【プレビュー】「中央アジアの手仕事 ―華麗なる刺繍とジュエリー」 東京・渋谷区立松濤美術館で4月11日から シルクロードが育んだ多彩な染織・宝飾コレクションが都内に集結

渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区)で、「中央アジアの手仕事―華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションより―」が4月11日から開催されます。

シルクロード上に位置する中央アジアでは、古代より様々な民族が行き交ったことで、多様な文化が生み出されました。ヨーロッパからアジアにいたる広大な地域を舞台にしたシルクロードの文化は日本でも幾度もブームが起こりました。ところが、かつてソビエト連邦領であった中央アジア諸国(現在のウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)は情報が得にくい地域であり、人々の伝統的な生活や豊かな工芸品はあまり知られてきませんでした。しかし近年、漫画や大阪・関西万博等をとおして現地のことを知る機会が増え、その華やかな手仕事の数々に注目が集まっています。

オアシス都市に暮らしたウズベク人などに伝わる刺繍布“スザニ”や衣装は、個性的でミステリアスな文様、そして豊かな色づかいが特徴です。女性たちが手がけた布いっぱいを埋め尽くす刺繍は、時代や地域を越えて人々を魅了します。一方で、砂漠地帯で遊牧生活を送っていた人が多いトルクメンは、重量感のある銀製の装身具で身を飾る習慣をつくり出しました。これらのジュエリーは装飾品としてだけでなく、厳しい環境を生きぬくための知恵と祈りが込められたものでした。

本展では、国内随一のウズベクとトルクメンの染織およびジュエリーコレクションを誇る広島県立美術館所蔵品より、中央アジアで花開いた多彩な工芸品が紹介されます。それぞれの民族に伝わる刺繍布やジュエリーをとおして、その繊細かつ華麗な手わざを楽しんでみてはいかがでしょうか。

《花嫁用頭飾り》 北ヨムート族、トルクメン人 19世紀前半 広島県立美術館蔵
中央アジアの手仕事 ―華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションより― 会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14) 会期:2026年4月11日(土)~6月14日(日) 開館時間:午前10時~午後6時(毎週金曜日は午後8時まで) ※入館は閉館時間の30分前まで 休館日:月曜日(5月4日は開館)、4月30日(木)、5月7日(木) 入館料:一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円 ※土・日曜日、祝休日は小中学生無料 ※毎週金曜日は渋谷区民無料

※障がい者及び付添の方1名は無料

アクセス: 京王井の頭線 神泉駅下車徒歩5分

JR・東京メトロ・東急電鉄 渋谷駅下車徒歩15分

詳細は、渋谷区立松濤美術館公式サイトまで。

プロローグ

アジアからヨーロッパを結ぶシルクロードには、2000年以上の歴史があります。絹をはじめとする物産を運ぶ交易路としてだけでなく、人々の文化や宗教が出会う文明の道でもありました。

本展で紹介される「ウズベク」と「トルクメン」は、現在のウズベキスタンやトルクメニスタンという国を中心に居住する、それぞれの民族のことを指します。中央アジアでは、オアシス都市を中心に様々な工芸美術が生み出されました。8世紀に浸透したイスラム教の影響を受けた抽象文様は、テキスタイルはもちろんのこと、木工芸や金属工芸、陶器にも受け継がれ、機械では再現が難しいほど精緻で華やかな手工芸がつくりだされました。

第1章 刺繍布“スザニ”の世界

スザニとは、中央アジアの主にウズベク人やタジク人の女性たちによって制作される大型の刺繍布のことです。刺繍布すべてがスザニというわけではなく、礼拝用の布を「ジャイナマズ」、赤い円文文様を「オイ・パラック」と呼ぶなど、用途や文様によって呼び方が異なります。かつては、婚礼の際にスザニを持参する習わしがあったため、女子は幼い頃からスザニの準備をしました。現代ではバザールで購入したり、ミシン刺繍を注文するなど、簡略化が進んでいます。

