好きなトランスミッションでクルマを選ぶのは大きな間違い!! AT/DCT /CVTのキャラクターを走りのプロが伝授!!
同じエンジンでも、トランスミッションが変わればクルマの表情は一変する。市販車ではMTが減少傾向にあり、主流はAT、CVT、DCT。渋滞路の発進停止、峠での減速加速、高速巡航の回転域、操作の手応えや静粛性と感じる走りはそれぞれ異なる。そこで今一度仕組みの要点と最新トレンドを押さえつつ、場面ごとの得手不得手、フィーリングの違い、耐久・コスト面を整理していこう。
文:中谷明彦/写真:ベストカーWeb編集部、Modulo、 Porsche AG
【画像ギャラリー】まるで魔法のボタン!? Honda S+ ShiftはCVTっぽさが皆無だった!!(11枚)スポーツカーだけにとどまらずかつてはマニュアル車が一般的だった
自動車のトランスミッションは、単なる動力伝達装置ではない。エンジンが発生した回転力を、路面状況や走行目的に応じて適切に増減し、効率よく車輪へと伝える極めて重要な機械系統だ。
ドライバーがアクセルを踏み込んだ瞬間にクルマがどう加速するか、変速フィールと応答性はエンジンの出力特性だけでなく、トランスミッションの設計思想によっても大きく左右される。
かつてはMT(マニュアルトランスミッション)が当たり前だった時代があり、ギヤ比の選択はすべてドライバー判断に委ねられていた。シフトレバーとクラッチペダルを駆使し、エンジン回転と車速を一致させるヒール&トウなどの「合わせ技」は運転技術そのものであり、そこに熟練の差が顕著に表れた。
ところが近年は、自動変速機構の進化によってトランスミッションも多様化した。現在の市販車市場にはトルクコンバーター式AT、CVT、DCTそして依然として残るMTと、複数の方式が混在している。
近年ではMTでも多段化が進んでおりポルシェ911には7速MTモデルも
MTは構造が比較的単純で、ギヤ比をダイレクトに選択できる点が最大の特徴だ。多段化も進み、スポーツカーでは5速が標準だった時代から6速、7速と増えた。さらに副変速機を組み合わせれば理論的には倍化も可能だが、実際には操作が煩雑となり日常的な利便性は低下する。
MTの利点はエンジン特性をドライバーが意図的に使い分けられることにある。例えばターボラグを避けるため高回転をキープしたりエンジンブレーキによる減速強度など、ドライバーの意思を直接反映できる。
一方で、ミッションの仕組みを理解していないと使いこなすことは難しい。多段化は必ずしも万人向けではなく、段数が増えるほど適切なギヤ選びは複雑化する。
ほとんどのレーシングカーはパドルシフトが主流になっている
モータースポーツの世界を見ても、入門カテゴリーを除けばMTはほぼ姿を消している。ラリーや耐久レースでも、クラッチペダルを用いるMTは時代遅れとなり、電子制御化された2ペダルが主流だ。
レクサスLC500のトランスミッションは10速AT
AT(オートマチックトランスミッション)は、トルクコンバーターの特性で動力をスムーズに伝えられる。2ペダル化によって運転の難易度を劇的に下げ、坂道発進を楽にこなし交通渋滞や都市部での走行に革命をもたらした。
近年はATも多段化が著しく、8速や10速も珍しくない。これによりギヤ比を細かく刻み、エンジンを常に効率の良い回転域で使えるようになった。変速ショック低減や、ロックアップクラッチによる直結制御の導入で燃費や加速フィールも両立している。
スポーツカーの世界でも、ATは十分な存在感を示している。むしろ現代の高性能車では極限状態でのシフト制御精度や変速速度において人間の操作は電子制御に及ばない。2ペダルのメリットを最大限活かせば、サーキット走行においても適した性能を発揮できる。
世界初の市販車DCT搭載車両はフォルクスワーゲン・ゴルフR32
DCT(デュアルクラッチトランスミッション)は、2組のクラッチを用いて奇数段と偶数段を別々に保持し、シフト操作のたびに切り替える方式だ。変速時間は極めて短く、途切れのない加速を実現する。大容量シングルクラッチを電子制御する方式もあり、高性能FRやMR車での採用例が多い。
サーキット走行では、F1のようにドグクラッチと組み合わせたシーケンシャル方式が理想的で、シフト時の動力損失を最小限に抑える。
ただし、街乗りでは弱点もある。発進制御や低速域での駐車時などクラッチの微妙な制御が必要で、トルコンATのようなクリープ特性は得にくい。都市部の日常走行が主体には全く適さないだろう。
新型プレリュードは新開発のCVTであるHonda S+ Shiftを採用しており仮想的な8段変速を持っている
CVT(Continuously Variable Transmission)は、ギヤを持たず、組み合わせるプーリー径の変化によって無段階で変速比を変える。理論上は常にエンジンを最適回転域に保てるため燃費効率が高い。
しかし、一定回転で加速するフィーリングや、あえて回転数を高めさせていく制御などは「駆動力伝達経路が滑っている」ように感じられ、スポーツ走行を好むドライバーには直結感が乏しく物足りない。
そこで近年は、発進時にトルクコンバーターを組み合わせ、ロックアップ制御で直結感を高める方式が主流だ。これにより発進レスポンスと高速域での効率を両立している。
日常使用においては静粛性とスムーズさが光るが、大パワー車や高負荷での長時間走行には向かない面があり、耐久性の確保も課題となる。