ネタバレ解説&感想『沈黙のパレード』ラストの意味は? 『容疑者Xの献身』との繋がり、湯川の変化を考察

©2022「沈黙のパレード」製作委員会

2022年公開の映画『沈黙のパレード』

東野圭吾原作、福山雅治主演の人気ドラマシリーズ「探偵ガリレオ」は、2008年に公開された映画『容疑者Xの献身』、2013年公開の『真夏の方程式』、そして2022年公開の『沈黙のパレード』と、3作の映画版が公開された。いずれも興行収入30億円超というヒットを記録し、福山雅治が演じる「探偵ガリレオ」の一時代を築いた。

今回は、2022年に公開された映画『沈黙のパレード』について、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。14年も前に公開された映画『容疑者Xの献身』と対になる作品との声もある本作では、どんな物語が描かれたのだろうか。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、必ず『沈黙のパレード』の本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意 以下の内容は、映画『沈黙のパレード』の内容に関するネタバレを含みます。

『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』に続く「探偵ガリレオ」シリーズの劇場版第3弾である『沈黙のパレード』は、前二作と同じくドラマシリーズを指揮した西谷弘が監督を務める。『真夏の方程式』では、主人公・湯川学の相方はドラマ第2期と合わせて吉高由里子演じる岸谷美砂になっていたが、『沈黙のパレード』では『容疑者Xの献身』以来14年ぶりに柴咲コウ演じる内海薫が劇場版に復帰した。

共演陣も豪華で、湯川の旧友で刑事の草薙俊平を演じる北村一輝はもちろん、お笑いコンビずんの飯尾和樹吉田羊椎名桔平らが出演。川床明日香演じる並木佐織が殺害された事件を軸として物語が展開されていく。

『沈黙のパレード』はその内容から『容疑者Xの献身』と比較されることもあるが、大きく異なる点は登場人物の多さである。『容疑者Xの献身』が湯川と石神、そして花岡母娘をめぐる小規模な物語であったのに対し、『沈黙のパレード』では食堂なみきやの一家をはじめ、菊野という町の住民たちが容疑者になっていく。

『沈黙のパレード』における演出の巧みな点は、冒頭で並木佐織と町の人々の思い出が「ジュピター」の歌と共に描かれ、佐織がいかに愛されていたかということが冒頭のわずか5分で伝わるように演出されていることだ。

歌手としての未来を期待されていた佐織は、母・真智子父・祐太郎妹・夏美、祐太郎の親友で幼少時から佐織を知る戸島、パレードのダンスチームのリーダーで本屋で働いていた宮沢麻耶、音楽プロデューサーの新倉直紀とその妻の新倉留美、恋人の高垣智也に支えられていた。しかし、突如として佐織は失踪、3年後に後頭部に陥没痕がある白骨化した遺体で発見された。

遺体が発見された家屋では、そこの住民だった蓮沼芳恵も同じく白骨遺体で発見されていた。そして、佐織殺害の容疑者として浮上したのが、蓮沼芳恵の息子で佐織が失踪した時期に菊野に住んでいた蓮沼寛一である。

実は蓮沼は15年前に草薙が担当した少女殺害事件の容疑者だったが、刑事だった父の姿を見て完全黙秘を貫けば有罪にすることは難しいということを学び、15年前の事件で無罪となっていた。そして少女の母は蓮沼が無罪になったことを苦にして自殺。冒頭で蓮沼の写真を見た草薙が嘔吐してしまうのは、その経緯があったからだ。

そうして『沈黙のパレード』では、これまで以上に刑事としての草薙にもスポットライトが当てられることになる。そして、草薙の葛藤は、湯川が背負う『容疑者Xの献身』での経験と交差していく。

『容疑者Xの献身』とのつながり

『沈黙のパレード』では湯川は教授になっており、菊野の研究施設に通っていた。冒頭で子ども達のシャボン玉を観察していた時に、再会した内海から「子どもは嫌いじゃなかったの?」と聞かれ、「苦手なだけだ」と答えているが、前作『真夏の方程式』では岸谷から「子ども苦手じゃないですか?」と聞かれ、「苦手じゃない、嫌いなんだ」と返している。前作での恭平少年との出会いを経て、湯川も変化したのだろう。

佐織の殺害事件においても蓮沼は黙秘を貫き釈放されており、内海はなみきやの常連でもあった湯川を頼ることに。草薙は15年前の事件で蓮沼を実刑にできていれば佐織は死なずに済んだと悔やんでおり、草薙の心情を思いやる湯川の姿も『沈黙のパレード』の見どころの一つになる。

