「疑惑を葬るのか」…斎藤元彦知事「漏えい指示疑惑」と兵庫県新要綱の奇妙な符合 元テレビ朝日法務部長が指摘
斎藤元彦兵庫県知事の問題を報道機関などに告発した元西播磨県民局長が、自ら命を絶ったのは昨年7月だった。斎藤知事を巡っては今年もさまざまな問題が指摘される中、兵庫県は今月24日、公益通報への対応を定めた要綱を改正し元県民局長が行ったような「外部通報」も保護するなどと明文化した。だが、元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士はこの要綱に「気になる条文」があると指摘している。 【画像】斎藤知事との2ショットも…PR会社の女性社長による実際の投稿 異様な条文だった。斎藤知事の公益通報対応が問題視された兵庫県が、公益通報に関する「要綱」の改正を発表。県庁外部への公益通報も保護するという改正内容が大きく報じられたが、その要綱を読んで気になった点が一つある。 それは知事が通報を「受理しない」場合についての条文だ。 要綱には知事が通報を調査することなく「門前払い」できる場合についての規定がある。その中には「通報内容が不明確な場合」など一般的な定めもあるが、それ加えてこの要綱には、次の場合も告発を受理しなくてよいという条文がある。 「過去の事案であり、当時の事実関係を調査する手段が存在しない場合」「既に当該事案について適切な対応が完了している場合」 この条文を見て私は「今年6月の斎藤知事の答弁と似ている」と感じた。「斎藤知事が部下に情報漏えいを指示したのではないか」という疑惑が浮上したときの知事答弁と、要綱の条文の内容が、重なり合っているように思えるのだ。 週刊文春は昨年7月、「兵庫県知事・斎藤元彦(46)パワハラ告発 元局長を自死に追い込んだ『7人の脅迫者』」と題し、知事側近の県総務部長(当時)が、知事の疑惑を告発した元県民局長の「プライバシー情報」を県会議員らに漏えいしたと報じた。この問題を調べた県の第三者調査委員会は、今年5月に報告書を公表して元総務部長の情報漏えいを認定。だが、それだけではなかった。元総務部長らが「漏えいは斎藤知事らの指示でやった」と第三者委に証言したのだ。知事が部下に情報漏えいを指示したとしたら、地方公務員法違反として1年以下の拘禁刑になりうる重大疑惑。ところが、斎藤知事は「知事の指示」について更なる調査をしようとせず、元総務部長だけ停職3か月にして幕引きを図った。これに疑問を呈された斎藤知事が6月の会見で行ったのが、次のような答弁だ。 「県としては、私としてはもうこの件については、元総務部長の懲戒処分にあたって、必要な調査、必要な対応というものは終えたというふうに考えておりますので、追加の調査などする予定はありません」 記者から「知事の指示」について調査が必要だと指摘されても、斎藤知事は「元総務部長の懲戒処分というものが、今回決したということになりますので、対応としてはこれで終えているということですね」と繰り返す。斎藤知事は「過去」の情報漏えい指示疑惑について、元総務部長を「すでに処分」したことを理由に「終わったこと」にしようとしたのだ。 この「情報漏えい指示疑惑」を終わらせようとする斎藤知事の姿勢と、今回兵庫県が発表した公益通報に関する要綱の条文は、奇妙に重なり合っている。県の要綱では「過去の事案」は調査の手段がないと言えば告発を受理せずに済み、「既に適切な対応が完了している」と言えば告発を門前払いできる。なぜ、調査に着手もせずに「調査する手段がない」とか「その件についての対応は適切だった」と断定できるのか大きな疑問が残る条文だ。だが一方で、疑惑を幕引きしたい場合には「利用」しやすい規定といえる。この条文は斎藤知事の「情報漏えい指示疑惑」についても、新たな通報や情報提供を封じる武器に使われうるのではないのか。 「知事の情報漏えい指示」を証言した元総務部長は、停職期間が明けると年間1200億円を超える売上を誇る兵庫県競馬組合の副管理者に就任、その後疑惑に関して一切発信していない。斎藤知事は、漏えい指示疑惑の真相を曖昧にしたまま「知事給与3か月カット」で幕引きを図る条例案を提出した。こうした一連の動きは「情報漏えい指示疑惑」を未解明のまま葬り去ろうとするものに思える。だが、告発者の私的情報をさらして告発を封じる行為を「知事が指示」したかどうかは、あいまいに済まされてよい問題ではないはずだ。 兵庫県ではこの1年、様々な問題が浮上し、その多くが解決されないまま年末を迎えた。まもなく年が明けるが、必要なのは未解決の問題から目を背けず、真相解明を諦めないことではないか。そう思いを新たにしながら新年を迎えたいと思う。 □西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
西脇亨輔