太陽の磁場が奇妙な振る舞い、原因不明 「中年の危機」説も
2007年、米ワシントン大学の天文学者のエリカ・ベーム・ビテンセ氏(故人)は、恒星の自転の周期と磁場活動の周期の関係を調べ直した。すると、恒星は2つの明確な系列に分かれていた。若い恒星は高速で自転し、磁気活動も活発なのに対し、年老いた恒星は自転が遅く、磁気活動もはるかに穏やかだ。しかし、太陽はどちらの系列にも属さず、その中間に位置していた。
「恒星の活動に関する議論において、太陽が基準になる星として適切でないのは明らか」としながら、太陽がこのように孤立していることには、より大きな謎が隠されているのではないかとベーム・ビテンセ氏は論文で述べ、次のように続けた。
「地球の生命が進化し、生き残るためには、太陽がこの2つのグループの間の特別な位置にある必要があったのではないだろうか?」
ベーム・ビテンセ氏の発見をきっかけに、太陽の奇妙な振る舞いに関する20年にわたる研究が始まった。その結果、太陽は結局のところ例外ではなく、恒星の自転と磁場発生のメカニズムについて見直す必要があることが分かった。
「太陽は他のすべての恒星と同じことをしています。ただ、他の恒星もことごとく私たちの予想と違っているのです」と、米国の研究機関ホワイト・ドワーフ・リサーチ・コーポレーションの天文学者であるトラビス・メトカーフ氏は言う。
現在は、観測とシミュレーションの両方から、恒星が太陽のように中年期に差し掛かると、大規模な磁場が衰え始める「中年の危機」ならぬ「磁場の危機」を経験することが示唆されている。
それが私たちの太陽にとって何を意味し、今後どうなるのかについては、依然として議論の余地がある。しかし、ベーム・ビテンセ氏が示唆したように、その答えは、どの恒星で生命が生まれ得るかを予測する上で重要になる可能性がある。新しい望遠鏡がはるかかなたの惑星上に生命の痕跡を探しはじめた今、科学者たちは、恒星の磁気活動の進化の物語を書き直そうとしている。
「探究は始まったばかりです」と、米ロッキード・マーティン太陽天体物理学研究所の天文学者のジェレミー・ドレイク氏は言う。「地球以外の天体に生命がいるのかどうかを解明したいなら、これは避けては通れない核心的な問いです」
すべての恒星と同様、太陽は高温の荷電粒子からなる巨大な球体であり、一生を通じて水素を燃料とする核融合を続けながら自転している。荷電粒子の渦巻く動きは、自転エネルギーを磁場エネルギーに変える「ダイナモ」という効果を生み出し、太陽を1つの巨大な磁石に変える。
赤道は極よりも速く回転するため、太陽の磁場はゴムバンドのようにねじれてゆく。その張力が周期的に高まると、太陽はフレアなどの激しい爆発を起こす。
こうした放射線や粒子の放出は、地球の近くの「宇宙天気」に影響し、オーロラとして空を照らしたり、人工衛星に不具合を引き起こしたりする。
1970年代、科学者たちは、太陽の大規模な磁場がパラシュートのように自転にブレーキをかけ、時間の経過とともに自転速度を徐々に低下させていることに気づいた。
2003年、米ウィスコンシン大学マディソン校の天文学者のシドニー・バーンズ氏は、この関係を利用して遠方の恒星の自転速度からその恒星の年齢を推定できると学術誌「The Astronomical Journal」で提案し、この手法を「ジャイロクロノロジー」と呼んだ。
しかし、恒星の年齢と自転速度の関係は、当初考えられていたほど単純ではないことが明らかになってきた。水素燃料をすでに相当量消費した、古い恒星については特にそうだった。
2016年、メトカーフ氏らは、太陽より古い一部の恒星の自転速度は、ジャイロクロノロジーの予測のようには減速し続けていないことを示した。これらの古い恒星は、クルーズコントロールに入ったかのように、自転速度が一定に保たれているように見えた。
メトカーフ氏のチームは2016年に学術誌「ネイチャー」に発表したその論文で、恒星の自転がある段階まで遅くなると、磁場のブレーキが大幅に弱まるという仮説を提唱した。原因として、大規模な磁場の強さや形が変化する可能性を挙げた。
彼らはこの停止過程に関する直接的な証拠を求めて、まずはさまざまな宇宙探査機が観測した太陽磁場のデータを調べ、続いて、米アリゾナ州にある地球上で最大級の光学望遠鏡である大型双眼望遠鏡(LBT)による観測などをもとに、年齢の異なる17個の恒星のX線輝度、自転速度、そして磁場強度などのデータを集めた。
メトカーフ氏らはこれらのデータをつなぎ合わせて2025年9月に学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に論文を発表し、太陽のような恒星では、中年期に差しかかるころ、大規模な磁場が従来のモデルで予測される以上に弱まることを示した。太陽は、まさにその分岐点に位置している。
「私たちは基本的に、太陽のダイナモがゆっくりと崩壊していく様子を観察しているのです」とメトカーフ氏は言う。「ただし、そのプロセスが完了するまでには、太陽の寿命の後半全体を要するでしょう」
