ロシア政府内に怒りと警戒感、ウクライナが戦略爆撃機攻撃で-関係者

ロシア領内深くへのウクライナのドローン攻撃に、ロシア大統領府では怒りと警戒感が広がっていると、同国高官に近い関係者が明らかにした。戦場から遠く離れた航空戦力の弱点が、突如として露呈した。

  シベリアの空軍拠点に駐機していたロシアの長距離爆撃機に対する1日の劇的な攻撃は、強力なミサイルをウクライナに放つロシア空軍の準備に混乱を生じさせた。また、ロシア軍が安全と見なしていた前線から数千キロ離れた地点の標的に対しても、ウクライナは攻撃できることを実証した。

  これが戦争の行方を変えると予想する者はいないが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「見事な」隠密作戦だと称賛した。

  同大統領によると、計画着手から実行まで1年半を費やし、戦争開始以降最も長距離の作戦だった。

ロシア領内深くに駐機していた航空機を攻撃するウクライナのドローン(1日、写真はウクライナ保安庁提供)

  この攻撃でロシアが軍事目標を変更する可能性は低いが、プーチン氏周辺の意思決定層を動揺させる効果はありそうだ。ロシア大統領府に近い関係者は、ウクライナへの攻撃には数機の爆撃機があれば十分で、攻撃が緩和することはないと、匿名を条件に述べた。

  だが、今回の攻撃は戦略爆撃機「ツポレフ160」や「ツポレフ95」、長距離爆撃機「ツポレフ22M3」などロシアの航空資産に直接的な打撃を及ぼした。航空戦力はこれまで既に打撃を被っている陸上や海上の戦力と比べ、比較的攻撃されにくいと考えられてきた。ロシア国防省は、1日に全土で5つの空軍拠点が攻撃を受けたと確認した。

1日の作戦を検証するウクライナ保安庁のマリュク長官

  ウクライナは40機余りに攻撃が命中したとしているが、ロシアは数機が損傷したと認めているだけだ。関係者によると、ロシア大統領府は損傷した機数を10機近くとみている。ソーシャルメディアのテレグラムで130万人近くのフォロワーを抱える同国の軍事ブロガー、ライバー(Rybar)は13機が損傷し、その大半が長距離爆撃機だと見積もった。

  英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で軍事航空を専門とする上級研究員、ダグラス・バリー氏は、ツポレフ95の機数をわずかに減少させるだけでも残る機体への負担は増すと指摘。同機はソ連時代の1950年代に配備が始まり、巡航ミサイルを搭載できるよう改修された。

  バリー氏によると、ロシアのいわゆる「核の3本柱」、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機のうち、ツポレフ95は既に最も小さな構成要素だった。「それが今やいっそう小さくなった」と同氏は語った。

  ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所の国際安全保障センター研究員、ドミトリー・ステファノビッチ氏は、「衝撃はあまり公にできるものでなく、不快」だと表現。攻撃を受けた爆撃機は通常兵器を使用する作戦に投入され、同国の核能力には「弱い影響」しかないだろうとし、核戦力ではICBMやSLBMが大きな役割を担っていると指摘した。

  ロシア大統領府や国防省に近い関係者らも、今回の攻撃でロシアの核戦力が大きく削がれることはないとの見方を示した。

  ロンドンを拠点とする政治アナリスト、ウラジーミル・パストゥホフ氏は「この戦争の目標達成には、十分過ぎる軍装備が残っている」とテレグラムで主張した。

  だが、今回の攻撃は核大国というロシアが恐れられる核心に切り込み、プーチン氏の強いイメージを切り崩すものだと、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)で電子戦・防空を専門とするアソシエートフェロー、トーマス・ウィジントン氏は指摘。ウクライナは今や、ロシアの核抑止力を正当な標的だと見なしているとの見解を示した。

  「今回の攻撃は、爆撃機の拠点のような主要戦略資産すら守れないというロシアの防空体制の無力ぶりをさらけ出した」とウィジントン氏は述べた。

  ロシアは米国と欧州の制裁により、損傷したハードウエアの修理や改装が難しい。ロシアの航空資産の縮小はいかなるものであれ、防空能力の生産でロシアに後れを取っている欧州諸国にとっては朗報で、ロシアの戦略爆撃機は北大西洋条約機構(NATO)の脅威でもあると、ウィジントン氏は論じた。

原題:Ukraine’s Brazen Drone Strike on Nuclear Bombers Alarms Moscow(抜粋)

関連記事: