戸上隼輔 重圧を越えて涙と勝利のベスト8入り。自身初の単メダル獲得へ爆進!【世界卓球】
<2025年5月17日(土)~5月25日(日)世界卓球選手権ドーハ大会(個人戦)/カタール>
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想像をはるかに超える重圧と闘っているーーー。
「世界卓球2025ドーハ(個人戦)」<5月17日~25日>で激戦を勝ち抜き、男子シングルス ベスト8入りを果たした戸上隼輔(井村屋グループ/世界ランク30位)から受ける印象だ。
日本のエース張本智和(トヨタ自動車/世界ランク4位)との3回戦に4-1で勝利。勝ちはしたものの同士討ちの苦しさを「本当に複雑な心境。自分との戦いだった」と吐露した。
そして、21日(木)に行われた4回戦ではスロベニアの難敵ヨルギッチ(世界ランク10位)をフルゲーム12-10の死闘で下し、直後のインタビューでは言葉を詰まらせた。 「(3回戦で)張本選手に勝って次も勝てるかというと正直、自信はなかった。負けたらどうしようという気持ちがあって、張本選手に託したほうが良かったんじゃないかとも思いました」
目には光る涙。両手で何度も頬を叩き自身を奮い立たせようとするが、込み上げる感情をどうにも抑えきれない。
コート上の闘志あふれるプレーからは想像しにくいが、「自分よりも張本の方が......」というネガティブな考えもあったという。
根底にあるのは昨夏のパリ五輪で味わった、いかんともしがたい悔しさだ。
初出場のひのき舞台でシングルス3回戦敗退、団体戦も4位に終わり日本のメダル獲得に貢献できなかった。
あれから9ヵ月が経った今も自身の不甲斐なさを完全には拭いきれずにいる。
「すごい責任を感じて、卓球をしていて本当にいいのかなと思った時期もあった」と涙声の戸上。
しかし、昨年から主戦場にしているドイツ・ブンデスリーガで何度も対戦し、お互いの手の内を知るヨルギッチに、世界卓球の大舞台で競り勝ったことで迷いは吹っ切れた。
「今シーズン4戦して3回(ゲームカウント)3-2で勝つことができている。今回も3-3になったら、絶対ゲームオールデュースになると上田(仁)コーチから言われていたので、ゲームオールデュースになったからには自分の方が強いんだという気持ちを持って戦いました」
勝負所は最終ゲームの9オールから。戸上のレシーブがネットにかかりヨルジッチのマッチポイント。しかし、次のサーブをヨルジッチがミスして10オールに並んだ。
次のポイントは戸上が取って11-10。今度は戸上のマッチポイントだ。 「(ヨルジッチは)前のロングサーブをミスしたので絶対フォア前に出して来ると思っていた。それをチキータしたら3球目は絶対フォアに打ってくると思ったので、とにかくチキータで強くいくと決めてレシーブに入りました」
この読みが的中し戸上が見事に勝利。勝負を決めた瞬間、床に膝を突き渾身のガッツポーズから仰向けに倒れ込んだ。
そして、起き上がるとベンチの上田コーチに駆け寄り、飛びつくように抱擁した。
「何をすればいいのか分からなくなった場面でも上田コーチは落ち着いていて、ベンチの上田コーチの顔を見ると『自分はまだ戦える、まだまだ諦めちゃいけない』という気持ちで戦うことができました。応援して下さる周りの方々の声もたくさんいただいて、この試合、本当に負けたくない一心で頑張りました」
重圧と葛藤を越えて対戦相手にも自身にも打ち勝った戸上。メダル決定戦の準々決勝はパリ五輪シングルス銀メダルの強敵モーレゴード(スウェーデン)と対戦する。
2人の対戦成績は4勝1敗でモーレゴードが優勢だが、張本というライバルとヨルジッチという難敵から大きな勝利をもぎ取った戸上は上田仁という強い味方もつけて、自身初となる世界卓球シングルスのメダル獲得に突き進む。
「パリオリンピックの時から強くなっている自信はある。世界卓球の大舞台で自分の力を出し切りたい」
大注目の男子シングルス準々決勝は日本時間23時50分開始予定。
(文=高樹ミナ)