大した。
ヨルダン川西岸の一部を統治するパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、この措置が「危険」で、「パレスチナの主権下にある地域においてでさえ、入植地拡大、土地の没収、パレスチナ人所有物の破壊を、イスラエルがあからさまに合法化しようとしている」と批判。アメリカと国連安全保障理事会に対し、直ちに介入するよう求めた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領は、11日にワシントンで会談する予定。
イスラエルのNGO「ピース・ナウ」は、内閣の決定はパレスチナ自治政府を崩壊させる危険があり、従来の合意の破棄と、事実上の併合を伴うものだと指摘。イスラエル政府が「ヨルダン川西岸で大々的に土地を盗むため、あらゆる障壁を打ち破っている」と非難した。
イギリス政府もこの措置を「強く非難」し、イスラエルに撤回を要求。「パレスチナの地理的または人口的構成を一方的に変えようとする、どのような動きもまったく容認できないし、国際法に矛盾する」と述べた。
エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、インドネシア、パキスタン、トルコ、サウジアラビア、カタール各国の外相は、イスラエル内閣の発表を「違法な併合の動きを加速させ、パレスチナ人民の追放を進めるもの」だと批判した。
各国外相は声明で、「占領下のヨルダン川西岸においてイスラエル政府が追求している拡張主義的政策と違法な措置」は、「地域の暴力と紛争の燃料になるものだ」と警告した。
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土地の権利こそ、イスラエル・パレスチナ紛争の根幹にある問題なだけに、入植者への土地売却は多くの場合、仲介業者が関与する複雑な手続きを要する。
パレスチナ自治政府は、イスラエル人への土地売却を国家への反逆とみなしており、そのため死刑に値する罪と位置付けている。ただし実際には、有罪になると通常は禁錮刑を受ける。
入植政策を所管するイスラエルのスモトリッチ財務相は、イスラエル・カッツ国防相とともに8日に複数の措置を発表。土地購入に関するもの以外の措置も、多くの批判を招いている。
たとえば、イスラエルとパレスチナの関係が緊迫するヨルダン川西岸の最大都市ヘブロンにおいては、重要な宗教施設とその周辺での建築許可権限は、イスラエル当局のみが持つことにするという決定が明らかにされ、反発を招いている。
ヘブロンにあるマクペラ洞窟(族長たちの洞窟)、あるいはイブラヒミ・モスクは、アブラハム、イサク、ヤコブの墓所としてユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒のいずれにとっても、信仰の対象だ。ユダヤ教にとって第2の聖地、イスラム教にとって第4の聖地にあたる。
さらにイスラエル内閣の決定によると、パレスチナ自治政府が管理する地域において、環境問題や考古学的事項についての監督および執行権限も、イスラエル当局が持つことになる。
加えて、イスラエル国家が「自発的」にヨルダン川西岸で土地購入を行えるようにするための委員会を復活させる。これは「将来にわたる入植に向けて、土地備蓄を確保するための一歩」だと、内閣は説明している。
パレスチナ自治政府は、1993年のオスロ合意という画期的な和平合意を経て創設された。ヨルダン川西岸の約20%にあたるパレスチナ都市部(エリアA)を全面的に統治する権限を持つ。
同程度の広さのエリアBでは、パレスチナ自治政府には行政権のみが与えられ、イスラエルは安全保障の統制権を維持した。
イスラエルは、入植地が存在するヨルダン川西岸の60%(エリアC)について、安全保障と行政の全面的な統制を維持した。
占領下のヨルダン川西岸とイスラエルが併合した東エルサレムには、70万人以上のイスラエル人入植者が暮らす。この地域は、1967年の第3次中東戦争でイスラエルがヨルダンから奪ったもの。パレスチナ側は、ガザ地区と合わせてこの土地を独立国家の領土にする方針でいる。
トランプ政権は、ヨルダン川西岸のイスラエルによる併合を否定している。しかし、イスラエル人による入植地建設が加速しても、それを抑制していない。
スモトリッチ財務相は自分自身が入植者で、入植支持の政党を率いる。そして、ヨルダン川西岸の入植者人口を倍増させると誓っている。
イスラエル内閣は昨年、19カ所の新しい入植地を承認した。イスラエルはまた、「E1」と呼ばれ物議を醸している、エルサレム近郊の入植地計画について建設開始の準備を進めている。これが実施されれば、ヨルダン川西岸の北部と南部が事実上分断されることになる。
国連によると、2025年だけで3万7000人以上という記録的な人数のパレスチナ人が住む場所を追われた。同年はイスラエル入植者による暴力も過去最高だったという。
ネタニヤフ首相の連立与党に多く含まれる入植支持派は、ヨルダン川西岸が宗教的・歴史的に自分たちの土地だと主張し、イスラエルによる併合を望んでいる。
今年後半に選挙を控える首相は、パレスチナ国家の創設を決して容認しないと主張。パレスチナ国家はイスラエルにとって安全保障上の脅威になると繰り返している。
国連の最高司法機関にあたる国際司法裁判所(ICJ)は2024年、イスラエルによるパレスチナ領土の占領は違法で、終わらせるべきだとする拘束力のない勧告的意見を出した。