指名漏れで会場に姿なし…大阪桐蔭エースに"明暗" 無念の18歳に名将が託した言葉
「指名されなかったとしても、まだ終わるわけじゃない」――。23日に行われた「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」で、U-18日本代表として世界を経験した、大阪桐蔭の中野大虎投手の名前が呼ばれることは無かった。それでも西谷浩一監督が語った言葉には、教え子への信頼と未来への期待がにじんでいた。
1年春に149キロをマークし、“スーパー1年生”として森陽樹投手とともに注目を集めた中野。2年夏の甲子園では初戦に先発し、4安打完封勝利を挙げ、一躍全国区の存在となった。以降はチームの中心として、精神面でも投手陣をけん引。最上級生となってからは主将を務め、背番号1も背負った。
しかし、最後の夏は府大会決勝で東大阪大柏原に延長10回の末に敗れ、甲子園出場を逃した。試合後にはチームメートをねぎらい、最後までキャプテンとしての責任を果たしながらも、最後は涙がこぼれた。
9月には侍ジャパンU-18代表に選出され、W杯にも出場。南アフリカ戦では先発し、スーパーラウンドでは中継ぎとして2試合に登板して2勝を挙げるなど、計3試合3勝無敗で大会最多勝を記録した。マウンド上では堂々と立ち向かい、ベンチでも誰よりも大きな声で仲間を鼓舞。国際舞台でも強いリーダーシップを発揮した。
引退後は高校からのプロ入りに最後までこだわり、志望届を提出した。しかしこの日、名前が呼ばれることは無かった。西谷監督から「育成はお断りしている」と説明され、中野が最後まで会見場に姿を見せる機会はなかった。一方でオリックスに2位指名を受けた森は、「今まで切磋琢磨してやってきたので、プロの世界で一緒に投げ合いたい」と最後まで語っていたが、念願の“共闘”は叶わなかった。
西谷監督「まだ終わるわけじゃない。スタートの日」
今年で、大阪桐蔭としては8年連続でプロ野球選手を輩出。会見後の囲み取材で尋ねられた西谷監督は「それぞれみんな頑張ってくれた結果として嬉しく思っています」と過去の教え子たちに感謝を告げた。さらにそのまま、中野の名が呼ばれなかった現実を受け止めたように、静かに続けた。
「(指名が)かかる場合もあれば、かからない場合もある。指名されなくても次のことを考えて、まだ終わるわけじゃない。スタートの日だと思っています」
その言葉は、まるで中野本人に向けられたようだった。
「指名終了を聞いて、ありがとうございましたという感じでした。自分の中で踏ん切りをつけたという印象です。気持ちが強い子で、ブレることなく高校からプロに行くことにこだわった子。中野のことなので、また明日から次に向けて頑張ってくれると信じています」。最後まで教え子への信頼を口にした名将。
中野はこれまで、どんな場面でも仲間を鼓舞し、先頭に立って戦ってきた。U-18では国際大会のプレッシャーにも動じず、自然とチームの中心で引っ張り続けた。誰よりもチームを思い、勝利のために声を枯らしたその姿勢は、多くの人の記憶に残っている。
名将が言った「スタートの日」という言葉通り、プロの夢を諦めるわけではない。大阪桐蔭のエースとして戦い抜いた右腕の次章が、今まさに始まろうとしている。
(木村竜也 / Tatsuya Kimura)