掃除機や水はNG?知っておきたい「餅を詰まらせたとき」の対処法とNG行為――交通事故より多い窒息死。2月に食べる縁起物も実は盲点(東洋経済オンライン)

■救命できても意識が戻らない  窒息は、食べものや異物などが気道に入り、空気の通り道が塞がれて呼吸ができなくなる状態を指す。  五十嵐さんの調査では、窒息で救急搬送された件数は、乳幼児と、80代を中心とした高齢者が多い。特に高齢者では、約半数が心肺停止状態で搬送され、「たとえ救命できても意識が戻らないなど、重い後遺症が残るケースも少なくない」と五十嵐さんは指摘する。  ■窒息事故はいつ多いか?   発生時期にも特徴があり、件数が最も多いのは1月1日。

 お正月には、特に窒息事故が集中し、1年間の餅による窒息事故の4分の1が三が日に集中して起きている(次ページの図。※外部配信先ではグラフを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。  餅を食べる機会が増えるだけではなく、家族で会話をしながら食べる、普段と違う環境で食事をする――こうした「ハレの日」特有の状況が、窒息リスクを高める要因となっているのだ。  ■誤嚥による窒息が高齢者に多い理由

 餅に限らず、食べものの誤嚥による窒息は高齢者に多いが、それにはさまざまな理由がある。  高齢になると入れ歯が合わない・歯が少ないなどで噛む力が落ち、飲み込む力も低下する。また、異物が入ったときに起こる咳の反射も弱くなるため、誤って入った食物を外に押し出す力が十分に働かない。  加えて、唾液の量が減ることで食べものが喉に詰まりやすくなるほか、薬の副作用、脳梗塞の後遺症、パーキンソン病などの疾患も食べものの飲み込みにくさを高めやすい。


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 食事中に突然声が出なくなる、急に動きが止まるといった異変にも注意が必要だという。  さらに恐ろしいのは、窒息が起きてから心停止するまでのスピードだ。  窒息が起こるとわずか5分で心停止に至ることもあり、救急車を待っているだけでは間に合わないケースも多く存在する。  総務省消防庁の発表によると、2024年度の救急車現場到着時間の全国平均は約10分。到着して救急隊員が処置を開始するまでの時間も考えると、到底間に合わない。

 つまり、救急要請するだけでよいのではなく、周囲の初期対応こそがとても重要となる。 ■窒息が疑われたときの対処法  五十嵐さんが推奨する、家庭での応急手当は次の通りだ。  ①咳をさせる  喉にものが詰まったか、声が出るかを確認し、窒息が疑われた場合、まず咳をさせて異物の排出を試みる。声が出ない、咳ができない、咳をしても取れない場合は直ちに②へ。  ②大声で助けを呼び、119番通報  スマホはスピーカーモードにし、通報と処置を並行するとよい。

 ③背部叩打(こうだ)法(5回)  肩甲骨の間を手のひらの付け根の部分で力強く叩き、異物を吐き出させる。  ④腹部突き上げ法(5回)  背部叩打法で改善しない場合に実施。背後から手を回し、握りこぶしでみぞおち下から手前上方に向けて圧迫するように突き上げる。※妊婦、1歳未満の子どもには行わないこと。  ⑤反応がなくなったら胸骨圧迫(心臓マッサージ)  意識がなくなった場合は、ためらわずに胸骨圧迫を開始する。 詳しくは政府広報オンラインの「餅による窒息に要注意! 喉に詰まったときの応急手当は?」 を参照するとよいそうだ。

 幸いに異物が出た場合も安心はできない。  「誤嚥性肺炎のリスクや、呼吸をしていない間に起こる脳への損傷、応急手当による肋骨・臓器へのダメージの可能性を確認するため、必ず医療機関を受診してください」と五十嵐さんは言う。  反対に、“餅を詰まらせたときにやってはいけない方法”についても聞いた。  やってはいけないのは、まず指を入れて取り出そうとすることだという。異物が見えないのに口の中に指を入れると、詰まっている食べものがさらに喉の奥へと押し込まれ、状況を悪化させてしまうおそれがあるためだ。


