自衛艦のホルムズ海峡派遣、極めて難しい 石破前首相が講演【解説委員室から】

 石破茂前首相は16日、国会内で講演し、イランが事実上封鎖するホルムズ海峡に船舶護衛のための艦艇派遣をトランプ米大統領が日本などに訴えたことに関し、日本が集団的自衛権を行使できる存立危機事態と認定した上で、自衛艦を派遣することは困難との認識を示した。石破氏は「今の段階でわが国が(集団的)自衛権を行使するかというと、それは相当に国民の感覚と懸け離れたものになるわけで、(自衛権行使なら)日本とイランが戦争状態に入ることになる。今までの経緯、国際的な理解から言っても、極めて難しかろう」と述べた。主な講演内容は次の通り。(一部敬称略、時事通信解説委員・村田純一)

スペイン、イタリアのような立場に立てるか?

 当面、一番の問題は19日に予定される日米首脳会談。一体どうするか。首相は悩み、呻吟(しんぎん)し、苦心惨たんしながら考えているだろう。最後は自分で決めなければならないという重圧はすごい。24時間365日、国家の命運を背負っているというのは言うに言われぬ重圧だ。

 米国の同時テロ事件のトラウマは大きい。もし、突っ込んだ旅客機に核兵器が積んであったらどうなっていたか。その恐怖感はものすごくあると思う。テロ集団、テロ組織が核を持つことの恐ろしさが米国の底流にあると考える。

 米国が去年6月に「バンカー・バスター」でイランの核施設を攻撃したが、まだ残存しているという恐れがあると推測している。

 トランプ米大統領にしてもイランとの戦争をどういう形で終わらせるか。戦争をやめろと皆が思っているが、このあとどのようにやっていくか、日本の取る立ち位置はかなり難しい。

 スペイン、イタリアを見ると、(イタリアの)メローニ首相はトランプの盟友だけれど、米国に対してきちんとものを言っているではないか、スペインも米国に対して基地(使用拒否)でものを言っているではないか、日本もそうあるべきだというのも一つの考え方だと思っているが、本当に日本はそういう立場に立てるだろうか。私はどっちがいいとか言わないが、日本として本当に核兵器が拡散していくことの恐ろしさは、唯一の被爆国たる日本だからこそ主張できることだ。

 北朝鮮が核を保有しているとすれば、これは一体どこに行くのか。北朝鮮がいろんなことに対して自信を持っているように見える。金正恩(朝鮮労働党総書記)が急に韓国を敵視する政策に変わったのはなぜか。核兵器がニューヨーク、ワシントンに届き、それが爆発する能力を持つとするならば…。相互確証破壊の議論というのは、お互いに核を持った国同士は戦争をしないという、相手が合理的判断をするだろうという前提の下で成り立つもの。「死なば、もろとも」みたいな国家には通用しない。

 恐ろしいのは、「北朝鮮がない世界は、ない方がいい」と金正恩が言っていたこと。そういう国に対して、相互確証破壊は効くのか、考えねばならない。

米国・イスラエルのイラン攻撃は自衛権の行使?

 何でイスラエルが核兵器を持って、イランは駄目なのかという議論はある。イランが抑止力として持つことは何が悪いのかという議論は、そもそもNPT(核拡散防止条約)体制とはという話に行き着くが、わが国として、核拡散防止は言わねばならない。

 (イラン攻撃に関し)米国が言っていることが、本当に自衛権の行使なのか、ほとんど検証する手段がない。だけど、国際法的に「先制(的)自衛」というものは、国連においても認められている。そのまま放置すれば、本当に危ない状況になるという時に自衛権を行使するということは国際法的にほぼ多数説。ただ、差し迫った危険はないけれども、放置するとその危険にまでレベルが達する時に行われる「予見的自衛」という権限を認めているのは、世界の中でも米国とイスラエルだけだ。

