ベッセント氏も住宅ローン契約に矛盾-クック理事解任根拠と酷似

ベッセント米財務長官は以前、同時期に2軒の住宅を「主な住居」として所有することに合意していた。同氏の住宅ローン関連の文書で明らかになった。トランプ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事を解任する根拠としている問題と、同様の矛盾が生じている。

  ベッセント氏はこの合意により、2007年にニューヨーク州とマサチューセッツ州の住宅を同時に「主な住居」として居住する義務を負った。ただし、住宅ローン専門家によると、不正行為を示す証拠はない。この事例はむしろ、住宅ローン申請書類の不整合が必ずしも詐欺の証拠とはならないことを示している。

  ベッセント氏の住宅ローンに関する他の書類によると、貸し手であるバンク・オブ・アメリカ(BofA)はこの誓約を重視しておらず、同氏が両方の物件を主な住居として居住するとは全く想定していなかった。

  クック氏の状況も同様だ。同氏は2021年、ミシガン州とジョージア州アトランタの物件について、それぞれが今後1年間の「主な住居」となる旨を記した住宅ローン契約書に署名した。異なる信用組合と合意したもので、それぞれ20万3000ドル(約2970万円)と54万ドルのローン取得の条件だった。

  ただ、ブルームバーグ・ニュースが確認した文書によると、ジョージア州の物件でローンを提供した信用組合は、クック氏が常時居住することは想定していなかった。ローン契約の数週間前に発行した融資見積書には、この物件は「別荘」と記載されている。

  トランプ氏は8月、クック氏の解任を告げる書簡で、矛盾した住宅ローンに関する誓約が解任の十分な理由と主張した。トランプ氏はクック氏の行動を「潜在的な犯罪行為」または、少なくとも「重大な過失」の証拠だと指摘した。利下げの是非を巡りトランプ氏とFRBとの対立が深まる中、クック氏はトランプ氏の主張は事実に反するとして、解任の一時差し止めを求めて訴訟を提起した。

  連邦高裁は15日、クック氏が当面は職務を継続することを認めた。ホワイトハウスはクック氏の解任を認めるよう、連邦最高裁に申し立てる意向だ。

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類似

  クック氏の矛盾した住宅ローン契約は、少なくとも複数の点でベッセント氏が結んだ契約と似ている。2007年9月20日、ベッセント氏はニューヨーク州ベッドフォードヒルズにジョージアン様式で建てられた7寝室の邸宅を、以後1年間の「主な住居」とすることに同意した。同日、マサチューセッツ州プロビンスタウンのビーチフロントに位置する住宅についても、同様の居住に関する誓約を行った。どちらの契約も、ベッセント氏に代わり弁護士のチャールズ・リッチ氏が署名した。

2007年9月20日付でニューヨーク州ウェストチェスター郡の郡書記官事務所に提出された、ベッドフォードヒルズの邸宅に関する住宅ローン書類。ベッセント財務長官の弁護士が代理で署名している

  住宅ローンを提供したのはBofAで、この住宅2軒とその他の資産を担保とした、2100万ドルの大規模な融資の一部だった。ブルームバーグの問い合わせに対し、ベッセント氏の代理人は「ベッドフォードヒルズとプロビンスタウンの不動産は、二次的住宅(セカンドハウス)であるとの理解と合意」を確認するBofAからの声明を提示した。

  弁護士のリッチ氏は「BofAはマサチューセッツ州プロビンスタウンの物件が主な住居ではないことを十分に認識しており、主な住居として使用するという要件を免除した。ベッセント氏のローン申請は、私に権限を委任していたため、同氏は最小限しか関与しておらず、不適切な点は一切ない」とコメントした。

  ベッセント氏は8月、FOXビジネスの番組でクック氏に対する大統領の動きについて問われ「トランプ氏が金融当局に圧力をかけていると考える人々もいる。そしてトランプ氏や私のように、FRB当局者が住宅ローン詐欺を犯した場合、それは調査されるべきで、国の主要な金融規制当局の一員として働くべきではないと考える人もいる」と語った。

  ベッセント氏の弁護士アレックス・スピロ氏は、クック氏の状況を詳細に調査していないため、両氏の状況の比較についてコメントできないとしていた。この記事の公開後、スピロ氏は「約20年前、ベッセント氏の弁護士は書類を適切に作成しており、銀行もそれが適切な処理を確認している。このばかげた記事は、結局全ては適切に行われたという結論に至っている」とコメントした。

