「バカな登山者を私たちの血税で助ける」構図は変えられない…「救助ヘリの有料化」ができない法的事情(プレジデントオンライン)

閉山中の山に軽装で登った登山者が遭難して救助される事例が相次いだことから、救助費用の自己負担を求める声が高まっている。ジャーナリストの小林一哉さんは「有料化には法的な壁に加え、仮に有料化できたとしてもさまざまな運用上の支障をきたす恐れがある」という――。 【画像】防災ヘリの有料化検討を指示した鈴木知事 ■静岡、山梨が「救助有料化」を検討  静岡県の鈴木康友知事が5月22日、閉山期の富士山での防災ヘリによる遭難救助の有料化を検討するよう関係部局に指示した。  山梨県が地元自治体からの要望を受けて、防災ヘリの遭難救助の有料化の検討をスタートさせたことで、静岡県も足並みをそろえることになった。  鈴木知事は5月13日の定例会見で、「法律で(山岳などの)遭難救助は無料で行うことになっている。国で課題を整理して、まずは国でしっかりと検討してもらいたい」などと富士山の遭難救助の有料化に否定的な考えを示していた。  ことしから富士山では、静岡、山梨両県で、そろって1人4000円を徴収する入山規制がスタートする。ご来光を仰いだあと、その日のうちに下山する無謀な「弾丸登山」への対策を盛り込んだ入山規制に重点を置いたものだ。 ■有料化はできない公算が高い  富士山の防災ヘリの遭難救助については、静岡、山梨両県で相互に支援する協定を結んでいる。このため閉山期の富士山での遭難救助の有料化についても、とりあえず静岡県も山梨県と歩調を合わせて検討をすることになった。  ただ法律の縛りだけでなく、静岡、山梨の両県では事情がまったく違い、遭難救助の有料化には非常に多くの課題が山積する。  一部新聞で、山梨県は9月県議会に条例案の提出を目指すと報道されたが、実際には、両県とも課題を整理するだけで、今回の検討を終える可能性が高いとみられる。

■「有料化検討」で伝えたいメッセージ  富士山での防災ヘリ遭難救助の有料化の背景には、平地と山頂の気温差が20度以上もある富士山の過酷な自然環境をまったく承知しないで、安全装備や体調管理などを怠り、気軽に登山する人が多いことにある。  夏山シーズンでは単なる疲労などで体調を崩して、山岳救助隊への出動要請をすることが頻繁にある。  閉山期の冬山となれば、山頂付近は雪交じりの強風が吹きすさび、マイナス10〜20度前後の厳しい環境となり、救助要請を受けた山岳救助隊が事故に巻き込まれる恐れもある。  周囲の迷惑を顧みない無謀な登山者たちへの対応をどうするかが喫緊の課題だが、遭難救助に自己負担を求める以外に何らかの有効な手段が見つからないのが現状である。  防災ヘリの遭難救助の有料化検討で、登山者らに富士山の危険性をあらためて伝えたいのが本音だろう。 ■1週間に2度救助された中国人留学生の呆れた言い分  静岡県富士宮市、御殿場市、山梨県富士吉田市の市長らが遭難救助の有料化を訴えたのは、中国人大学生の2度にわたる無謀な登山が多くの批判を浴びたことがきっかけである。  大型連休に入った4月26日、富士山8合目付近で「男性が倒れている。すり傷もある」などと付近にいた登山者から警察に救助要請があった。  静岡県防災ヘリと県警山岳遭難救助隊が出動したが、強風が吹きすさび、防災ヘリでの収容はできず、マイナス10度を下回る悪天候の中、陸路でたどり着いた同救助隊が高山病の男性を無事救助した。  27日未明、同救助隊が富士山スカイライン5合目まで担架で搬送、富士宮市消防本部の救急隊に引き継いだ。  この遭難者は中国人大学生(27)で、4日前の22日にも「滑り止めのアイゼンを紛失して下山できない」などと富士山頂付近から119番通報があった。  静岡県防災ヘリが点検中だったため、協定に基づいて山梨県防災ヘリが出動、大学生を救助した。  当時、5合目から上の登山道は閉山中であり、大学生は登山計画書を提出していなかった。冬山装備をそろえていたが、アイゼンを紛失するなど富士山の危険性を過小評価していた。  再び救助された際、「携帯電話の入ったバッグを置き忘れたので再び入山した」というあまりに無責任な発言もあり、多くの非難が浴びせられることになった。  気軽に救助を求めたが、民間ヘリを使った救助ならば50万円程度の費用負担があり、また民間のレスキュー隊が出動すれば、隊員1人当たり5万円程度の費用が必要となる。生命が助かったのだから、100万円でも安いのかもしれないが、当然、すべて無料である。

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