天文学者の中には、この説明に納得していない人もいる。現在はドイツのライプニッツ天体物理学ポツダム研究所に所属しているバーンズ氏は「説明自体には問題はなく、真実かもしれません。ただ、少しこじつけのように見えるのです」と言う。「別の説明があるような気がします」
実際、別の可能性もある。大規模な磁場は一時的に弱まるだけという見方だ。フランス、パリ・サクレ―大学の天体物理学者のアラン・サシャ・ブルン氏らは、コンピューターシミュレーションを用いて、恒星の自転が太陽よりもさらに遅くなると、その極が赤道よりも速く回転しはじめ、磁場が再び強まる可能性を示した。論文は2024年4月に学術誌「Astronomy & Astrophysics」に発表された。
磁場がいったん弱まる理由の一つとして、ダイナモによって生じる恒星の磁場の形が、棒磁石のような単純な双極子から、四極や八極といった複雑な形に変化する可能性をブルン氏は指摘している。
2026年6月に東京で開かれた国際学会では、恒星の磁場がどう進化するかについて、研究者たちがそれぞれの考えを発表した。メトカーフ氏は現在、これらすべてが1つの物語にすっきり収まると考えている。
生まれたばかりの恒星の磁場は非常に複雑で、年を重ねるにつれて徐々に整列して強い双極子となり、自転にブレーキがかかって遅くなる。生涯の半ば付近で自転が極端に遅くなると、磁場は再び複雑な形状へと変化し、自転のブレーキが解除される。最後に水素燃料が尽きて恒星が膨張しはじめると、自転はさらに遅くなり、やがて再び双極子が支配的になるという。
メトカーフ氏らはわし座の恒星の観測データをもとに、この説を支持する結果を2026年4月に学術誌「The Astronomical Journal」に発表している。その恒星は太陽よりも進化が進んでいたにもかかわらず、非常に強力で安定した磁場を持っているように見える。ブルン氏のシミュレーションが予測するとおりだ。
しかしブルン氏は「まだ完全には解明できていません」と言い、観測された自転の変化が、磁場の形が変わることによって説明できるかどうか、モデル化によって明らかにしようと取り組んでいる。
この磁気の物語を詳しく解明することは極めて重要だ。恒星の活動や自転は、その周りを公転する惑星の環境を形作るからだ。
もしメトカーフ氏の言うとおりに太陽の大規模な磁場が崩壊しつつあるのなら、地球では今後数十億年にわたって宇宙天気が次第に穏やかになり、壊滅的な規模の太陽フレアの発生が減り、オーロラも弱まるだろう。
一方、ブルン氏の言うとおりに恒星の活動が再び活発化するなら、遠い将来には太陽の活動が急速に高まり、地球では絶えず地磁気嵐が発生することになるだろう。
しかし、そこから得られる教訓は地球だけに当てはまるわけではない。磁気進化の一貫した枠組みに太陽がうまく収まるようなモデルを構築できれば、私たちは太陽を「ロゼッタストーン」として活用し、他の恒星系についても学べるだろう。
時間は刻々と過ぎている。NASAは2040年代初頭に次世代大型宇宙望遠鏡「ハビタブル・ワールド・オブザーバトリー(HWO)」を打ち上げ、他の恒星の周りを公転する系外惑星上の生命の化学的痕跡を探す計画を立てている。25個の地球に似た惑星を直接撮影するのが主な目的だ。
そのためには、科学者たちは望遠鏡をどこに向けるべきかを知る必要がある。つまり、地球に似た惑星を持っている可能性が最も高い恒星を把握しなければならない。生命が居住できる可能性のある候補星を絞り込むため、天文学者たちは恒星の磁気活動に注目しはじめている。
例えば、TRAPPIST-1という恒星は7つの惑星を擁し、うち3つが、惑星の表面に液体の水が存在しうる「ゴルディロックス帯」にある。生命が居住できる可能性のある星の有力候補とされている。
だが、米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターに所属するセシリア・ガラッフォ氏とドレイク氏らが2017年にTRAPPIST-1の宇宙天気をシミュレーションしたところ、恒星からの荷電粒子が惑星に直接流れ込み、大気が大きく剥ぎとられるおそれが示された。そうなれば、私たちが知っているような生命が存在する見込みは薄くなる。
HWOの観測対象の優先順位付けを支援している米アリゾナ州立大学の天体物理学者で宇宙生物学者であるパトリック・ヤング氏は、恒星の活動履歴は、惑星の居住可能性を判断する上で有用な選別基準になり得ると考えている。「恒星の活動がしばらく落ち着いていれば、心配すべき要素が1つ減ることになります」とヤング氏は言う。
しかし、地球外生命体の探索について助言を行う前に、天文学者たちはまず、恒星の自転についてより深く理解する必要がある。「私たちが理解していない部分があるのは間違いありません」とバーンズ氏は言う。「私は生涯をかけて自転の研究に取り組んできましたが、まだ入り口に立っている状態です」
文=Zack Savitsky/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年10月6日公開)