価格競争激しい中国の自動車、勝者のいない「消耗戦」…経営体力奪われる「内巻」が社会問題化
【北京=照沼亮介】中国自動車工業協会が10日発表した今年上半期の新車販売台数(輸出向け含む)は1565万台で、前年同期比11・4%増加した。台数は堅調に伸びているものの、電気自動車(EV)を中心に顧客獲得に向けた価格競争が激化し、勝者のいない「消耗戦」の様相を呈している。
BYDは大幅値下げで需要喚起を図っている(4月、上海モーターショーで)=照沼亮介撮影同協会によると、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの「新エネルギー車」は40・3%増の693万台で、新車全体に占める割合は44・3%に拡大した。政府が内需喚起策として実施する買い替え支援が追い風になった。
またガソリン車を含む全体のうち輸出向けは10・4%増の308万台だった。
一方で、販売金額は低迷する。中国国家統計局によると、自動車の売上高は2024年に前年比0・5%減、25年1~5月は前年同期比0・1%減となった。
中国国内では、政府の後押しを受けてEVなどの新エネ車が市場を席巻している。ただ、自動車大手から新興メーカーまで激しい顧客獲得競争を繰り広げており、台数の伸びが収益に反映されていない。大幅な値引きを含む消耗戦で経営体力が奪われる状況は「 内巻(ネイジュエン) 」と呼ばれ、社会問題化している。
EV最大手のBYDが5月、人気モデルを含む22車種を最大5・3万元(約110万円)値下げすると、吉利汽車や、新興メーカーで欧州ステランティスと提携するリープモーターなども追随した。
国民の節約志向の高まりからデフレ圧力が強まる中、最大手が仕掛けた価格競争に業界団体から反発の声も上がった。
中国のネットメディアによると、メーカーの圧力を受けた自動車ディーラーの利益率が低下。過剰在庫を抱えて経営が圧迫され、資金繰りが悪化するケースが相次いでいる。下請け企業にコスト削減を強要する事態も起きているという。
米ブルームバーグ通信によれば、中国政府は6月、BYDや吉利汽車などの大手企業幹部に対し、原価割れでの販売や不当な値下げを行わないよう求めた。だが、成果を上げられるかは不透明だ。
大和総研の斎藤尚登経済調査部長は「過剰生産の問題が根源にあるので、当面状況は変わらないだろう。政府が生産性の低い自動車メーカーを無理に守ることを続ければ、長期停滞にもつながりかねない」と指摘する。