「ドジャースは何度も警告を無視した」佐々木朗希が故障者リストに…既報で感じた日米メディア“報道文化の違い”は?「1年目のアップダウンは当然」(Number Web)|dメニューニュース

「ドジャースは何度も警告を無視した」佐々木朗希が故障者リストに…既報で感じた日米メディア“報道文化の違い”は?「1年目のアップダウンは当然」 photograph by JIJI PRESS

 鳴り物入りでMLBのトップ球団へと移籍した佐々木朗希が「右肩インピンジメント症候群」のため15日間の故障者リスト(IL)入りした。期待の大型ルーキーの戦線離脱は、本国アメリカメディアでは、いかに受け止められているのだろうか?《NumberWebレポート全2回の2回目/最初から読む》

MLB関係者からは厳しいコメントも…

「MRIの結果、右肩のインピンジメントだと判明した。ササキはそれまで何も言わず、数週間抱えていたと主張している。最も腹立たしいのは、選手が自分の体について正直に伝えないことだ。我々が状態を推測しなければならなくなる」

 IL入りが発表されたロサンゼルス・ドジャースの佐々木朗希について、そう厳しい言葉で評したのは元マイアミ・マーリンズ球団社長のデビッド・サムソン氏だ。

 サムソン氏は「パフォーマンスが悪化し、防御率は4.70、三振は取れず、球速も落ちていた。『なぜ黙っていたんだ?』と言いたくなる」とケガそのものよりも佐々木のセルフマネジメントの姿勢に疑念を口にしている。

 MLB公式やESPNは、佐々木の平均球速が日本時代より明らかに低下していた点に注目し、「パフォーマンス全体が落ちていたことと関係があるだろう」と冷静に分析。そのうえで「今回の離脱は再調整のチャンス」と佐々木自身のコメントで記事を締めるなど、育成の視点から報じている。

『ロサンゼルス・タイムズ』のディラン・ヘルナンデス記者は、ドジャースの故障管理体制そのものを強く批判した。「ドジャースは何度も警告サインを無視し、自業自得の泥沼に足を踏み入れてきた」とし、ロバーツ監督にも「またツケを払わされる」と痛烈なコメントを投げかけている。

「佐々木離脱」の報に見る日米“報道文化”の違い

 注目すべきは、これらの批判は佐々木個人に向けられているのではなく、あくまで球団の起用判断や負荷管理システム、選手と監督コミュニケーションの甘さを問題視している点だ。個人ではなく、組織に責任を問う姿勢。それはアメリカの報道文化を象徴するものかもしれない。

 対して日本の報道は、すべての報道が否定的というわけではないがやや個人への厳しさが先行した。

 佐々木はかねてから「類稀な才能と引き換えの繊細さ」を指摘されてきた。ロッテ時代の5年で登板回数が20試合を超えたシーズンは2022年の一度だけで、通算投球イニングも394回2/3にとどまる。

 昨年も右上肢のコンディション不良などで離脱し、投球回数は111イニング止まり。自身初の2けた勝利を挙げたものの、「日本で圧倒的な成績を残した」とまでは言い切れない。そんな背景もあり、紙面やネット上では「メジャーで通用せず“期待外れ”」「球威が落ち、制球もバラバラ」といったような見出しが並び、否定的な記事も目立った。

 佐々木は、IL入りする前の最後の登板となったアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦で平均94.8マイル(約152.6キロ)の速球を投げたが、これは過去のシーズン平均を1マイル以上下回っていた。結果的にこの試合では4イニングで5安打5失点、メジャーキャリアで初めて三振をひとつも奪えなかった。

 最速160キロ超のフォーシームと鋭いスプリットを武器に、佐々木は昨オフのポスティング市場で脚光を浴びた。

『ロサンゼルス・タイムズ』(1月23日付)によれば、10代の頃にトミー・ジョン手術を勧められるほどの肘の不安を抱えており、「2年後の健康は保証できない」と考え、契約制限のある23歳の時点にもかかわらず、ポスティングを決断。「万全のうちに、世界最高峰で投げたい」という強い覚悟があったという。

 最終的にドジャースが争奪戦を制し、彼は即ローテーション入り。大谷翔平、山本由伸と並ぶ存在として、球団内外から即戦力としての期待が寄せられていた。

安定感を欠いたここまでの登板内容

 しかし、ここまでの道のりは厳しかった。8度の先発で1勝1敗、防御率4.72。34回1/3を投げながらも、1試合あたりのイニング数は5回未満とスタミナ面でも課題を残す。与四球22、奪三振24と四球と三振が拮抗しており、内容的にも安定感に欠ける。

 フォーシームは特に問題視されている。日本では100マイル(約161キロ)超を記録していた球速も、今季は開幕戦を最後にそこまで届かず、平均96マイル、最近2試合は94マイル台にまで落ちた。さらに空振り率は10.1%と、メジャー平均(21.3%)の半分以下にとどまっている。

 ロバーツ監督は、「今になってみれば、肩の違和感をかばった結果、フォームが崩れていたのは明らかだ」と説明し、「彼は何よりもチームのために投げようとしていた」と、責任感の強さが裏目に出たと指摘した。

 佐々木は“令和の怪物”として日本で高い評価を得てきた。最速165キロ、完全試合、WBCでの快投。特に日本のファンの間で形成された理想像が、MLBでの「現実」に直面したとき、厳しい目にさらされるのは避けられない。

メジャー1年目…「アップダウンは当然」

 だが彼はまだ23歳。米スポーツメディア界で140年近く続く老舗メディア『スポーティングニュース』で編集長を務めるベンソン・テイラー氏も「ケガがなかったとしても、メジャー1年目の選手にアップダウンがあるのは当然」と語るように、新天地で壁にぶつかること自体は異常なことではない。

 今回のIL入りは、その壁に向き合うためのきっかけに過ぎない。フォームの修正、球速の再構築、肩の回復──。すべてをリセットしたうえで、再びマウンドに立つ日を目指すことになる。

 繊細な感覚で投球を突き詰めてきた佐々木にとって、そのプロセスは決して短くはないだろう。それでも、低めに沈むスプリットと、ズシンとミットを鳴らすフォーシームをもう一度目にする日を、信じて待ちたい。

 今回の離脱はキャリアの中断ではなく、再出発の準備期間だ。

 球団の起用方針、ファンの期待、メディアの論調──すべてと向き合いながら、佐々木は“期待”の先にある本当の自分を掴みにいく。

 その歩みの先に、MLBのマウンドで再び“異次元”を見せる日が来ることを信じたい。

文=一野洋

photograph by JIJI PRESS

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