AV歴36年の58歳・レジェンド男優、月5本の現場こなす現在 明かした私生活「子どもに仕事の話をしたことない」

 AV男優の田淵正浩は、共演した女優は1万人に上るという。大学時代にこの世界に足を踏み入れ、キャリア36年の58歳は、業界の変化を冷静に見ていた。田淵へのインタビュー企画。「前編」では、その歩みと素顔に迫った。(取材・文=一木悠造)

 田淵は約束の時間通り、1人で現れた。精悍(せいかん)な表情で濃紺のスーツ姿。文字通り、「ダンディーな中年」だ。刻まれたしわと強く鋭いまな差し。その顔立ちから、街中でも目立つ存在だ。

「声はあんまりかけられないですけど、よく見られますね。AVの仕事を36年間やっているから、さすがに皆さんの記憶の中に刷り込まれているんでしょうね。ただ、われわれは裏方ですから。加藤鷹さんやチョコボール向井さんは自分を前面に押し出していましたが、男優の95%が裏方に徹していますよ」

 そんな田淵はどのようにしてAV男優になったのか。きっかけは、先輩からの粘り強い誘いだった。

「横浜市内の大学に通っていたんですが、大学3年生の時に工事現場でアルバイトを一緒にしていた先輩がある日突然、AV男優になったんです。それである日呼び出されて『お前、男優やらない?』と誘われたのがきっかけです。僕は『恥ずかしくてできないっすよ』と断っていましたが、先輩は『一緒にやろうぜ』と繰り返してきました。そのやり取りが20回目になったくらいに、僕が『いいっすよ』と答えていたんです、加藤鷹さんやチョコボールさんは自分でAVメーカーに履歴書持って訪ねて行って男優になっていますが、僕は全くそんな気はなくて、偶然なってしまったんですね。『まあ、女性とエッチもできるし、お金ももらえるから』と本当に軽い気持ちでした」

 田淵が男優デビューした1989年から90年代前半は、AV業界の隆盛期。田淵によると、2005年時点では約2500億円の市場規模だったという。

「ギャラは7年目くらいで1現場が6万円になりました。当時1か月で最多57現場だったので、最高月収は300万円くらいでしたね。入れ替わりが激しいので、7年目だともはやベテラン扱い。撮影ではリード役です。前戯に何分、挿入に何分とシーン撮影を時間配分しなければいけなくなりました」

 常に冷静な田淵は、トップ男優の先輩たちに共通する「あるもの」に注目してきたという。

「駆け出しの頃から先輩方の絡みを横でずっと見てて思ったのは、ベテラン漫才師とかと一緒で、場を掌握する力が高いんですよね。その人の世界観、空間を一瞬で作っちゃうんですよ。自分の持つグルーブ感、リズム感っていうか、それを持っている人は現場をリードできる。スムーズに撮影も進むし、何より現場に一体感が生まれます」


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