トランプ流ディールの極意不発-ロシア・中国・イラン指導者なびかず
トランプ米大統領はかねて、世界の強権的指導者とディール(取引)をまとめる自身の手腕を豪語してきた。こうした指導者への敬意を明言してやまないトランプ氏だが、これまでのところ目立った効果に乏しいのが現実だ。
トランプ氏は過去48時間だけでロシアと中国、イランの指導者に袖にされた。いずれも昨年の米大統領選でトランプ氏が早急に合意をまとめると公約していた国々だ。ウクライナでの戦争終結や中国の習近平国家主席との貿易合意、イランとの核合意に向けた取り組みはどれも成果を上げていない。
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トランプ氏は4日未明の自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「習主席のことは好きで、これからもそうだが、交渉するには彼は極めてタフな相手だ」とラブコールを送った。
その数時間後にロシアのプーチン大統領とウクライナ問題で電話会談したトランプ氏は「直ちに和平につながるようなものではなかった」と認めた。
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一連の世界的課題を解決する唯一の方法はトランプ氏自身の直接的な関与だと、同氏やその側近は繰り返し述べてきた。だが、トランプ氏のSNSの内容はこうした主張とは相いれないものだ。ロシアや中国の指導者が予想ほど簡単には譲歩しないという現実にトランプ氏は直面している。
トランプ氏はこれまで、ニューヨークの不動産業界という熾烈(しれつ)な競争の世界で鍛え上げられた抜け目なさと強硬さを武器に、前任者にはできなかった方法で習氏やプーチン氏のような指導者たちに立ち向かうことができると米国の有権者や世界に約束していた。
アラブ首長国連邦(UAE)など米国の一部の同盟国は、大規模な投資の約束によって忠誠を保っている。一方でトランプ氏は、エルサルバドルやパナマなどの国には、圧力をかけたり歓心を買ったりすることで影響力を確保している。
ワシントンの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)上級研究員のコリ・シェイク氏は「大統領が強硬な態度に出られるのは、米国との関係悪化を望まない友好国であり、一方で米国の敵対国はそのリスクをいとわず、むしろ喜んで受け入れる傾向にある」と話した。
トランプ氏は対ロシア制裁強化の可能性を事実上排除しており、4日のSNS投稿では、週末にウクライナによるロシアの空軍基地へのドローン攻撃があったことを受け、プーチン氏が報復する権利を持つという主張を認めるかのような姿勢も見せた。
米国はまた、イランの核兵器取得を阻止しようとしているが、最高指導者ハメネイ師は4日、米国が提示した核合意案を批判し、同国にウラン濃縮の停止を求める米政府当局者を「傲慢(ごうまん)だ」と非難した。
そしてトランプ氏は、中国に対する交渉の切り札の多くを失っている。中国は自動車用バッテリーや携帯電話に必要不可欠なレアアース(希土類)の輸出規制を強化。一方で中国は、貿易関係強化の機会があるとみて欧州に関心をシフトさせている。
貿易戦争が中国に壊滅的な結果をもたらすというトランプ氏の確信とは裏腹に、習主席の指導部は形勢を逆転させている。レアアースの輸出規制を通じて米国の主要産業を締め付ける一方で、米国の関税引き上げや技術規制の強化、アジア太平洋の同盟国・地域を対中包囲網に組み込もうとするトランプ政権の動きに耐えようとしている。
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シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)米国プログラムのディレクター、ジェレミー・シャピロ氏はトランプ氏について、必ずしも権威主義的で強権的な指導者を好んでいるわけではないと分析する。
ただ、トランプ氏はこうした指導者たちとの方が「うまく意思疎通ができ、敬意を抱いている。このため、彼らに対して脅しをかけることや、不平等な取引を強いることには一層慎重になる」とシャピロ氏は解説した。
米政府当局者はロシアへの対応について、バイデン前政権が制裁を科す戦略を取ったものの、戦争を終わらせるには至らなかったとし、現在は新たなアプローチを模索していると話す。それでも一部の指導者たちは、トランプ氏がこれまで示唆してきたように、この紛争から手を引こうとしているのではないかとの懸念も抱いている。
トランプ氏は自身が譲歩しているとの見方にいら立ちを示している。「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも尻込みする)」の頭文字を取った「TACO」と呼ばれる投資家の間の新たな造語について、記者団から先週問われたのに対し、「これは交渉というものだ」と答えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「世界がプーチン氏の脅しに弱腰な反応を示せば、それは彼にとって自らの行動に目をつぶってくれる意思表示と映る」とSNSに投稿。「彼が力強さも圧力も感じず、弱さだけを感じた時、さらに多くの犯罪を行う」と批判した。
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原題:Trump Stymied in ‘Art of the Deal’ Approach to World’s Strongmen(抜粋)