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 若い人だと万が一詰まらせても吐き出す力があるため、窒息まで至らないが、高齢者だとそれが難しいというわけだ。 ■餅だけじゃない! 危険な食品  ところで、なぜ餅は詰まりやすいのか。  五十嵐さんによると、餅は粘り気が強く、少量でも喉に引っかかりやすい。また、温度が高いうちは柔らかいが、温度が下がってくると硬くなり粘り気が増してくるため、特に詰まりやすくなるという。お正月にお雑煮を食べる際は、こうした温度変化にも注意が必要だ。

 しかし、窒息リスクのある食べものは、餅など粘り気のある食品だけではないともいう。  食べる機会の多い主食の米やパンなどのほか、タコやイカ、肉、にんじん、りんごなどの硬い食品、こんにゃくゼリーやあめ玉など、丸くてつるりとした食品にも注意が必要だ。  また、ホットドッグ(パン+ソーセージ)や寿司(米+生魚)など、硬さや食感の異なる食材が組み合わさったものは、噛んだり飲み込んだりしづらく、一口量も大きくなりやすいため喉に詰まりやすいという。

 行事食で注意したいのが、節分の恵方巻きや豆だ。  「恵方巻きには、無言で一気に食べるという慣習がありますが、この食べ方は特に危険。
具材が詰まった太巻きを一気にほおばることに加え、のりも噛み切りにくく、窒息を招きやすい。豆も子どもが上に放り投げて食べる遊び食べをすると、気管に詰まるおそれがあります」(五十嵐さん)  実際に、これらが原因となった死亡例も報告されているという。 ■驚くほど静かに起こる「窒息」

 では、餅を詰まらせた場合、どうしたらいいか。  まず、窒息したらどんな行動をとるか、正しく理解することが大事だ。というのも、一般に窒息というと、呼吸苦がありバタバタと激しく苦しむ姿を想像するが、「現実は暴れるとは限らず、驚くほど静かに進む場合も多いのが、窒息の最大の怖さです」と五十嵐さん。  窒息の最もわかりやすいサインは、首元に手を当てるような、喉をつかむような動作。これは“チョークサイン”と呼ばれ、世界共通の窒息のサインといわれている(下のイラスト参照)。


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 同様の理由から、無理に飲み込ませようと、水を飲ませることも推奨できない。  では、よく映画や漫画で出てくる、掃除機で吸う方法はどうなのか?   「ガイドラインには記載されておらず、第1選択としては推奨されません。ただ、実際に掃除機で救命につながった例は存在します。体力がない高齢者が紹介した方法を行えない場合など、何もしないよりは有効であると考えられます」(五十嵐さん) ■予防のコツ「一口サイズを知る」

 餅による窒息は完全には防げないものの、工夫次第でリスクを大きく下げることは可能だ。五十嵐さんは予防の3つのポイントを挙げる。  ①一口の大きさを小さくする  食べもののサイズは「板チョコ1かけ程度」を目安にすると、気道の完全閉塞を起こしにくく、咳で排出されやすくなる。餅は小さく切るか、介護用の餅を選ぶのも有効。  ②食べる前に水分を摂る  水分不足は喉の詰まりを引き起こしやすくなるので、食べる前に水やお茶などを飲んで、喉を潤しておく。

 ③食事中の会話は控えめに  特に、高齢者と子どもは会話中に誤嚥しやすいので、食べることに集中し、しっかり飲み込んでから話すようにする。  1人暮らしの高齢者が食事中に窒息すると、誰にも気づかれず、致命的になる場合がある。リスクのある食べものは、できるだけ誰かと一緒に食べるようにしたい。  窒息は突然起こり、短時間で重症化する。しかし、正しい知識と応急手当を知っているだけでも、救命率は大きく高まる。  年末年始や行事のときは、家族や友人と食卓を囲む機会が増える。楽しい時間を守るためにも、窒息に対する理解と備えをあらためて確認したい。

田中 絢子

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