【コラム】若年層は右傾化を後悔、トランプ離れ顕著-ヘンダーソン
2024年の米大統領選でドナルド・トランプ氏が驚くべき強さを見せたのが、通常は民主党の支持基盤とされる若年層だった。2020年には、ジョー・バイデン氏が18~29歳の有権者層で24ポイント差をつけて勝利していたが、2024年にはトランプ氏がその差を大きく縮め、ハリス副大統領がこの層で得た差はわずか4ポイントにとどまった。
しかし、ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、トランプ氏はより幅広い若年層で支持を失いつつある。2月時点で、トランプ氏に投票した35歳未満の有権者のうち92%が同氏を支持していたが、現在では69%まで低下。23ポイントの急低下は、年齢別でトランプ支持者の中で最も大きな落ち込みとなっている。
24年の大統領選でトランプ氏が躍進した源は、若年男性からの支持拡大だった。20年の選挙ではこの層の56%がバイデン氏に投票していたが、4年後には56%がトランプ氏を支持するまでに逆転した。
トランプ氏は「マノスフィア(男の領域)」と呼ばれる男性中心のオンライン文化圏で影響力ある人物たちと連携し、男性が謝罪する必要のない「男性優位主義者」のアジェンダを掲げ、そうした政権を約束して、この層の支持を取り込んだ。若い男性の中には、トランプ氏支持を伝統的な男性優位主義への投票あるいは、男たちを再び偉大にするための一票と語る参加者もいたという。
こうした面において、トランプ氏はその約束を大いに実行に移している。ピート・ヘグセス氏やイーロン・マスク氏のような人物を重用する一方で、多様性・公平性・包括性(DEI)政策への全面的な攻撃を強めている。トランスジェンダーの米軍入隊禁止や、若年層への性別適合医療へのアクセス制限など、文化戦争の面でも存在感を示した。
さらに、「チップへの課税廃止」などの公約も実行しており、これは特に若年労働者の間で強い共感を呼んでいる。
一方で、トランプ氏は自身の支持層、特に若年層にとって重要な2つの問題では目に見える成果を上げられていない。それが経済とジェフリー・エプスタイン事件だ。
まず注目すべきは経済だ。直近の雇用統計では、製造業などで雇用が減少した一方、医療分野での雇用が増加した。こうした業種構成は、必ずしも若年男性にとって追い風とは言えない。ブルームバーグ・オピニオンのコラムニスト、アリソン・シュレーガー氏は、現在の雇用市場を「ヒーセッション(He-cession、男性に厳しい景気後退)」と表現しており、大学卒を含む20~24歳の男性で失業率が上昇していると指摘する。
さらに、最新の消費者物価指数(CPI)によるとインフレ傾向が続いており、小売業者はトランプ氏による関税政策が価格上昇の原因だと非難している。今後数カ月で、企業がコスト増を消費者に転嫁する動きが本格化すれば、状況はさらに悪化する可能性がある。
トランプ氏は情報操作に長けた人物だが、若年男性の「日々の生活実感」を操作するのはかなり困難だ。実際、多くの若者にとって、上昇の機会は乏しいままだ。
米民間調査団体「Young Men’s Research Initiative(若年男性調査イニシアチブ)」が5月に実施した調査では、30歳未満の男性の47%が「経済は悪化している」と回答している。同団体の創設者アーロン・スミス氏は6月のNPRとのインタビューで、「彼らの懸念は他の多くの米国民と大きく変わらない。第1はインフレ、第2は住宅費だ。将来に不安を感じている」と述べた。
スミス氏はさらに、「多くの若い男性は、いまだに現状に対する強い不満を抱いており、中流階級へと至る明確な道が見えないという感覚を持っている」と語った。
同氏は筆者に、トランプ氏の関税政策は若年層には不人気で、生活費の引き下げという選挙公約が果たされていないことに若い男性が失望していると指摘。その結果として、次の選挙では「投票に行かない」というリスクがあると述べた。
さらに「トランプ大統領への支持率が下がっているものの、民主党への支持上昇につながっているわけでもない」と語った。「若年男性は政党への帰属意識が薄く、今後両党とも支持を得るための取り組みが必要になると」と指摘した。
トランプ政権が抱えるもう一つの火種が、故ジェフリー・エプスタイン被告にまつわる問題だ。同被告は2019年、性的犯罪で有罪判決を受けた後、拘置中に自殺した。
連邦捜査局(FBI)が「顧客リストは存在せず、死因は自殺」と発表した後、トランプ氏やその政権関係者は、動揺するMAGA(米国を再び偉大に)支持層の沈静化に追われている。エプスタイン被告を巡って民主党の陰謀論を政権当局者の一部が拡散していたため、なおのことだ。
かつてトランプ氏を後押しした「マノスフィア」も、この問題についてはトランプ政権に厳しい目を向けており、トランプ氏が一連の騒動を「でっちあげ」と一蹴しても納得していない。
24年の大統領選で若年男性層の支持をトランプ氏にもたらした立役者の一人とされるポッドキャスター、ジョー・ローガン氏はトランプ氏によるエプスタイン問題の扱いを有権者は忘れないだろうと警告した。ただし、投票先の変更を直接的に促すことは避けた。
ローガン氏は自身の番組で、「問題は、自分たちに本当に力があるのか。何ができるのかという点だ」と述べた上で、「次にまた投票の機会があれば、投票の仕方を変えることはできる。でもこれは、超党派の問題だ」と語った。
影響力のある保守派ポッドキャスター、キャンディス・オーエンズ氏も、エプスタイン文書を巡るトランプ氏の対応を厳しく批判している。先週の番組で、「彼はディープステートに完全に手綱を渡してしまった。エプスタイン問題を放棄したことが何よりの証拠だ」と述べた。
エプスタイン事件が異例なのは、トランプ氏を支持基盤と対立させている点だ。コメディアンのアンドルー・シュルツ氏は自身のポッドキャストで、「トランプ氏は通常、支持層との取引を非常に好み、支持者が求めることには耳を傾ける。私が見てきたどの政治家よりもそうだ」と語った上で、「この件に関しては、支持層の声を拒絶しており、まるで顔に唾を吐きかけているかのようだ」と表現した。
ここ数週間、かつてトランプ氏を称賛していた保守系インフルエンサーたちが、エプスタイン問題をめぐって一斉に批判に回っている。その批判の矛先は、トランプ氏が富裕層と権力者をかばっているのではないかとの疑念につながっている。共通しているのは、トランプが約束を果たさなかったことへの失望感、時に裏切りという感覚さえある。
共和党は現在、若年層、とりわけ若い男性を恒久的な支持層として取り込もうとしている。しかし、エプスタイン問題に十分に向き合わなければ、足元をすくわれる可能性もある。特に、経済政策が若年男性に「より明るい将来像」を提示できないままであれば、なおさらだ。
(ニア・マリカ・ヘンダーソン氏はブルームバーグ・オピニオンの政治コラムニスト。以前はCNNとワシントン・ポストのシニア政治記者で、約20年にわたって政治や選挙を取材してきました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Young Voters Already Regret Swinging Right: Nia-Malika Henderson(抜粋)