富裕層に恩恵、移民や低所得層に負担増-トランプ減税の勝者と敗者

トランプ米大統領が推進した大型減税・歳出法案が3日、下院で賛成218、反対214の僅差で可決された。この法案は、富裕層やビジネス投資家などに最も大きな恩恵をもたらす一方で、最大の打撃を受けるのは新たな課税の対象となる名門大学や移民たちだ。

  大統領の国内政策の柱である同法案の勝者と敗者は以下の通り。

勝者

富裕層

  富裕層は相続人に一層多くの財産を譲り増税を回避することができるようになる。両院合同租税委員会の6月28日の推計によると、法案には4兆5000億ドル(約650兆円)相当の減税が含まれている。

ディスカバー・ボート・マイアミ国際ボートショー会場のヨット

  個人の相続税控除額を1500万ドル、夫婦で3000万ドルに引き上げ、インフレに応じて調整される。また、2017年の所得税率引き下げが恒久化され、富裕層に有利な税制が維持される。

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高税率州の住民

  州・地方税(SALT)の控除上限が、年間4万ドルに引き上げられ5年間適用される。ただ、年収50万ドルを超える納税者には段階的に適用が制限される。また、控除上限引き上げは5年経過後、現行の上限である1万ドルに戻る予定。

中小企業オーナー

  パススルー事業体が事業所得の最大20%を控除できる17年の法律で導入された制度が、26年以降恒久化される。控除は個人事業主、有限責任会社(LLC)、パートナーシップの所有者に適用される。

プライベート・エクイティー

  プライベート・エクイティー(PE、未公開株)投資会社やベンチャーキャピタル(VC)、不動産パートナーシップに有利なキャリード・インタレスト税制が維持される。キャリード・インタレストはファンド利益の一部を運用マネジャーが受け取る報酬で、トランプ氏は撤廃を目指していた。

国内自動車ディーラー

  米国製自動車のローン利子最大1万ドルが、28年まで税控除の対象となる。ただ、年収10万ドルを超える個人および年収20万ドルを超える夫婦には段階的に適用が制限される。

化石燃料業界

  石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料産業は、税制上の優遇措置を受け、連邦政府の土地での掘削が拡大される。一方、再生可能エネルギー技術に対する優遇措置は段階的に廃止される。

高齢者とチップ収入のある労働者

  65歳以上の納税者には標準控除額が増加し、チップや残業手当は所得税の課税対象外となる。これらの措置には制限があり、28年に失効する。

保護者

  子ども税額控除が25年度に2000ドルから2200ドルに引き上げられ、恒久的にインフレ調整される。また、25年から28年に生まれた子どもには、政府から1000ドルが支給される「トランプ口座」を開設できる。

防衛関連企業

  国防費が1500億ドル増加し、その多くが主要な防衛関連企業が製造する新しい兵器システムに充てられる。

敗者

低所得者層

  税制改革の一部の費用は、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)やフードスタンプ(食料支援)の削減によって補塡(ほてん)される。これらの制度は、低所得者層にとって重要な支援で、エール大学政策研究所「バジェット・ラボ」の分析によれば、この法案により、所得階層の下位20%の納税者は年間平均560ドルの負担増となる。

  この措置は、高齢者、障害者、または14歳未満の子どもがいる場合を除き、メディケイド受給者に新たな就労要件を課す。オバマケア(医療保険制度改革法)によりメディケイドの受給資格を得た人は、自己負担金などの形で費用の一部を負担する必要がある。

  低所得層への食料支援も、就労要件が65歳までに拡大される。フードスタンプの費用は現在連邦政府が全額負担しているが、28年からは各州に一部負担を義務付ける。

再生可能エネルギー業界

  クリーンエネルギー産業は、バイデン前大統領の気候変動関連法の多数の条項を撤回する共和党の計画で打撃を受ける。

  太陽光パネルや風力発電システムに対する税額控除は速やかに廃止される。

  住宅のエネルギー効率向上のための改修や太陽光発電などのクリーンエネルギー設備の設置に対する税額控除も、年末で終了する。

電気自動車メーカー

  テスラやゼネラル・モーターズ(GM)など電気自動車(EV)を手がけるメーカーは、EV購入に対する最大7500ドルの消費者向け税額控除の廃止により、打撃を受ける。

名門大学

  ハーバード大学やコロンビア大学などの名門私立大学は、トランプ政権との対立激化の中で新たな税負担を課される。

  現在、私立大学の寄付基金の純投資収益に対して1.4%課税されているが、資金力のある大学に対しては、新たに段階的な税率構造が導入され、学生1人当たりの基金収益が多い大学では最大8%の税率が適用される。

移民

  移民に対する増税措置が複数盛り込まれた。その一つが、海外への送金に対する1%の新税。米国内の多くの移民が、母国に住む親族に送金している。

  また、医療保険料に対する税額控除の利用も一部の移民は制限される。今回の改正により、米国で難民認定や一時的保護資格を受けた多くの移民が、この税控除を利用できなくなる。

原題:Rich Gain, Immigrants Pay: Who Won and Lost in Trump Tax Bill(抜粋)

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