コメの転作助成金「縮小を」60% 経済学者から輸入拡大論も

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日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」の第6回調査で、コメ政策について聞いた。主食用米から飼料用米などへの転作を促す助成金は「縮小すべきだ」との見方が60%に上った。助成金が農家の意思決定をゆがめ、コメの増産を阻害しているとの見方が目立った。

Q.麦や大豆、飼料用米への転作に助成金を出す制度は縮小するのが適切である

政府は水田を用いて麦や大豆、飼料用米を生産する農家への転作助成金として年3000億円前後を計上してきた。食料自給率を上げるのが目的だが、主食用米の減産につながり、コメ価格を高騰させた一因ともいわれる。

「転作助成を縮小するのは適切か」を13〜17日にかけて47人の経済学者に尋ねたところ、「強くそう思う」(11%)「そう思う」(49%)との回答が計60%に達した。

転作助成を縮小するのは適切か(主な意見)

特に問題視されたのは、飼料用米への転作助成だ。1000平方メートルあたりの助成額は麦、大豆が3.5万円に対し、価格競争力に劣る飼料用米は最大10.5万円と手厚くなっている。京都大の諸富徹教授(財政学)は「飼料米を作って助成金をもらう方が、主食用米を作るよりも収益が大きくなり、政策の意図を超えて主食用米の生産が減少したのではないか」と副作用を指摘した。

一橋大の佐藤主光教授(財政学)も「大規模農地におけるコメの増産を阻害している」とし、「同じ国費を使うのであれば、農地の大規模化への支援や、収入の変動に対する補償にあてるべきだ」と述べた。

助成金の存在が非効率な生産につながっているとの見方も目立った。大阪大の安田洋祐教授(ゲーム理論)は「採算が合わない作物の転作に助成金で誘導され、生産性が低下する」として縮小を求めた。「食料自給率を上げる対策の一環と考えればある程度やむを得ない」(長江商学院の森田穂高教授=産業組織論)など、助成金に一定の役割を認める意見もあった。

助成金のほかにも政府はコメの生産に介入を続けている。毎年コメの需要見通しを公表した上で、各産地に生産の目安を示す「生産調整」とよばれる仕組みだ。直接的にコメの生産量を減らす減反政策は2018年に廃止されたものの、その後の生産調整による供給量の抑制が、コメ不足や価格高騰につながったとする見方がある。

調査では経済学者に「生産調整がコメの供給を長期的に安定させるか」も尋ねた。「全くそう思わない」(13%)「そう思わない」(38%)の回答が計51%と過半に達した。

Q.政府による転作助成を含む「事実上の生産調整」はコメの供給を長期的に安定させる効果がある

経済学者の間では、生産調整が価格メカニズムをゆがめることへの警戒が根強い。東京大の田中万理准教授(労働経済学)は「生産調整は、カルテルにより米価の高価格を維持する仕組みと同じで、消費者が不利益を被る」と訴えた。大阪大の大竹文雄教授(行動経済学)も「市場競争による生産の効率性や質を引き上げるインセンティブが十分に働かない」とマイナス面を強調した。

生産調整はコメの供給を安定させるか(主な意見)

コメを安定して供給するため、輸入を活用すべきだとする意見も多かった。トロント大の伊神満准教授(産業組織論)は「コメ価格と、国産か輸入かを問わない供給量の安定」を政策目標にすべきだと説き、輸入制限の緩和を求めた。東京大の松井彰彦教授(ゲーム理論)も「調整弁としての輸入を視野に入れるべきだ」と主張。コメ価格が高騰した場合は、輸入が促進される関税率を設定する仕組みを提案した。

生産調整を続けた場合に供給力が低下するリスクを指摘する意見もあった。京都大の高野久紀准教授(開発経済学)は「生産制限は参入者を減らし、高齢化を進めてしまう」と指摘した。その上で農地法の規制緩和などを通じて新規参入を増やす政策の導入を求めた。

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