1ヶ月後、夏祭りのパレードが開催され、のど自慢大会が行われる中で蓮沼が遺体で発見される。蓮沼に部屋を貸していた元同僚の増村英治や、蓮沼に恨みを持つなみきやの一家に疑いの目が向けられるが、いずれもアリバイがあった。

注目のシーンは、事件の解明に協力する姿勢を見せた湯川に、内海がその理由を聞く場面だ。湯川は「行きつけの店の主人や家族に殺人犯の容疑がかかるかもしれないんだ。無関心でいる方がおかしい」と笑顔で語る。この時、草薙と内海の顔がそれぞれアップで抜かれる。

このやり取りは明らかに『容疑者Xの献身』の物語を踏まえたものだろう。同作では、湯川の旧友であった石神が、行きつけの弁当屋で働いていた花岡靖子とその娘の美里が殺人の容疑で逮捕されないようにあらゆる手を尽くす「献身」を見せた。

『沈黙のパレード』での湯川は、ともすれば石神の行動を「自然な行い」と肯定しているようにも見える。湯川が「無関心でいる方がおかしい」と語った後の草薙と内海は、あの時のことを思い出したのか、複雑な表情を浮かべている。

また、中盤では湯川は、草薙が被害者遺族であるなみきやの一家が事件に関与していないことを願っていると指摘。草薙を庇おうとする内海に対し、「真実は不幸だけを生み出すとでも? 僕だってあの時と同じようなことを繰り返したくはない」と返している。

この「あの時」という言葉も『容疑者Xの献身』の事件を指している。あの時、湯川は真実を暴くことで友人の石神と石神が人生をかけて守ろうとした靖子を逮捕に導いた。真実は明らかになったが誰も幸せにならない結末だった。湯川はその過去を踏まえた上で、「繰り返したくはない」としながら真実を追求する姿勢を見せているのだ。

このように、『沈黙のパレード』では、絶望して諦めるでもなく、冷徹に真実だけを追求するでもない、様々な事件を経験して成熟した人間・湯川学の姿が描かれている。

草薙の背中を押す湯川

蓮沼の死因は窒息死だったが、締め殺された痕跡はなく、密室に液体窒素を充満させて殺されたことが分かる。なみきやの父・祐太郎の親友である戸島の工場の液体窒素が使われたこと、佐織の恋人だった高垣がパレード中に宝箱に入った液体窒素を運んでいたことも発覚するが、肝心の実行犯の姿が浮かんでこない。

また、蓮沼を家に済ませていた増村が15年の少女殺害事件の被害者の母で、蓮沼が無罪になったことを苦に自殺した由美子の父親違いの兄であったことも発覚。姪と妹の仇である蓮沼に近づき、殺害計画においては蓮沼に睡眠薬を飲ませて犯人を助けた容疑がかけられる。

草薙が、増村が15年前の事件の関係者だという事実に辿り着けたのは、湯川が過去と向き合うようアドバイスしたからだった。草薙は取り調べで、人を裁くのは司法だと諭した戸島から、司法は蓮沼を裁けなかったではないかと言い返されて落ち込んでいた。

一方、湯川は『容疑者Xの献身』で友人と友人が守ろうとした人を逮捕に導くという辛い経験をしたが、『沈黙のパレード』においてもその過去から目を背けようとはしなかった。草薙に対しても、未解決に終わった過去の事件と向き合うよう草薙の背中を押すことで、真相の解明へ向けて前進する契機を掴めたのである。

『沈黙のパレード』ラストをネタバレ解説&考察

事件の真相は…

だが、実行犯が見つからない中で、湯川は佐織の父・並木祐太郎に話を聞くことに。祐太郎は仇である蓮沼殺害の計画に関わっており、当初の計画では液体窒素を徐々に部屋に充満させて祐太郎が蓮沼から佐織殺害の自供を引き出すつもりだった。しかし、決行当日に客が急病となったため、祐太郎が実行犯になることはなかった。

祐太郎は、沈黙を続けている人達のために黙秘を続ける。この作戦は生前の蓮沼がとった手法だ。唯一の違いは、蓮沼が一人で黙秘を続けたのに対し、今回の事件の関係者は全員がそれぞれの役割を全うして黙秘を続ける「沈黙のパレード」となっていることだ。

そんな中、音楽プロデューサーで生前の佐織の指導を行なっていた新倉直樹が出頭。蓮沼殺害の実行犯として名乗り出る急展開だ。新倉もまた液体窒素を運んでパレードの宝箱に入れる役を担っていたが、祐太郎が急病の客の対応にあたることになり、新倉が実行役も買って出ていた。蓮沼は佐織殺害を自供したが、新倉が気づいた時には蓮沼は窒息死してという。