第1章では、19世紀から20世紀にかけてウズベクでつくられた、色鮮やかなスザニが披露されます。

《刺繍布(スザニ)》 19世紀後半 広島県立美術館蔵

スザニという言葉は、ペルシア語の「針」を意味する「スザン」から派生した言葉で、刺繍または刺繍したものを示します。家の壁掛けやこたつカバーとしても用いられ、生活に欠かせない布と言えるでしょう。

スザニは大きいもので縦横2mを越えます。そのため、大判の布そのものに刺繍するのではなく、刺繍を施した細幅の布数本を最後に縫い合わせることで一枚のスザニに仕上げます。まず、一族の代表者などが木綿布や絹布にインクで下絵を描き、内側に色名を記します。そして、女性たちが分担して主に絹糸で刺繍を施しました。縫い手が異なるがゆえに、糸の色や刺繍の刺し方が違うなど、下絵どおりに刺繍されていないものも散見されます。

《刺繍布(ジャイナマズ)》 19世紀中期 広島県立美術館蔵

第2章 トルクメンジュエリーの神秘

遊牧民が多いトルクメン人にとって、ジュエリー(装身具)はお守りであり、財産でした。さらに、部族や立場を示す印としての働きもありました。素材には、イスラム文化圏で清浄の象徴とされる銀が使われています。カーネリアン(紅玉髄)の赤色は、怪我や出血から身を守ると信じられ、頭飾り、首飾り、胸飾り、背飾り、腕飾り、指輪など、様々なジュエリーに用いられました。

第2章では、多種多様なジュエリーと緻密な刺繍が印象的な民族衣装が紹介されます。

《背飾り(ゴシャ・アシク)》 テケ族、トルクメン人 19世紀初期 広島県立美術館蔵/hハート型のアシクという背飾りを連結したもの。背中につけることで邪視から身を守れると考えられた 《首胸飾り(ブカウ)》 北ヨムート族またはテケ族、トルクメン人 18世紀 広島県立美術館蔵 《護符入れ(トゥマル)》 ヨムート族、トルクメン人 18世紀 広島県立美術館蔵/真ん中の筒にコーランの一節を書いた紙などを入れて身につけるお守り 《鞭(ガムチ)》 ジャファバイ・ヨムート族、トルクメン人 19世紀後半 広島県立美術館蔵 《背飾り(サチュモンジュク)》 ジャファバイ・ヨムート族、トルクメン人 20世紀初期 広島県立美術館蔵 《こめかみ飾り(アダムリク)》 西ヨムート族、トルクメン人 19世紀初期 広島県立美術館蔵 《女性用刺繍靴》 エルサリ族、トルクメン人 20世紀 広島県立美術館蔵

第3章 中央アジアを彩る手仕事

中央アジアには「来るものを拒まず」という伝統があります。シルクロードの交易地として、他民族の文化を受容してきた寛大さが、異国の人々をも虜にする多彩な工芸を生みだしました。中央アジアの人々によって育まれた「用の美」の華やかな手わざに要注目です。第3章は、来館者による写真撮影が可能です。

《男性用コート(チャパン)》 ウズベク人 19世紀末期 広島県立美術館蔵 《飾りボタン(グルヤカ)》 トルクメン人、ヒワ 19世紀中期 広島県立美術館蔵

かつてシルクロードの要衝として栄えた中央アジア。そこには、私たちがまだ知らない、生命力にあふれた手仕事の世界が広がっています。本展で紹介される「スザニ」の鮮やかな色彩や、遊牧の民が身にまとった重厚な銀のジュエリーは、単なる装飾を超えた、彼らの祈りや生活の知恵そのものです。特に第3章では写真撮影も可能とのことで、その緻密な手技をじっくりと記録に残せるのも嬉しいポイントです。春から初夏にかけてのひととき、異国情緒あふれる中央アジアの手仕事の名品を通して、悠久のシルクロードへと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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