ゲインズJAPAN「世界からのリスペクトを取り戻す戦い」の全貌…アジアカップ準優勝も確かな手応え
6時間前
手応えと課題を持ち帰り、コーリーJAPANは次に進んでいく [写真]=fiba.basketball
目次
ToggleFIBA女子アジアカップ2025で7大会連続の決勝進出を果たしながらも、オーストラリア代表(FIBAランキング2位)に惜敗し準優勝に終わったバスケットボール女子日本代表チーム(同9位)。7月22日、帰国したチームは都内でメディア対応を行い、コーリー・ゲインズヘッドコーチが今大会の総括と今後の展望について語った。優勝という最大の目標は逃したものの、その表情には新チームの確かな成長への自信と、未来への期待が満ち溢れていた。
予定時間を大きく超えた約30分の会見。ゲインズHCは時に熱く、時に丁寧に、今大会だけでなく、大会前の準備から語り尽くした。会見の冒頭では、選手だけでなく、コーチングスタッフからマネージャー、トレーナー、チームリーダー、ゼネラルマネジャーに至るまで、チームに関わる全ての関係者の名前を一人ひとり挙げ、丁寧に感謝の言葉を述べた。恩塚亨前HCから引き継ぎ、新たな「コーリーJAPAN」が始動してからわずか2カ月。この短い期間でチームが遂げた進化の裏には、多くの人々の支えがあったことを強調した。
「このチームは私一人で作っているのではない。全員が一つの家族だ」。その言葉通り、チーム全体の結束力こそが今回の躍進の原動力であったと語った。
■若手の育成は「目標達成」
今大会に臨むにあたり、二つの大きな目標を掲げていた。一つは「育成」、もう一つは「優勝」である。
まず「育成」という点において、「この目標は達成できた」と明確に述べた。特に名前が挙がったのが、田中こころと薮未奈海。田中については、ENEOSサンフラワーズでは2番(シューティングガード)でプレーしていた彼女を、代表では1番(ポイントガード)にコンバート。国際大会という大舞台で、しかもわずかな準備期間で新しい役割に適応させ、チームをけん引させた。「彼女に非常に厳しい要求をした。それはタフ・ラブ(厳しい愛情)だ」と振り返る。一つひとつのプレーに対して細かく指示を出し、常に高いレベルを求めた。その厳しい指導に対し、田中は前向きな姿勢で応え、見事に大役を果たした。
薮に対しても、実戦を通じた成長を強く促した。ディフェンス、オフェンス両面で多くを要求し、彼女のプレースタイルそのものを変えるよう求めたという。二人にとって、この経験は計り知れない価値があったはずだ。「彼女たちはまだポテンシャルの頂点に達していない。学ぶべきことは多いが、この大会を通じて素晴らしい選手へと成長した」と目を細めた。
育成の部分で田中(左)と薮(右)の成長を評価した [写真]=fiba.basketball
しかし、もう一つの目標であった「優勝」は達成できなかった。その責任については「全て私の責任だ」と断言。特に予選リーグでのオーストラリア戦の敗戦を挙げ、「私がミスを犯した。しかし、そのミスは修正可能だ。次に戦うとき、我々は全く違うチームになっているだろう」と力強く語った。
植え付けようとしているバスケットボールは、極めて緻密で、スピーディーなものだという。その象徴が「コミュニケーション」と、それを支える「ハンドシグナル」である。日本語を確実に話せない指導者は、約70種類ものハンドシグナルを用いて選手に指示を送る。例えば、腕時計をタップすれば「ディレイ(遅延)」という名のセットプレー、足を踏み鳴らせば「ステップアップ(スクリーン)」など、複数のシグナルを組み合わせて瞬時に戦術を伝える。WNBAで優勝した際にも用いたこのシステムは世界のトッププレーヤーでも理解するまでに1年を要したというが、代表選手たちはわずか2週間半でマスターしたという。「日本の選手たちは非常に賢く、驚くべき速さで適応してくれた」と称賛した。
ディフェンス面では、1-3-1ゾーンプレスから3-2ゾーン、そしてマンツーマンへと目まぐるしく変化する「チェンジングディフェンス」を導入。これもまた、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)での合宿当初は課題が多かったが、大会を通じてチームの大きな武器へと進化した。
■周到な「中国対策」と悔しさ残る決勝戦
帰国後のメディア対応で熱く語ったゲインズHC [写真]=バスケットボールキング
今大会のハイライトの一つが、準決勝での中国(同4位)戦の勝利だろう。この試合に向けて、周到な準備を行っていたことを明かしている。大会前に行った中国遠征は、単なる強化試合ではなく「リコン(偵察)ミッション」であったという。敵地で相手の戦術や個々の選手の特徴を徹底的に分析し、NTC合宿の段階から中国を倒すための練習に多くの時間を割いた。その結果、本番では相手の高さをものともせず、日本のスピードと組織力で圧倒することに成功した。「全ての選手が自分の役割を完璧に果たしてくれた」と選手たちを称えた。
一方で、決勝で敗れたオーストラリア戦は、チームにとって大きな教訓となった。予選リーグでの敗戦の責任を自ら負い、決勝ではその修正に臨んだ。第4クォーターには同点に追いつくなど、成長の跡は見せたものの、あと一歩及ばなかった。「言い訳はしない」と前置きした上で、「選手たちは疲れていた。3日間で3試合目という厳しい日程だった」と選手たちを労った。そして、「これもバスケットボール。しかし、この敗戦から選手も私も多くを学んだ」と語り、次なる戦いへの糧とすることを誓った。
「この大会を通じて、我々は世界からのリスペクトを取り戻し始めたと思う。人々が我々に注目し始めている」。チームが得た最も大きな収穫は、世界のバスケットボール界における日本の評価を取り戻したことだと語った。そして、ファンに向けてこうメッセージを送った。
「どうか、辛抱強く見守っていてほしい。次に皆さんの前に現れるとき、我々はもっと良く、もっと速く、もっと強くなっている。今大会で見つかった課題は全て修正する」
最後に、現地まで応援に駆けつけてくれた12人から15人ほどのファンに気づいていたことを明かし、「彼らのエナジーが力になった。空港でも感謝を伝えたが、本当にありがとうございました」と日本語で感謝の言葉を述べ、会見を締めくくった。優勝は逃したものの、「コーリーJAPAN」の船出は、未来への大きな希望を抱かせるものとなった。この悔しさをバネに、チームはさらなる高みを目指す。次の公式戦は来年の3月開催予定のFIBA女子ワールドカップ2026(ドイツ大会)の予選となる。
文=入江美紀雄