トランプ氏とマスク氏の決裂、ウォール街のミームカジノの危うさ露呈
トランプ米大統領とイーロン・マスク氏の決裂が明らかになって1日も経たないうちに、米国市場ではビリオネアの影響力とカリスマ依存型投資への懸念が再燃した。
両氏の決裂は、米国型資本主義におけるビリオネアの権力と影響力を巡る議論が一変させるとともに、近年ウォール街で急成長を遂げた、個人のカリスマ性に依存する投資という高収益ビジネスの危うさをあらためて浮き彫りにした。こうした投機的な熱狂をあおってきたのが、ほかならぬトランプ大統領と世界一の富豪であるマスク氏だった。
わずか数時間のうちにマスク氏関連の投資商品と、トランプ氏と関連づけられた銘柄の一部が急落した。ドージコインは10%、スペースX関連事業への投資機会を提供する上場ファンドは13%下落し、マスク氏関連銘柄にレバレッジをかけた高リスク投資商品は25%以上値を下げた。トランプ氏のメディア企業の株価も下落した。
今回の決裂は、トランプ氏の看板政策である大型税制法案にマスク氏が反発したことがきっかけだった。同法案には電気自動車(EV)に対する税制優遇措置の縮小が盛り込まれており、両氏は5日に非難の応酬を繰り広げた。
6日には対立は沈静化し、資産価格も安定した。しかし、その時までに投資家にはすでに重要なメッセージが突きつけられていた。ファイナンシャル・インサイツのピーター・アトウォーター氏は、「ある瞬間までは大きな恩恵を受けていたのに、次の瞬間には打ちのめされることもある。マスク氏関連の投資商品は内容にかかわらず、同氏の評判次第で天国にも地獄にもなる」と語った。
この決裂で痛手を受けたのはカジノ感覚の投資家だった。こうした投資家はただ株や暗号資産を取引しているのではなく、カリスマ的人物に近づくために金を払っているのだ。テスラはマスク氏の野望を体現する金融商品であり、トランプ氏の政治的台頭は同氏のメディア企業や暗号資産事業、「MAGA(米国を再び偉大に)」運動関連の商品の追い風となり、一つの発言や投稿が資金流入のきっかけとなっている。
インフラストラクチャー・キャピタル・マネジメントのジェイ・ハットフィールド最高経営責任者(CEO)は、「マスク氏は従来の枠を超えてカリスマのゼウスのような存在だ」とし、「こんな人物が大企業を率いた例はかつてない」と述べた。
ラウンドヒル・インベストメンツのCEOで、2月にテスラ関連商品を立ち上げたデイブ・マッツァ氏は「個人投資家、特にネット発祥の投機的投資家層はファンダメンタルズにはあまり関心がない」と指摘。「こうした投資家は、テスラやパランティア・テクノロジーズといった銘柄の物語を本気で信じている。だが、こうした企業の中には、実際の事業内容ではなく、夢のプレミアムに大きく依存しているものも少なくない」と述べた。
原題:Musk-Trump Breakup Exposes Cracks in Wall Street’s Meme Casino(抜粋)