旅行中に1歳長男が交通事故死「縁もゆかりもない場所、棺には靴だけ」…両親、当たり前の日常奪われた無念を語る
昨年9月、高知東部自動車道で乗用車2台が正面衝突して4人が死傷した事故では、大阪市の神農煌瑛ちゃん(1)が唯一亡くなった。煌瑛ちゃんの両親は読売新聞の取材に応じ、家族旅行中の突然の別れだったとして、「縁もゆかりもない場所で息子一人だけ旅立たせてしまった。後悔してもしきれない」と、胸の内を明かした。(阿部大樹)
現行犯逮捕後に釈放し任意捜査
事故で亡くなった煌瑛ちゃん=神農さん提供事故は昨年9月21日午後、高知県香南市夜須町の高知東部自動車道下り線、香南やすインターチェンジ(IC)付近で発生。煌瑛ちゃんが外傷性ショックで亡くなり、乗用車を運転していた父親の自営業神農諭哉さん(34)と妻の彩乃さん(38)も重傷を負った。南国署はもう一台を運転していた高知市の会社員の男を、自動車運転死傷行為処罰法違反の過失運転致傷容疑で現行犯逮捕し、過失運転致死傷容疑に切り替えた後、釈放して任意で捜査している。
事故当時、神農さん一家が乗っていた乗用車=神農さん提供神農さん夫妻は6月、読売新聞の取材に応じた。神農さんによると、高知には仕事を兼ねた家族旅行で訪れ、事故は大阪市の自宅へ帰る途中に起きた。彩乃さんが助手席、後部座席に長女と長男の煌瑛ちゃんが乗り、夫妻はシートベルト、子ども2人はチャイルドシートに座ってしっかり安全対策を取っていたという。
事故の瞬間、「一瞬過ぎて声が出なかった」と彩乃さんは語る。彩乃さんは意識がもうろうとする中、神農さんが「煌瑛が息をしていない」「戻ってこい」と叫び続ける声を聞いた。高知市内の病院に搬送されたが、煌瑛ちゃんの意識が戻ることはなかった。
誕生日から1か月半、成長楽しみだった
神農さんたちも入院したため、煌瑛ちゃんとのお別れはゆかりのない高知でせざるをえなかったという。彩乃さんは悔やむ。「地元ではなかったので、( 棺(ひつぎ) に)入れてあげられたのは靴だけ。よちよち歩きで一生懸命歩いていたから」
事故の約1か月半前に1歳の誕生日を迎えたばかりの煌瑛ちゃんは手のかからない赤ちゃんだったという。「保育園に預けた初日も全然泣かなくて、『人生5回目なんじゃない』って話していた」と彩乃さんは言う。「そんな子だったから、どう成長していくかが楽しみだった」と涙ぐんだ。
神農さんも「当たり前の日常が奪われてしまった。僕が仕事から帰ってきたら迎えてくれた息子が、自宅に最初に戻ってドアを開けた時にもういないんだと実感して、すごくしんどかった」と打ち明けた。
厳罰求め署名活動
神農さん夫妻は今後、高知市内やインターネットで、男への厳罰を求める署名活動を行うという。彩乃さんは「今は私も主人も息子に『ごめんね』って謝っているけど、闘い抜いたときには違う言葉がかけられるかもしれない」と決意を固めていた。