このストーリーに異を唱えたのは湯川だ。佐織の殺害事件は被疑者死亡で不起訴、蓮沼の死も事故に近いということで菊野の人々の刑は比較的軽くなる。「蓮沼が死の直前に佐織殺害を自供した」という新倉の証言に完全に依拠した出来すぎたストーリーだが、草薙は罪悪感からか違和感を押し殺して事件をクローズにしようとしていたのである。

しかし、湯川は、新倉が蓮沼から佐織の殺害現場として「西きくの児童公園」という具体的なキーワードが出たと主張していることに目をつけ、更なる真相へと近づいていく。

湯川が訪ねたのは、新倉直紀の妻の新倉留美だ。湯川は佐織殺害の犯人が蓮沼以外にいると推理。佐織の遺体が3年後に白骨化して見つかったのは、死体遺棄の公訴時効が3年と決まっていたからで、佐織の殺害現場に偶然でくわした蓮沼は遺体を持ち去ったあと、死体遺棄の公訴時効を待って自分が逮捕されるように仕向け、黙秘を続けて釈放されると、真犯人を脅迫したという。

つまり、蓮沼が公園での佐織の殺害について完全黙秘を貫けたのは、実際の殺害現場に蓮沼がいなかったから、ということである。このトリックは『容疑者Xの献身』で石神が靖子のアリバイの証言を成立させるために「二つ目の殺人」を用意したことと対をなしている。蓮沼は一つの殺人に対して自分が二人目の犯人(偽)となることで無罪放免となり、同時に真実を知る一人目の犯人(真)から金を脅し取ったということである。

食べない、飲めない湯川学

この推理シーンでは、湯川は出された紅茶を飲まない。毒物が入っているかもしれないと警戒したのかもしれないが、実は『沈黙のパレード』では湯川が飲食物を口にする際に邪魔が入ったり、自ら拒否したりするシーンが繰り返し登場する。

冒頭のファミレスのシーンでは湯川はかき氷を食べているが、内海が見せた写真のシャツについた血痕がかき氷のシロップと同じ色で、かき氷を食べる手を止めている。なみきやでは酒のあてを口にしようとするたびに話しかけられたりして邪魔が入り、夏祭りでは戸島にカップに入った生ビールをもらうがパトカーが通ったことに気を取られ、事件の真相を聞くために祐太郎を訪ねた際にはを勧められて断っている。

『容疑者Xの献身』では湯川は石神と酒を飲み交わし、『真夏の方程式』でも湯川は地酒と地元の料理に舌鼓を打っていた。『沈黙のパレード』で湯川学が飲食物を気持ちよく摂取することが出来ないのは、なかなか事件の真相に辿り着けない状況とリンクさせた演出だと考察できる。

その後、留美は3年前に、佐織が妊娠して歌手としての未来を諦めると言い出し、留美が佐織に嫉妬していると言われたことから佐織を突き飛ばしてしまい、沙織が資材で頭を強打したことを認める。留美は気が動転して一度は現場を離れたが、現場に戻った時には遺体はなかったという。

前述の通り3年後に佐織の事件の真相をネタに脅され、蓮沼に金を払い続けていた留美だったが、その後、菊野に現れた蓮沼に全てを自白させるという増村・祐太郎・戸島の計画を夫の新倉直紀に聞かされる。もし蓮沼が全てを話せば、留美が佐織の死に関与していたこともバレてしまう。そこで留美は直紀に全てを話し、直紀は妻を苦しませていたという罪悪感から蓮沼殺害を決意したのだった。

なみきやで急病になり、祐太郎を足止めした客の女性は新倉直紀から雇われた人物だった。悠太郎の代わりに蓮沼の部屋に向かった直紀は、自供を引き出すこともなく液体窒素で蓮沼を殺害したのである。そうすることで直紀は留美を強請っていた蓮沼を葬り、佐織殺害への留美の関与も闇に葬ったのだった。

だが、湯川にはもう一つの仮説があった。留美は佐織の死亡を確認せずに現場を離れていたが、佐織は本当に留美に突き飛ばされたことで死亡したのか、という疑問が残っていた。現場の公園には血痕が残っておらず、蓮沼が佐織を運搬している意識を取り戻して蓮沼が佐織を殺害、頭蓋骨に陥没痕が残ったのではないかという仮説が立てられる。

そこで現場に残っていた佐織のバレッタ(髪留め)に血が付着していたかを調べることになるのだが、物証以上に必要だったのは草薙の覚悟であった。草薙は、被疑者死亡で丸く収まった状況で真実を追求し、「蓮沼が西きくの児童公園で佐織を殺したと自白したというのは嘘だった」という新倉直紀の自白を引き出さなければならない。

