「iPhoneユーザーはこの技術を知っているのか?」Cook氏も驚いた京セラの"見えない魔法"(g.O.R.i)

AppleのCEOであるTim Cook氏が、横浜テクノロジーセンター(YTC)を初公開という歴史的な瞬間に訪問しました。iPhone 17シリーズのカメラ技術について「日本の技術なしには実現できない」と語った背景には、驚くべき日本企業の技術力がありました。

日本企業4社が横浜に集結

Cook氏が訪問したのは、2017年に開設されたAppleの横浜テクノロジーセンター(YTC)。これまでベールに包まれていたこの研究開発拠点が初めて公開されました。

iPhone 17シリーズのカメラシステムを支える日本企業4社の社長が勢揃いし、TDKAGC京セラ、ソニーグループが技術プレゼンテーションを実施。Cook氏は「日本のサプライヤーが持つ技術なくして、我々が提供するカメラシステムは実現できない」と明言しています。

京セラが明かした"見えない技術"の正体

プレゼンテーションで京セラは、センサーを載せる多層セラミック基板の供給を担当することを明らかにしました。谷本秀夫社長が登壇し、「独自の構造を容易に製造でき、センサーの熱やノイズを極限まで抑えられることが競争力となっている」と説明しました。

京セラとAppleの協業は2008年から始まった長期的なパートナーシップです。2010年のiPhone 4では1つのセラミック基板しか使用されていませんでしたが、最新のiPhone 17 Pro/Pro Maxには6つの京セラ製セラミック基板が搭載される予定で、15年間で大幅な供給拡大を実現しています。

セラミック基板って何?スマホの"見えない土台"

セラミック基板を分かりやすく説明するなら、iPhoneの中で電子部品を支える「床」のような存在です。家を建てる時、どんなに立派な柱や壁があっても、しっかりした基礎がなければ家は建ちません。セラミック基板は、まさにiPhoneのカメラやセンサーにとっての「基礎」なのです。

京セラの技術の最大の特徴は、紙を何枚も重ねるようにセラミックのシートを積み重ねることで、その内部に立体的な電気の通り道を作る技術です。iPhone向け製品では、このシートがなんと11層も重ねられています。

興味深いのは、製造前のセラミックは「分厚い油取り紙のような感じ」と表現されるほど柔らかいことです。この状態で複雑な加工を施し、最終的に約1,600度という溶けた金属並みの高温で焼き固めます。一度焼き上がると、ダイヤモンド並みに硬くなり、何年使っても劣化しない電子部品となります。

なぜセラミック?他の材料では不可能な理由

なぜAppleはセラミック基板を選ぶのでしょうか。答えは「他の材料では不可能なことができるから」です。

従来の基板は有機材料(プラスチックのようなもの)で作られていますが、これには致命的な弱点があります。湿気を吸ってしまうのです。iPhoneを2年、3年と使い続けても問題が起こらないためには、湿気を一切吸わない材料が必要になります。

また、セラミック基板は「3D配線」という技術を可能にします。通常の基板は表と裏にしか配線できませんが、セラミックなら表、裏、さらに側面まで、あらゆる方向に電気の通り道を作れます。これは、立体パズルのように複雑な回路を小さなスペースに収める技術です。

Tim Cook氏も驚いた製造工程の精密さ

京セラの製造工程は、まさに現代の「匠の技」と呼べる精密さです。柔らかいセラミックシートに、各層で数千から数万個もの微細な穴を開けます。この穴は、ビルの各階をつなぐエレベーターのような役割で、電気信号を上下に伝える重要な通路となります。

驚くべきは、1枚のシートに10,000個もの穴が開けられることです。これは、1円玉の面積に約3,000個の穴を開けるほどの精密さ。人間の髪の毛よりもはるかに細い穴を、完璧な位置に開ける技術に、Cook氏は「このプロセスを見たい」と感嘆の声を上げました。

製造で最も難しいのは、約1,600度の「鉄を溶かすほどの高温」での焼成工程です。この高温処理により、セラミックは元のサイズから約15%も縮小します。これは、A4用紙がハガキサイズになるほどの変化を精密に制御する技術です。

「信じられないことではないか?」CEO の驚きの発言

技術説明を聞いたCook氏は「iPhoneを使っている人々は(この技術を)理解していると思うか?信じられないことではないか?」と驚きを込めて語りました。この発言からは、普段何気なく使っているiPhoneの背後に、想像を超える技術革新があることへの感嘆が伝わってきます。

京セラは、0.4mm×0.2mmという米粒の100分の1ほどのサイズのコンデンサ(電気を蓄える部品)も製造しています。これほど小さいため、「くしゃみをするだけで100万個ほどのコンデンサが失われる可能性がある」と語られるほどです。

「決して満足しない」者同士の化学反応

Cook氏は日本企業との協業について「日本企業の精密さ、職人技、品質、そして配慮を深く敬服している」と語り、「1+1が3になる」という協業の力に言及しました。「Appleは決して満足しない。実は日本も決して満足せず、常に次に向かって取り組んでいる」という共通点が、世界最高峰のカメラシステムを生み出しています。

京セラは環境面でもAppleのパートナーとして重要な役割を担っており、2025年末までにApple製品の製造に100%再生可能エネルギーを使用する目標に向けて順調に進んでいます。

創業者・稲盛和夫博士の「敬天愛人」の哲学と「人の心の絆に基づいた経営」は、2022年の逝去後も全社員に受け継がれています。この企業文化が、Appleとの長期的なパートナーシップを支える基盤となっているのでしょう。

iPhone 17シリーズの性能向上の背景には、こうした京セラの確かな技術力と企業哲学があります。私たちが何気なく使っているiPhoneのカメラ機能の裏側には、まさに「見えない魔法」のような日本の製造技術が隠されているのです。

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