 米国がやったことが自衛権の行使であるかどうか、われわれが検証するすべは何もないけれども、それに基づいているとするならば…。もちろん戦争は早くやめるべきで、無辜(むこ)の民の殺りくはやめるべきだ。だけど、わが国の正当性として言うのは、やはり核拡散を防ぐということ。北朝鮮がすぐ近くにあるわが国として、十分国際社会に対して主張し得ることではないか、と今のところ考えている。

 湾岸戦争が始まった時、自民党の中でも一体何をすべきか、という議論は相当にあった。存立危機事態なのか、重要影響事態なのか、どの法律をどう使うのか、仮にやるとするならば、きちんと国民に説明しなければならない。やらないとするなら、なぜなのか。われわれは、スペインやイタリアのように、北大西洋条約機構(NATO)という組織に入っているわけではない。米国との間に2国間の極めてユニークな安全保障条約があるだけだ。

 (私が主張した)アジア版NATOというのは全然うけなかったが、ウクライナが仮にNATOに入っていたとすれば、ロシアから攻められることはなかっただろう。だとすれば、アジアにそういうものがないということは、本当に望ましいことなのか、という議論はしておかなければならない。

 ―米国とイスラエルが、イランに核兵器を使うリスクはあるか。

 石破氏  それは、ほとんどないと思っている。通常戦力で勝てない場合に核を使うのが普通だと思っている。通常戦力で圧倒的に勝っている米国とイスラエルが今、核を使うということは、今までの考え方からすれば成り立たない。

 ―トランプ大統領がホルムズ海峡で、タンカーの護衛で協力を求めている。日本の場合、難しいが、どういう形ならそれを乗り越えられるか。日米首脳会談で、石破さんならどういう準備をしてどう臨むか。

 石破氏  (日本が)支援する場合、支援する国・相手国が国際法に反した場合、支援できない。安倍晋三元首相が平和安全法制の時に明確に答弁している。そうすると、米国・イスラエルのイランに対する攻撃は、自衛権の行使であると、日本政府として肯定しないと次の判断にならない。したがって、先制的自衛は国際法的に合法であるし、国連でも確認されている。

 しかし、予見的自衛みたいなものは否定している。つまりこれを認めているのは米国とイスラエルだけなので、これが先制的自衛、差し迫った危険だと判断され、日本としても同意するということが、大前提だと思っている。

集団的自衛権行使なら、「イランと日本は戦争状態」

 存立危機事態になるかならないかの議論が国会でもあるが、そのまま放置すれば、日本国民の平和と安全などを根底から覆す明白な(危険がある)事態、ということを認定できるか。

 すなわち、(認定すれば)集団的自衛権を行使するということになるわけで、集団的自衛権行使の要件は、わが国と密接な関係にある国が攻撃を受けた時に、それをわが国に対する攻撃と見なして、共に反撃する国連憲章51条において認められる権利ということになる。

 今の段階で、ホルムズ海峡で起こっていることが、(日本国民の平和と安全などを)根底から覆す明白な(危険がある)事態と認定され、わが国が自衛権を行使するかというと、それは相当に国民の感覚とかけ離れたものになるわけで、(自衛権行使なら)日本とイランが戦争状態に入ることになる。それは今までの経緯から言っても、国際的な理解から言っても、極めて難しかろうということになる。

 重要影響事態と認定するかどうかは、いろんな事実関係を確認しないと軽々には言えない。ただし、やるとするなら、テロ特措法によって、インド洋にわが国は補給艦を派遣したが、ああいう形であれば、できないことはないと能力的には思っている。

 法的に可能かどうか、どの枠組みを使うか。自衛隊を使う場合、自衛官の安全がどのように確保されるのか、そのことがわが国の国益のみならず、世界の利益にかなうという理屈がどれだけ展開できるか、事実関係を確認しないとよく分からない。

 何もしないという選択肢はない、というならば、当面考えられるのはそんなこと。あくまで仮定の話だ。

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