佐織殺害事件への留美の関与自体を否定するなら、新倉直紀は蓮沼が西きくの児童公園で佐織を殺したと自白したという嘘の供述を貫く必要がある。一方で、留美が佐織を殺したわけではなかったという事実を追求するなら、直紀はその供述は嘘であり、妻を守るために蓮沼を意図を持って殺害したということを認めなければならない。そうなれば直紀の罪は、殺すつもりはなかったが死んでしまったという傷害致死から、意図を持って殺した殺人罪になる。

湯川は、決断は草薙に委ねながらも、草薙もまた15年前の少女殺害から苦しみ続けた当事者なのだと言ってやる。それは菊野の人々から否定されていた言説だ。湯川が草薙も苦しみ続けたと認めてやる姿は、『容疑者Xの献身』で内海が友人として湯川の痛みに寄り添ったことを思い起こさせる。

結果、バレッタから血は検出されず、留美が佐織を殺していなかった可能性が高くなる。新倉直紀が沈黙を破って自供すれば、留美は罪を隠し続ける苦しみから解放されることになる。『容疑者Xの献身』で石神が罪を認めることで靖子が罪の意識を抱え続けることになりかけた展開と重なる。しかし、『沈黙のパレード』では、草薙は蓮沼が佐織を殺したことを警察は必ず立証すると新倉直紀に約束。直紀は殺意を持って蓮沼を殺したことを認めたのだった。

新倉直紀は殺人罪、増村英治は殺人の共同正犯か幇助の罪での立件が検討されることになったが、それ以外の菊野の人々の送検は見送られることになった。佐織の元恋人の高垣と妹の夏美が佐織の墓参りをするシーンでは、高垣の肩に蝶々がとまる。蝶々は死者の魂を象徴する存在として知られており、真犯人が明らかになって佐織の魂が報われたということが示唆されている。

最後に、内海は湯川に、草薙が親友に感謝してると思うと伝え、映画『沈黙のパレード』は幕を閉じる。エンディングで流れる曲はKOH+「ヒトツボシ」だ。

2025年現在、「探偵ガリレオ」の劇場版シリーズの最終作となっている『沈黙のパレード』は、『容疑者Xの献身』から始まる湯川学の“他者”と“真実”との向き合い方に一つの結論をもたらす作品であったように思える。『容疑者Xの献身』は魂を揺さぶる名作だったが、故に湯川学という人間にも大きな傷痕を残し、湯川はその過去と共に生きているように見える。

湯川の信条は、仮説・実験・立証を繰り返して真実へと近づいていくことだ。それは湯川の人生にも当てはまることで、今回の湯川は石神との件を「繰り返したくはない」と言いながらも、よりマシな形で真実に辿り着くことを諦めていない。

内海は苦しむ草薙の姿を近くで見ており、これ以上草薙を辛い真実に直面させることに消極的になっていた。だが、湯川は「真実は不幸だけを生み出すとでも?」と反論する。辛い経験を経ても、それを絶対視せずに試行を繰り返す姿は一見理想主義者にも見えるが、感情に左右されずに真実を追い求める科学者らしさも感じられる。

けれど、湯川学という人間が魅力的に感じられる所以は、内海や石神との経験を経て、自分もまた草薙に寄り添い、あの時自分が迫られた決断を草薙自身に託しているというウェットさにある。その湯川の姿は、あの時内海がしてくれたことを、石神にしてやれなかったことを、草薙にしてやっているように見えるのだ。

だから、映画の第三作目で内海が草薙と共に湯川の前に帰ってきたことに意味があったように思う。『沈黙のパレード』の時点で、福山雅治は53歳。原作小説では『沈黙のパレード』の湯川は40歳過ぎとされている。酸いも甘いも経験して教授になった『沈黙のパレード』の湯川学は、個人的には一番好きなバージョンの湯川先生だ。

本作の完成時には、前作公開から9年が経過していたことから、福山雅治はさらに9年後、つまり2031年に「探偵ガリレオ」を再演することに意欲を見せた。映画第4作目の原作候補として『透明な螺旋』(2021) にも触れており、新作登場にも期待がかかる。まだまだ苦悩しながら真実を追求する湯川学の姿を見せてほしい。

東野圭吾原作・福山雅治主演の最新作、映画『ブラック・ショーマン』は2025年9月12日(金)より全国でロードショー。

『ブラック・ショーマン』公式サイト

東野圭吾による原作『沈黙のパレード』は文春文庫より発売中。

「ガリレオ」シリーズ最新作『透明な螺旋』は文春文庫より発売中。

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