トランプが招く中東の混乱、なぜこうなるのか?英Economist誌の解説記事を批判的に読み解く(Wedge(ウェッジ))
Economist誌10月18日号の解説記事が、トランプ第2期政権は、歴代の大統領とは異なり、米国ができることに絞って中東政策を進めているが、結局、中東に混乱を招くだけかもしれないと論じている。要旨は次の通り。 歴代の米国大統領の多くが中東を無視しようとしてきた。しかし、中東を無視することは難しい。トランプ大統領は、中東を無視しようとはしなかった。 ガザの紛争に対して確かな仕事をした。彼が行ったガザの停戦は「永続的な和平」ではなかったが、ともかく実現した。 第1期政権で行った4カ国のアラブ諸国がイスラエルと国交樹立をしたアブラハム合意然りだ。トランプ大統領の支持者は、大統領が中東に対してユニークなアプローチ――外交に「取引」を持ち込んだ――をとったお陰だと主張する。 恐らく、これは部分的に正しいだろう。トランプ大統領の「予測不可能性」のお陰だという意見もある。しかし、主張が首尾一貫しない事は、必ずしも外交で長所とは見なされない。 大統領が1月のガザの停戦合意を維持させていれば、ガザの紛争は7カ月前に終わっていたであろう。しかし、その代わりに(ガザのパレスチナ人を追い出して)、ガザのリゾート開発を提案し、ネタニヤフ首相は、これを戦闘再開の許可と見なした。 つまり、トランプ大統領が中東で正しいことをしているのは、彼の個人的な資質のお陰ではなく、矛盾しているかも知れないが、大統領が米国のパワーの限界を理解しているからだ。大統領は米国をこの世界で圧倒的な巨人であると主張するが、中東では、そのように振舞っていない。大統領は、予測不能な事態に対して辛抱強く振舞っている。
トランプ大統領がイランの核施設への攻撃を命じた時、湾岸地域のアラブ産油国と同大統領の米国の支持者達は、その後のエスカレーションを恐れて攻撃に反対した。トランプ大統領もそのようなエスカレーションは予想していたが、国防総省が攻撃のダメージ評価を行う前に「イランの核開発能力は跡形も無く破壊された」と宣言して、イスラエルにイランへの攻撃を止めさせた。 こうして、この戦争は、果たしてイスラエルが作戦目標を達成したかどうか判明しないままに終わった。また、シリアでも、米国がシリア問題に関わり合うのを止め、シャラア暫定大統領の新政権が制裁解除の条件を満たすかどうか確認する前に制裁を解除した。 何十年間も、米国大統領は中東で抜本的な変化をもたらそうとして来た。そのためにイラク、リビア、イエメンでレジーム・チェンジを追求し、他の国々では民主化への圧力を掛けた。 しかし、トランプ大統領は第2期政権で、米国が中東で何ができるのか、できないのかについて現実的なアプローチをしている。ただし、その結果を過剰に吹聴している。 これまでの大統領は、今回のガザの停戦のような中途半端な停戦を以て和平が達成されたとは言わなかった。後世の歴史家も、和平が達成されたと見なさないだろう。 さらに、恐らく、6月のイスラエルと米国の空爆は、イランが密かに核武装する背中を押したことが判明し、シリアのシャラア暫定大統領は、結局、イスラム原理主義者の独裁者だったと分かるだろう。混乱を巻き起こすことがトランプ大統領の中東政策の強みかも知れないが、弱点かも知れない。 * * *