海図なき世界 揺らぐ秩序と中国 大国の責任自覚し行動を
トランプ米大統領が国際秩序に背を向ける中、中国が世界への影響力を強めようとしている。目につくのは、協調の理念を掲げる一方で力を誇示し、自国の利益を追求する振る舞いだ。
米政治メディア「ポリティコ」が3月に発表した世論調査の結果が波紋を広げた。北大西洋条約機構(NATO)に加盟するカナダ、ドイツ、フランス、英国でいずれも、「トランプ氏が率いる米国」より中国に頼った方が良いとの回答が多かった。
Advertisement「10年後に米中のどちらが世界を支配しているか」との問いでも、多くが中国だと答えた。これらの傾向の背景には、トランプ政権の混乱があるとポリティコは分析している。しかも調査は2月上旬に実施しており、同月末に始まったイラン攻撃は考慮されていない。
「反トランプ」追い風に
トランプ政権は高関税政策によって世界経済に打撃を与えている。国際協調に否定的で、対外援助を担う米国際開発局(USAID)を解体したり、多くの国際機関や条約などから脱退したりした。こうした姿勢が各国の国民の反発を招いた。
その結果、従来の「中国リスク」に対する警戒感が相対的に弱まっている。欧米主導の秩序を上書きすることに意欲を見せる中国の習近平国家主席にとって、追い風となっているのは間違いない。
習氏は昨秋、「グローバルガバナンス(世界統治)」構想を提唱した。グローバルサウス(新興・途上国)が十分に尊重されず、国連の権威が低下している。気候変動や人工知能(AI)などの問題にも対処できていない。そうした現状を踏まえ、「より公正で合理的な統治システム」の構築を目指す考えだ。
かねて「開発」「安全保障」「文明」の分野ごとに構想を示してきた。グローバルサウスに対してインフラ整備や治安維持対策を支援し、実利によって影響力を強めている。
上智大学の渡辺紫乃教授(国際関係論)は「米国が主導してきた国際秩序をトランプ氏が守らなくなり、中国の主張の方が正しく聞こえる状況だ。自らに有利な秩序を形成し、多くの国を従わせようという狙いがうかがえる」との見方を示す。
中国は一連の取り組みを通じて「大国としての責任」を果たすと強調するが、国際協調とはほど遠い振る舞いが目立つ。
最たる事例が南シナ海問題だ。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、南シナ海の大半に権益が及ぶとする中国の主張を退けた。
だが、中国は判決を「紙くず」と呼んで無視し、フィリピンなどとの係争地域で人工島の建設を進めている。東シナ海や台湾海峡でも威圧的な行動を続ける。
言行不一致は許されぬ
急速な軍拡も周辺国の不安を招いている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、25年1月時点の核弾頭総数は前年比100発増の推計600発となった。笹川平和財団は先月、中国が35年ごろに約2000発の核弾頭を実戦配備する可能性があるとの報告書を公表した。
経済分野では自由貿易体制を擁護すると主張しながら、政治的に対立した国への貿易制限を常とう手段とする。
太陽光パネルや電気自動車(EV)などの輸出攻勢も問題視されている。政府の不透明な補助金や過当競争で生み出される安価な製品は、各国の産業基盤の弱体化や雇用の悪化を招くと欧米などから強い批判を受ける。
他国に及ぼす影響を顧みずに国益を追求する姿勢は、トランプ政権と変わらない。形を変えた「自国第一主義」が浮かび上がる。
国連をはじめとする国際的な公共財が機能不全に陥り、紛争や貧困などの問題を解決できていないことは確かだ。米国が関与を低下させる中、立て直しに向けて中国にも一定の役割が求められる。
大国の責任を自覚し、世界の安定に向けて行動すべきだ。言行不一致を続けることは許されない。国際社会は注視する必要がある。
人権や民主主義などの普遍的な価値を重視する日本や欧州が存在感を維持するためには、グローバルサウスの共感を得ることが欠かせないはずだ。先進国に富が集中する現状を改め、公正に利益を分かち合う仕組みを確立しなければならない。