『8番出口』大ヒットの背景にレイヤーの多さ 物語のないインディゲーム映画化のストーリーテリング #エキスパートトピ
同名インディゲームを実写映画化した『8番出口』が今年の邦画実写No.1のヒットスタートを切った。
地下鉄駅の無限にループする地下通路に閉じ込められたプレーヤーが、さまざまな“異変”を察知しながら、唯一脱出できる「8番出口」を目指す本ゲームには、ストーリーがない。
その実写映画がなぜここまでのヒットになっているのか。
ココがポイント
二宮和也が主演 映画『8番出口』公開3日間で9.5億円を突破 2025年公開の実写映画で1位出典:日テレNEWS NNN 2025/9/1(月)
「8番出口」興収40億円射程の好スタート!二宮和也「入口と出口がまったく違う映画」出典:映画.com 2025/8/29(金)
東京的な意匠で、世界共通の恐怖感覚を、自分が得意とするマジックリアリズム的な映像で表現することで、全世界を驚かせたい出典:経済界 2025/8/27(水)
ゲームシステムのシンプルさと(中略)裏腹に練り込まれた仕掛けや不気味さ、そこからくる面白さによって瞬く間に話題作となり出典:GAME Watch 2025/8/28(木)
エキスパートの補足・見解
ヒットの背景を考えると、まず原作ゲームのコア層の人気と、東京メトロとのコラボなど一般層に向けた認知拡大の巧みなアプローチが効果的に機能していたことがある。
ただそれだけでは大ヒットにならない。作品の内容にフックがある。
無機質な地下通路の無限ループをさまようゲームさながらの主人公の姿にはゲーム的なおもしろさがあり、規則正しい動作をひたすら繰り返す「歩く男」にはサイコスリラー的な怖さがある。子どもたちにとっては、地下通路の間違い探しや、怖いおじさんに驚くことが楽しみになるかもしれない。
一方、地下通路で起こるさまざまな出来事には、現実社会のメタファーもあり、社会への警鐘やアンチテーゼも埋め込まれている。また、主人公が直面する事態には、人生そのものの縮図があるようにも思える。
その地下空間から、マウリッツ・エッシャーのだまし絵や、ダンテ・アリギエーリの戯曲『神曲 煉獄篇』の要素を感じる観客もいるかもしれない。
本作には多層のレイヤーがある。子どもから年配者まで、世代や属性を問わず、観る人それぞれの楽しみ方がある。
本作の監督と脚本は稀代のクリエイター・川村元気氏。彼ならではのストーリーテリングが社会に風を吹かせている。
音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。[email protected]