スマホと子どもの脳の深刻な関係 「学力が大きく低下する」驚きの結果

解析した結果は図5─1です。このグラフの見方なのですが、まず家庭学習を「全くしない」「30分未満」「30分〜1時間」「1〜2時間」「2〜3時間」「3時間以上」の6群に分けて、次に、それぞれの群においてスマホ・タブレットの1日の使用時間を「1時間以上」と「1時間未満」で分けています。棒グラフの高さは偏差値の数値を示しています。対象の教科は、国語・算数・理科・社会の4教科です。 このグラフを見て最初に気づくのは、全体的に右肩上がりだということです。やはり、家庭での勉強時間が長いほど成績が良いことがわかります。次に、スマホ・タブレットの使用が1時間以上の子どもたちと、1時間未満の子どもたちとの学力には、大きな差があるということにも気がつきます。 驚くのは、端末の使用が1時間未満(機器を所有していない場合も含む)の子どもたちは、全く勉強しない群でも偏差値50、つまり平均点に届いていることです。 その一方で、スマホ・タブレットを1時間以上使う子どもたちが平均点に到達するのは、家庭学習を「1〜2時間」している群から上です。 「2〜3時間」の群を見ても、スマートフォンの使用時間が短い子どもたちはかなり良い点が取れているのに、1時間以上使っている子どもたちはほぼ平均点しか取れていません。家庭で毎日2時間も3時間も勉強するのはとても大変だと思いますし、かなりまじめな子どもたちだと思われますが、学習効果がうまく出ていないのです。

どうして、スマホ・タブレットを1時間以上使うと、学習効果が得にくくなってしまうのか。私たちが考えた仮説の一つはこうです。スマホ・タブレットの長時間使用は、間接的に子どもの睡眠時間を短くして、結果的に睡眠不足によって学力の伸び悩みが生じるのではないか。つまり、スマホ・タブレットの間接的な影響を疑ったのです。 文部科学省のデータなどから、睡眠時間の短い子どもは学力が低いという傾向があるとわかっています。そのことを踏まえて、改めて睡眠時間を加味した解析をしました(図5─2)。 この図を説明しますと、左側のグラフはスマホ・タブレットの端末使用時間が「1時間以上」の群で、右側が「1時間未満」の群です。横軸は、家庭での学習時間を6つに分けた群が並びます。そして、奥行きは睡眠時間の長さで分けた群です。1時間刻みで分けていて、一番手前が「5時間未満」、その次から「5〜6時間」「6〜7時間」「7〜8時間」「8〜9時間」「9時間以上」となっています 家庭学習時間の6群と睡眠時間の6群の掛け合わせになるので、合計36群に分かれます。棒グラフの高さは、先のグラフと同じく、学力テストの偏差値の数値を示しています。高いほど成績が良いことになります。 では、まず左側のスマートフォンなどの使用時間が毎日「1時間以上」の子どもたちから見ていきましょう。全体の傾向として右肩上がりではありますが、その度合いがあまり大きくありません。また、奥行き方向を見ると、手前になるほど低くなっています。 偏差値50、つまり平均点を超えている群はどこにいるでしょうか。1時間以上の家庭学習をしていて、睡眠時間が6〜9時間の子どもたちだということがわかります。つまり、この36群の棒グラフは、勉強時間が長いほど成績は良く、睡眠時間が短いほど成績は低いということを示しています。 ただ、一番奥の列を見ると、学力が少し下がっていることがわかります。睡眠時間が極端に長い子どもたちは学力が低くなっています。この傾向は以前から文科省のデータなどで指摘されているところです。一つの推測は、子どもの睡眠の質が悪い環境があって、長時間睡眠をとらないと身体がもたないというものです。 では、スマートフォンなどの端末の使用が「1時間未満」の子どもたちを見ていきましょう(グラフ右側)。大づかみで言うと、全く勉強をしない子どもたちと、睡眠時間が5時間未満の子どもたちを除いて、ほとんどの子どもたちが平均点を超えています。この解析結果には、正直、驚かずにはいられませんでした。 私たちは、この結果の因果関係を知るために、「パス解析」という手法を用いました。私たちが想定した経路(パス)は3つです。 ①スマホ・タブレットを使うことによって学習時間が減って学力が低くなる ②スマホ・タブレットを使うことによって睡眠時間が減って学力が低くなる ③スマホ・タブレットを使ったことによって直接的に学力が低くなる この3つの経路について調べたところ、統計的に一番影響が強く出た経路は③のスマホ・タブレットなどの使用そのものによる直接的な経路でした。この解析結果を見て、私たちはさらに驚きました。睡眠時間や学習時間とスマホ・タブレットの間には直接的な関係がなく、スマホ・タブレットを使うこと自体が学力を大きく低下させていたという関係が見えてきたのです。

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