大谷翔平、「春眠」から覚め本領発揮へ コンタクトポイント改善か

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「コンタクトポイントは打った過程のなかで、自分で操作するところではないので……」

これまで何度か紹介してきたコンタクトポイントの話。データが残る過去2年と比べて、前になっている――。つまり今年の大谷翔平(ドジャース)のコンタクトポイントは、投手寄りになってきている、という現象をデータで示してきたが、ようやく本人に確認することができた。

今年はポイントが前になっている。それは決して悪いわけではないが、本来のポイントではない。違うといっても、ボール1個分だが、それはどんな違いをもたらすのか?

5日、マイアミでライナーの本塁打を打った日の試合後に聞くと、図らずも大谷本人の口から、一番聞きたいワードが出てきた。

本題に入る前に少し整理したい。まず3月末、今年からどこでボールをとらえたのか、というデータが公開されることを紹介した(3月31日公開「大谷翔平の『非常識』な打撃 体に引きつけ異例の飛距離」)。

過去のデータから、大谷がボールを手元までグッと引きつけて打っていることが明らかになり、それによって反対方向に強い打球が飛んでいる、ということが裏付けられた。ところが、今季が始まってからデータを確認すると、コンタクトポイントが前になっていた(4月28日公開「大谷翔平、データが示す『異変』 興味深いその読み解きと修正力」)。

それはまず、以下のデータから推測ができた。4月22日終了時点のデータだが、右方向への打球が59.0%と、突出して増えていた。過去は2021年の46.4%が最多。ゴロの割合も今年は39.3%で最多だった。

傾向として、大谷の場合、右方向へのゴロが多いときは打撃状態が良くない。ただ、それほど単純な話でもない。これまで右方向へのゴロというのは、変化球にタイミングが合わず、というケースが多かった。ボールがなかなか来ないことでバットが止まらず、ベースの前で引っかけるパターンである。

ところが今年は、フォーシームを打ってゴロになるケースが45.8%もあった(4月22日終了時)。23年は13.9%、昨年は15.8%だった数字が、である。

これはさすがにおかしい。例年なら、「コンタクトポイントが前になっているのでは?」という推測までしかできなかったが、今年からコンタクトポイントのデータが公開されているので、早速調べていると、果たして、その通りだった。

米大リーグが独自に開発した解析ツール「STATCAST」のデータが検索できる「Baseball Savant」では、大きく分類して以下の4種類のコンタクトポイントが調べられる。

①実際に打った場合②ファウル③空振り(ボールとバットが一番接近した地点)

④総合値

それによると、すべての値が投手寄りになっていた。だいたい2インチ(約5センチ)前後で、実際に打った場合でみると、4月23日の時点でマイナス1.7インチ。昨年はマイナス3.7インチ、23年はマイナス4.3インチだった。

基準はホームベースの一番投手寄りの一辺で、数値がプラスであればそのラインよりも前、つまり投手寄りの地点でコンタクトし、マイナスの値が大きければ大きいほど、手元で打っていることになる。その値は当然、打席で立っている位置の影響を受けるので、Baseball Savantでは、体の重心からの距離も掲載されている。大谷の場合、当然ながら、その値も遠くなっていた。

では、それがなぜかということだが、大谷に聞くと、冒頭で紹介したように「コンタクトポイント」というキーワードがまず出てきたのだった。本人の答えはこうだ。

「本当に構えから動きのなかで正確に動けていれば、自分のいいヒッティングポイントに近づいていく」

この言葉を読み解けば、まだ、4月は体の動きが本来のものではなかったということになる。ヒッティングポイントという言葉を使ったが、自分のポイントで打っていないことを把握している点も、注目に値する。

構えからの動きについては、こう補足した。

「例年、この時期に、一番いい状態になることはあまりない」

実際、3、4月を終えた時点での成績は、例年に比べてやや三振が多いが、試合数などを考えれば心配するほどでもなく、全体的にも決して悪くない。

ただ、本人の中ではまだ、しっくりこないところがあるのか。

昨年と一昨年に関しても、コンタクトポイントを月別に検索できるなら、今年と同じような数値で、5月以降、徐々に改善された可能性もある。

大谷は最後にこう付け足した。

「きょうもいい打席、悪い打席がありましたけど、(いい状態に)近づいてきてはいるんじゃないかな」

言葉通り、その直前のアトランタ遠征(5月2〜4日)では、中堅方向への打球が増えていた。

なによりそのことを証明したのは、マイアミでの2本塁打。ともに右翼方向ではあったものの、冒頭で触れた5日の1本は117.9マイル(約189.7キロ)という打球初速で、それは今季自己最速であり、メジャー全体でも本塁打では最速だった。また、その翌日に放った右翼2階席への本塁打は、本人も「本塁打の中でも、毎回ああいう本塁打が打てるわけではない」と話すほど。いずれも、たまたま打てるような打球ではない。

一過性ではないことは、先週末のダイヤモンドバックス戦でも証明。9日の試合では、右中間、左中間にそれぞれ二塁打を打ったあと、最後は右中間に3ランを放ち、試合を決めた。

これまで投手に比べて野手の数値化は遅れていたが、スイングスピード、コンタクトポイント、アタックアングル、スイング軌道、インパクトゾーン、向かってくるボールとスイング軌道の一致率などの可視化が進み、それぞれの関連理論も定着しつつある。この傾向が出ているときはここを修正すればいい、といった具合に。

大谷には過去、データに関する質問を重ねてきたが、一度としてその説明を求められたことがない。こちらも知っているものとして聞いている。本来、データは身体能力に劣る選手が、それを補うツールという位置付けでもあったが、大谷のようにメジャー屈指の身体能力を持つアスリートがデータに精通し、言語化できるようになると、こちら側も読み解きや答え合わせががぜん、面白くなる。

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