トランプ氏ガザ和平案、イスラム世界から支持-ハマスに受け入れ圧力
パレスチナ自治区ガザでの戦闘終結に向けたトランプ米大統領の新たな提案は、イスラム組織ハマスに対する事実上の最後通告だ。人質を解放し、武器を捨てて降伏せよ、でなければ米国の全面的な支持を受けたイスラエル軍の猛攻撃に直面することになると迫る内容だ。
ハマスが提案を拒否すれば、イスラエルが「全てをやり尽くすことを全面的に支持する」とトランプ氏は発言。80万人のパレスチナ人が避難したガザ市の中心部には、いまやイスラエル軍の兵士や戦車が進軍している。
ある意味、提案に真新しさはない。戦争を通じ、ハマスが繰り返し拒んできた内容だからだ。
イスラエルは過去2年の大半の期間、ハマスが人質を返還して武装を解除し、他国に亡命すれば、戦争は明日にでも終わると主張してきた。今回の提案には、世界の多くが支持するパレスチナ国家の速やかな承認も含まれていない。
ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と行った共同記者会見でトランプ氏が発表した20項目から成る計画には、新たな要素も確かにある。武器を引き渡し、共存を確約するハマス工作員には、恩赦を与えると約束している点がその一つだ。
また、トランプ氏はガザ住民を国外に移住させる考えを引っ込め、壊滅的な利害を受けたガザの復興に多額の支援と国際的な関与を提案した。
金融市場では停戦成立への期待感が高まり、29日にイスラエル・シェケルは対ドルで3年余りで最高の水準に上昇。30日にイスラエル株の代表的な指数は過去最高値を更新した。
ここで焦点となるのは、ハマス指導部が十分に弱体化し、長く拒否してきた提案をついに受け入れなければならないと感じるほど追い詰められているかだろう。米国と欧州連合(EU)がテロ組織に指定するハマスは、自らをイスラエル破壊を使命とする抵抗運動と位置づけている。
トランプ氏は30日、2023年10月7日のイスラエル攻撃以降にハマスは、重要な幹部を何度も殺害されるなど「大きな代償を払った」と記者団に主張し、今回の提案が受け入れられる可能性は高まっているとの見方を示した。一方で、ハマスには「およそ3-4日」のうちに決断を下すよう要求した。
「我々の要求は非常に単純だ。人質の即時返還と、誠実な対応を求めている」とトランプ氏は述べ、「ハマスがそれをするかしないかだ。しないのなら、結末は非常に悲しいものになる」と続けた。
エジプト国営放送局アル・カヘラが安全保証当局者の情報として伝えたところによると、同国とカタールの和平仲介役は米国の提案をハマスに手渡した。ハマスはまだ、受け入れの可否を明らかにしていない。
関連記事:ハマス、トランプ氏のガザ和平案「誠実に」検討へ-カタール外務省
伝統的にハマスに同情的な姿勢を取ってきたカタールとトルコは、トランプ氏の提案を戦争終結に向けた前向きな一歩として評価する声明を発表した。この声明には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などイスラム諸国数カ国も署名しており、ハマスに受け入れを求める圧力が高まることが示唆される。
米政府によれば、ネタニヤフ氏は29日、カタールのムハンマド首相に電話をかけ、ハマス幹部を殺害するため8月にドーハにミサイル攻撃を仕掛け死者が発生したことに「深い遺憾の意」を伝えたという。これは地域諸国の協力を取り付けるためトランプ氏が働き掛けたとされる。
大西洋評議会で中東政策を専門とするジョナサン・パニコフ氏は、「今までと根本的に異なるのは、アラブ世界だけでなくイスラム世界全体の指導者が提案の大枠に賛同し、一致して戦争終結への圧力をハマスにかけそうなことだ」と指摘した。
和平の障害
米国務省をガザ政策を巡る抗議のため辞職し、現在はクインシー・インスティテュートの研究員を務めるアネル・シェライン氏は、米国が「ハマスの拒否を予想」している可能性もあると論じた。その上で、「和平の障害になっているのはパレスチナ人」とのシナリオが描かれるだろうとの見方を示した。
パレスチナ人を擁護する多くは、今回の提案をイスラエル寄り過ぎるとして一蹴している。
ワシントンのアラブセンターでパレスチナ・イスラエル政策の担当責任者を務めるユセフ・ムナイヤー氏は「全世界が拒絶しているガザでのジェノサイドを、米国の政治的な後ろ盾を得て継続しようという試みだ」と断じた。
原題:Trump’s Pro-Israel Gaza Plan Seen as Unlikely to Sway Hamas (2)(抜粋)
— 取材協力 Eric Martin, Magdalena Del Valle and Hadriana Lowenkron