全長3mのホンダ「超コンパクトカー」! 斬新「ほぼ立ち乗りシート」搭載の「パリピカー」! 眠らない4人乗りマシン「不夜城」とは
1999年の第33回東京モーターショーで、ホンダは「不夜城」を出展していました。どのようなモデルだったのでしょうか。
斬新「ほぼ立ち乗りシート」搭載!?
クルマの設計では、限られた車体寸法の中でいかに広い室内空間を生み出すために、背を高くしたり、床面を下げたり、ホイールベースを伸ばしたり、エンジンを収めるスペースを小さくするなど、さまざまな工夫が行われています。
しかし、クルマでは乗員が座って移動することが大前提のため、少なからず大きな部品であるシートの存在は無視できません。安全面の問題でも、シートに体を預け、深々と着座するのは常識的な考えでもあります。
ところが、1999年に開催された第33回東京モーターショーでホンダが参考出品した「不夜城」は、まさしく常識を吹き飛ばす画期的なアイデアで製作されていました。
そのアイデアとは、なんと「深く座らない」こと。最近では、駅のホームなどでも着座した人が占有する面積を狭くするために、浅く座るタイプの半腰掛け型ベンチが見られますが、そのアイデアをクルマに持ち込んでしまったのです。
要するに「半立ち乗り」ということに。ホンダのプレスリリースでも、「『深々と腰掛ける』という常識を覆したセミスタンディングシート」と記載されています。
短距離しか乗らないからシートはこれでいいよね、という割り切りは潔いほど。とはいえ安全面は考慮されており、すべてのシートに4点式シートビルトイン・ベルトを備えています。
不夜城ではこのスタンディングシートを用いることで、全長わずか3050mmという軽自動車よりも350mmも短い車体で大人4人の乗車を可能としました。しかも足元も広々です。
全長3050mmは、トヨタ「iQ」(2995mm)とほぼ同じ。iQは4名乗車ではありますが、後席は事実上子供しか座れないほど狭く、助手席を前方に移動して後席の足元を確保する方法で大人3人+1人が無理なく乗れるようになっています。
また、全長約3000mmは360cc時代の軽自動車の上限全長ですので、不夜城がいかに小さなクルマであるかわかるかと思います。
さらにセミスタンディングシートによる4人乗車のため全長は1995mmに達しており、極端に短く、極端に高い個性的なディメンション。全幅は1650mmで、街乗りもしやすいサイズといえます。
しかもフォルムも特徴的でした。小径タイヤを収めた薄い立方体に、前部に傾斜をつけた箱をポンと載せたフォルム、車体上方に小さく開けられた窓、フロントの超低い位置に置かれたちょっと不気味なグリルなどは、従来のどのクルマとも違ったデザインばかり。
前から見たらクルマに見えないほどです。光に合わせて怪しく輝くパープル系のボディカラーも含め、来場者を大いに驚かせました。
不夜城のコンセプトは、ズバリ「スケボー感覚の軽やかなノリで、街を駆けるニュージェネレーションビークル」。セミスタンディングシートは、スケボーに乗っているような感覚を与えてくれるとのこと。
インテリアはクラブのイメージでまとめられており、ステアリングホイールはターンテーブルを、ダッシュボードはDJミキサーのような造形を採用。前後席共用の大きく開くサイドドアにも大口径のスピーカーを装備して、クラブの雰囲気を強く感じさせます。
横開きのリアハッチにはスケートボードラックも有しており、気が向いたらすぐにでも街に飛び出していくことができるでしょう。
“不夜城”という漢字の車名も、夜でも明るい眠らない街を駆け抜けるクルマにふさわしい、実にセンスあるネーミングではないでしょうか。
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こうして紹介すると「ぶっとんだコンセプトカー」に見える不夜城ですが、短距離乗車に割り切ったコンセプト、車体の小ささ、半立ち着座で手軽に乗り降りができる設計、極めてコンパクトに収められたパワーユニットがもたらす優れたパッケージングなど、シティコミューターとして高い才覚を持っています。
内外装のデザインをマイルドにして、パリピカーのような印象を払拭すれば、優れた移動手段として最注目される日がくるかもしれません。
1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。
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