岩田聡元社長の遺産:ルーヴル美術館での3DSガイドサービス、2025年9月終了へ。後継はスイッチ2?(多根清史)
初代Nintendo Switchは、据え置き型と携帯型を融合したハイブリッド構想を含め、任天堂の岩田聡元社長が開発に大きく貢献したことで知られています。その岩田氏が関わったもう一つの事業、フランス・ルーヴル美術館での3DSを活用したガイドサービス「Audioguide Louvre - Nintendo 3DS」が、2025年9月をもって終了することが発表されました。
ルーヴル美術館の公式サイトでは、「ニンテンドー3DSのオーディオガイドは2025年9月に運用を終了し、新システムに置き換えられます」と明記されています。
このサービスは2012年4月から開始され、特別デザインのNewニンテンドー3DS XLを有料で貸し出すかたち(現在は6ユーロ)で提供されています。内容は非常に充実しており、700以上の作品解説、高解像度写真、3D画像や動画、さらに館内の位置情報に連動したナビゲーションまで、3DSの機能をフル活用。音声ガイドはフランス語、英語、ドイツ語、韓国語、スペイン語、イタリア語、日本語の7ヶ国語に対応しています。
特に注目すべきは、GPSを搭載していない3DSでありながら、来館者の現在地を正確に把握していた点です。これは館内に500本以上設置されたビーコン発信機からの電波強度をもとに現在地を推定する仕組みで、利用者の移動に合わせて自動で解説が再生されたり、部屋に入ると画面が部屋内マップに切り替わるなど、非常にスムーズな案内が実現していました。
もちろん、歴史的建造物であるルーヴル美術館には多くの制約があります。建物に釘を打つこと、床に物を置くことも禁止され、配線工事ができない箇所もあるなか、天井や扉の裏側にビーコンを隠す、壁と同じ色に塗装する、電池駆動にするなど、設置にはさまざまな苦労が伴いました。これらの舞台裏は、任天堂公式インタビュー「社長が訊く」での岩田・宮本両氏の対談内でも語られています。
すべての始まりは宮本茂氏の「趣味」から
Image:任天堂/YouTubeこのプロジェクトの発端は、宮本茂氏による「DSをパブリックスペースで活用したい」という発想に遡ります。美術館めぐりが趣味だった宮本氏は、従来の音声ガイドに不満を覚え、「DSを使えばもっと便利にできるはずだ」と考えました。これは『ピクミン』(庭いじり)や『Nintendogs』(犬の散歩)と同様、“宮本氏の趣味が仕事になった”シリーズの一環でもあります。
実際の起源となったのは、東京ディズニーリゾート内の「イクスピアリ」における「ニンテンドーDSガイド」でした。ここでは、無線LANとビーコンを使った自動マッピング機能が導入され、現在の位置情報システムの原型となりました。その後、海遊館や新江ノ島水族館、京都の精華大学などでもDSを使ったガイドサービスが展開され、任天堂の波多野信治氏(当時の役員)の仲介で、ルーヴル美術館との提携が実現したしだいです。
任天堂は2013年に「ニンテンドー3DSガイド ルーヴル美術館」というダウンロードソフトも発売し、Nintendo Directでは岩田氏と宮本氏が実際にルーヴル館内を歩く映像が公開されています。
ルーヴル美術館は後継となる「新システム」についての詳細をまだ明かしていませんが、500本を超えるビーコンをすべて撤去・再設置するのはコスト的にも現実的ではないと考えられます。スマートフォン+アプリによる置き換えも十分ありうる一方で、ハイブリッド機として進化したNintendo Switch 2が、このガイドの後継プラットフォームとなる可能性も期待したいところです。
京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。