日本政治この1年 目先の損得にとらわれた
多党化が進む中で、与野党はともに目先の損得にとらわれ、長期的視野を欠いている。新たな「政治のかたち」を見いだせるかが問われる。
この1年で浮き彫りになったのは、結党70年を迎えた自民党の弱体化である。石破茂前政権は、昨秋の衆院選に続いて今年7月の参院選でも大敗し、退陣に追い込まれた。
Advertisement衆参両院ともに与党が過半数を割り込む中で発足したのが高市早苗内閣だ。憲政史上初の女性宰相であり、保守論客としての知名度に加え、歯切れの良い物言いも好感を持たれている。
歴代屈指の高支持率を保っているが、政権基盤の脆弱(ぜいじゃく)さに変わりはない。むしろ前政権よりも不安定感を増している。
自民を補完してきた連立の足場がふらついている。強固なパートナーだった公明党が、自民総裁選で勝利した高市氏と決裂し、離脱した。閣外協力にとどめた日本維新の会は、離脱をちらつかせて要求を通そうとする。
大敗自民の脆弱な基盤
衆参両院選挙で自民が敗れた背景には、旧来型の政治手法が通用しなくなったことがある。各種団体の力が衰え、政策実現の見返りに「票とカネ」を得るシステムが破綻をきたした。
にもかかわらず、企業・団体献金にしがみつき、政治資金の抜本改革に抵抗している。根強い国民の不信を払拭(ふっしょく)しようとしない。
参院選大敗後は自民内で責任を押し付け合い、次の「選挙の顔」を巡って内輪もめに明け暮れた。3カ月にも及んだ政治空白は、統治能力の欠如を物語る。
与野党が拮抗(きっこう)する状況は、互いの主張を吟味して政策を練り上げる熟議につながるとの見方もあった。だが、そうした期待は裏切られた。
石破氏は国会の過半数を確保する「数合わせ」に追われ、全体構想を欠いたまま、野党の主張に押し切られた。積極財政を掲げる高市首相は、むしろ野党公約を前のめりに取り込み、予算を膨張させている。政権基盤の弱さを補うために、場当たり的な対応に終始するようでは無責任だ。
野党各党は、個別政策の実現を「手柄」にしようと争う。ただ、財源確保を与党に丸投げするご都合主義も目につく。
「年収の壁」引き上げや高校授業料無償化、ガソリン暫定税率の廃止など、財源の裏付けがない減税や財政出動が相次いだ。足元の国民負担軽減を優先するバラマキと言うほかない。
借金依存の財政をこのまま続ければ、次世代へのツケが増えるばかりだ。円安や長期金利の上昇が止まらず、市場の信認を失う懸念も高まっている。将来まで見据えて暮らしの安全・安心を確保する施策が不可欠となる。
民意が多様化する中にあっては、いずれの党も数の上で方針決定を左右しうる。責任政党としての自覚が求められる。
責任ある国会の実現を
国政の右傾化も鮮明となった。
参院選では、外国人政策が争点として急浮上した。社会に対する人々の漠然とした不満や不安が、真偽不明の情報と結びつき、交流サイト(SNS)などで急激に拡散された。受け皿となった中小政党が躍進する一方、立憲民主党などの中道勢力は埋没した。
首相は、自民から離反した保守層の支持を取り戻そうと、「高市カラー」の濃い右派的政策を次々と打ち出す。外国人への規制強化はその一つだ。
うつろいやすいネットの論調に一喜一憂し、排外主義の風潮をあおるようでは、共生社会の構築に逆行する。人口減少下での働き手の確保も難しくなる。
台湾有事を巡る国会答弁をきっかけに日中関係が緊張し、経済などに悪影響も出ている。首相の強気な対中姿勢は高支持率の一因とされるが、「強さ」をことさらに誇示する振る舞いには危うさがつきまとう。
政権内では「勢いが落ちないうちに議席増を」と早期の衆院解散も取り沙汰される。ただ、参院では過半数に届かず、多党化のすう勢は当面変わらない。
幅広く合意形成を図り、バランスの取れた政策へ落とし込む。それこそが国会本来のあり方だ。
安易なポピュリズムに走ることなく、日本が困難な時代を乗り切るための政治を実現しなければならない。