2007年9月20日付でマサチューセッツ州バーンステーブル郡の土地登記所に提出された住宅ローン書類。このローンはプロビンスタウンにある住宅に関するもの

ダブルスタンダード

  ベッセント氏とクック氏の状況は、全く同じではない。ベッセント氏の住宅ローンは20年近く前に組まれ、弁護士が署名したものだ。クック氏はごく最近、自ら署名した。ベッセント氏の住宅ローンは2件とも同じ銀行で、同じ日に署名されており、ベッセント氏が別の場所に住む計画だったとしても、貸し手がだまされることはありえなかった。一方、クック氏の住宅ローンは別の金融機関によるもので、署名した日も異なる。

  ただ両者とも表向きは、2つの異なる場所を同時に主な住居として居住することに合意していた。また、その不整合が誤解を招くものではなく、それぞれの貸し手も不動産の計画を認識していたという証拠もある。

  トランプ政権にとっての問題は、財務長官の不正行為ではなく、主な住居という技術的な問題を利用し、敵とみなした人物を大統領の決断で取り除こうとするという、ダブルスタンダードにある。

  パルト米連邦住宅金融局(FHFA)局長は8月、X(旧ツイッター)でクック氏を住宅ローン詐欺の疑いがあるとして非難し、トランプ氏にクック氏解任の理由を与えた。パルト氏は住宅ローン詐欺の調査のため、司法省検察官に大統領の敵対者3人を照会。クック氏はその1人だ。他の2人はニューヨーク州のジェームズ司法長官と、カリフォルニア州選出のシフ上院議員(民主党)だ。3人とも住宅ローン詐欺の疑惑を否定している。

  ベッセント氏やクック氏と同様に、チャベスデリマー労働長官も、矛盾した居住地の誓約をした。同氏は2021年1月、住宅ローンを組む条件として、翌年もオレゴン州の自宅に居住し続けることに合意した。だが、同年3月、アリゾナ州の不動産購入の際にも同様の誓約をしている。同年7月にはオレゴン州の住民として、下院議員選挙への出馬を届け出た。

  チャベスデリマー氏の報道官コートニー・パレラ氏は電子メールで、住宅ローンを組んだ際はアリゾナ州を主な居住地とするつもりだったが、後に出馬を要請されたことで、チャベスデリマー氏が考えを変えたと説明し、本人は法律に従ったとしている。

「大げさ」

  所有者居住条項は、住宅ローンの契約において標準的な条項だ。実際に居住する住宅については、貸し手がより低い金利や頭金の要件など、より有利な条件を提供することがある。実際に住む家については、借り手がローンを返済する可能性が高いと考えられるためだ。もし借り手が、その物件に居住する予定について、貸し手を欺いた場合、住宅ローン詐欺とされる可能性はあるが、刑事訴追が行われることはまれという。

  ミネソタ州エクセルシオールの不動産弁護士、ダグラス・ミラー氏は、クック氏もベッセント氏も、物件をセカンドハウスとして使用する計画を貸し手に開示していたため、詐欺とは見なされないとの見方を示した。同氏は米下院委員会で住宅ローン市場について証言した経験がある。ミラー氏は「貸し手がその事実を知っており、住宅ローン申請書にもその旨が記載されている場合、借り手に過失があるとは言いがたい」と指摘した。

  ミラー氏によると、セカンドハウスに所有者居住条項を適用しない一般的な方法は、セカンドハウス条項と呼ばれる追加文書を添付することだ。クック氏とベッセント氏のケースでは、誰かがその書類を添付するのを忘れてしまっただけかもしれないとし、「貸し手が書類を見落としたなら、それは貸し手の責任だ。この件はまったく大げさに騒ぎ立てられているだけだ」とミラー氏は語った。

  クック氏は8月、解任に異議を申し立てる訴訟の過程で提出した覚書の中で、事務上のミスが矛盾した居住に関する誓約につながった可能性を指摘したが、たとえFRBに入局する前に何か誤りがあったとしても、それは解任の理由にはなりえないとしている。

原題:Bessent, Like Fed Governor, Made Contradictory Mortgage Pledges(抜粋)

— 取材協力 Katherine Doherty and Prashant Gopal

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