自動車への追加関税2か月、日本勢の駆け込み需要に陰り…値上げ巡り神経戦が本格化か
米国が輸入自動車への追加関税を発動して2か月が経過した。現地では4月以降、将来の値上げを見据えた駆け込み需要が発生し、日本勢の追い風となっているが、一部ではその反動減も出始めた。今後は日本勢も値上げの判断を迫られそうだ。(浮田梨奈、ニューヨーク支局 小林泰裕)
早くも一転
米ロサンゼルス近郊にあるマツダの販売店(1月)=奈良橋大輔撮影トヨタ自動車が3日発表した5月の米国の販売台数は、前年同月比11%増の24万176台だった。ホンダも7%増の13万5432台で好調を維持した。韓国の現代自動車も前年同月を上回った。
米国では、トランプ政権が4月3日に輸入自動車への25%の追加関税を発動したことを受け、自動車メーカーが値上げする前に新車を購入しようとする駆け込み消費が広がっている。米国で新車を販売する国内6社の4月の販売台数は、8・7%増の計54万台だった。
ただ、早くも反動減も出ている。マツダは4月の米国販売が、2004年以降で4月として最高の3万7660台(21%増)となったが、5月は19%減の2万8937台に落ち込んだ。毛籠勝弘社長は5月の記者会見で「駆け込み需要は収まり、どこかで買い控えの動きが来る」と懸念を示していた。
7月目安
日本勢の多くはこれまで、関税発動前に現地で積み増した在庫を中心に販売してきた。しかし、関税発動から2か月が経過し、関税のコストがかかった車両の比重が増えている。米国が4日、輸入する鉄鋼・アルミニウム製品に対する50%の追加関税を発動したことで、さらにコストが増す懸念が強まっており、夏場以降はメーカー間で値上げを巡る神経戦が本格化しそうだ。
【一覧】米国の追加関税発動後の自動車大手の価格対応海外勢ではすでに、米フォード・モーターがメキシコで生産し、米国で販売する車種の価格を最大2000ドル(約30万円)引き上げた。現代自動車は米国で販売を行う全車種を値上げする方針という。
日本勢は、米国への依存度が高いSUBARU(スバル)が値上げしたものの、他社は市場の動向を見ながら様子見を続けている。自動車大手幹部は「(値上げを)先走っても売れなくなるだけ。ライバルの動きを見てから決める」と話す。
各社が価格を据え置いているのは、日米の政府間交渉の動向を見極めようとしているのも大きな要因だ。今月に山場を迎える協議が不調に終われば、各社が「我慢比べ」(大手幹部)に耐えられなくなる可能性もある。
調査会社S&Pグローバル・モビリティーの西本真敏氏は「日本勢は日米交渉の結果を待っている状況だ。値上げ動向は、7月が一つの目安になる」と指摘する。
関税交渉 加速促す書簡…トランプ政権、全ての相手国に
【ワシントン=田中宏幸】米国のトランプ政権は3日、関税措置を巡って交渉する全ての貿易相手国に対し、交渉の加速を促す書簡を送ったことを明らかにした。ロイター通信によると、4日までに「最善の交渉案」を提出するよう各国に求めたとしている。米ホワイトハウスのキャロライン・レビット大統領報道官が3日の記者会見で明らかにした。レビット氏は、米通商代表部(USTR)が各国に書簡を送ったと説明し、「交渉期限が迫っていることを友好的にお知らせするものだ。大統領が良い合意を期待していることや、その実現に向けて順調に進んでいることを改めてお伝えした」と述べた。
ロイターによると、米国は工業製品と農産物の購入に関する関税や関税割当枠に加え、非関税障壁の是正などについて最善の提案を示すよう求めている。デジタル貿易や経済安全保障に関する要求も含まれていると報じている。