ネクスペリア半導体の輸出制限が暗示すること

国際asian male technician in sterile coverall holds wafer that reflects many different colors with gloves and check it at semiconductor manufacturing plant

PonyWang/iStock

西側自動車メーカーを操業停止、減産に追い込みかねなかったネクスペリア事件(※)は、どうやら解決に向かったみたいだけど、この事件が暗示するのは西側「経済安保」政策にとって深刻な事態だ。

ネクスペリア製半導体、中国が輸出再開に合意-オランダ首相

中国、ネクスペリア半導体の輸出制限を解除-メーカー幹部が明かす
中国はネクスペリア製半導体の輸出再開に合意したと、オランダのスホーフ首相が明らかにした。オランダを拠点とするが中国企業の傘下にあるネクスペリアの半導体供給が滞り、世界各地の自動車生産を脅かしていたが、両国の対立が解消に向かう兆しが表れた。

オランダ政府がネクスペリア社の経営を政府管理下に置いた9月30日は、米国政府がエンティティリスト規制を改め、掲載された企業だけでなく、その子会社、孫会社・・・も自動的にリスト対象になる強化策を講じた日だ。

ネクスペリア社を買収した聞泰科技(ウィングテック・テクノロジー)も2024年12月にリストされているので、この米国措置によって、ネクスペリア社もリスト対象になった。オランダ政府が同社を管理下に置いたのは、米国政府の規制強化に同調したのだろう。

中国が米国のエンティティリスト規制強化に対して、レアアース輸出規制措置(10月8日付け)をぶつけて「棚上げ(双方が1年延期)」を勝ち取った結果、オランダ政府も措置の「1年延期」を発表したのだろう。

ネクスペリアの半導体は技術的には先端製品ではないが、自動車に多用され、簡単には代用が利かない部品だ。

今回槍玉に挙げられたのがオランダの企業と政府だというのも暗示的だ。と言うのは、中国は「米国の対中措置に追随、同調しやすい国」として、英国、日本、オランダを挙げている気配があるからだ。

中国は2019年以来、米国が主導する西側の対中「経済安全保障」措置に苦しめられてきたが、今年、「西側産業はレアアースに限らず、『これを中国に止められると、主要産業が操業停止に追い込まれる』ようなチョークポイントを沢山抱えていることを学んで、今後西側諸国が米国の対中規制強化に追随、同調すれば、今回と同様の報復措置をお見舞いして押し返すことを政策として固めた可能性がある。

日本企業は今後供給を中国企業に一手依存していて、それを止められると生産ラインが止まる、といったチョークポイントを改めて洗い直してコンティンジェンシー対策をしっかり立てなければいけない。

日本政府も今後米国政府(の事務方)から、米国の対中規制に追随、同調を求められた場合は、必ず首脳ベースで「トランプさんはどういう方針か」を確かめる必要がある。今年のトランプの対中交渉は「TACO(トランプはいつもビビって降りる)」そのものだった。事務方の求めに安易に応じて、後で親分に梯子を外されたら目も当てられない。

ネクスペリアは本社オランダ、フィリップスを源流に持つ半導体メーカーで、2020年までに中国の電子機器大手、聞泰科技(ウィングテック)が買収した。欧州の工場で開発とウエハー生産を担い、中国の工場で最終製品の8割を生産している。

オランダ政府は9月30日「ネクスペリア社の製品(完成品および半完成品)が緊急時に入手できなくなる事態を防ぐことを目的として」、物資供給法に基づいて、同社の経営判断を政府が許可制にする極めて異例の介入措置を導入した。

これに反発した中国政府は10月4日、ネクスペリアが中国で生産する「特定完成部品・サブアセンブリ」を輸出規制の対象にした(事実上の禁輸)。同社の製品は自動車の電子制御装置(ECU)、電源管理、スイッチ/センサ類などに使われる大量かつ汎用的なディスクリート、ロジック、MOSFET等であり、交換・代替が容易でないものが多く含まれている。

このため、依存度の高い欧州の自動車メーカー・業界団体は「供給が止まれば、数週間で生産に影響が出る可能性がある」と警告している。殊にドイツではフォルクスワーゲンが本社工場で主力車「ゴルフ」の生産の一時停止を計画中で、半導体不足が影響した恐れがあるという。日本でも一部自動車メーカーが対策に動き出している。

編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2025年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。

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