米最高裁、トランプ大統領の命令を阻止する裁判官の権限抑制 国籍の出生地主義めぐる訴訟で

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米連邦最高裁は27日、下級裁判所の裁判官が大統領命令を阻止する権限は限定的なものだとする判断を示した。ドナルド・トランプ大統領はこれを、「巨大な勝利」と歓迎した。一方、少数意見を書いたリベラル派の最高裁判事は、最高裁が法の支配を守る役割を放棄し、大統領が憲法を嘲笑したと批判した。

判決は、アメリカで生まれた子どもにほぼ無条件で国籍を与えるいわゆる「出生地主義」制度を、トランプ氏が大統領令で修正しようとしたことをめぐる訴訟について。

最高裁は、大統領令に対する差し止め命令の範囲を改めて審理するよう、下級裁に命じ、トランプ大統領の大統領令について、命令は6月27日から30日間は発効しないとした。また、大統領令が合憲か違憲かの判断は下さなかった。

最高裁の判事9人は6対3で、政権側の主張を認める判断を示した。最高裁は、これは出生地主義修正に関する判断ではなく、大統領の決定を下級審が差し止めること全般についての判断だと説明した。

金曜日の判決によれば、裁判所は違憲または違法とみなされる大統領の行動を止めることはできるものの、それは司法のプロセスの中でより進んだ段階で行われることになり、大統領に行動する余地を与えることになる。

差し止めを制限する判決が出たため、トランプ大統領の出生権市民権命令は、裁判所の意見書が提出されてから30日後には発効できることになる。

複数の法学者はこの最高裁判決によって、政府決定への対抗手段が今後は変わることになると指摘。今回の最高裁判決を、引き続き法廷で争う動きも続くだろうという。

「出生地主義」修正の大統領令については、ワシントン、マサチューセッツ、メリーランドなど22州と移民権利団体が、命令差し止めを請求して政権を提訴。各地の連邦地裁が執行差し止めの仮処分命令を出していた。これに対して、トランプ政権側は、下級裁判所が全国的な差し止めを命令する権限を制限できるのは違憲だと、最高裁に訴えていた。

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画像説明, 記者会見で最高裁判決を歓迎するトランプ大統領。後ろに、パム・ボンディ司法長官(左)とトッド・ブランチ司法副長官(27日、ホワイトハウス)が並ぶ

最高裁判決を受けてトランプ大統領は急きょ記者会見を開き、判決は「憲法、三権分立、法の支配の記念碑的勝利」だと述べた。

大統領は、「急進左派の裁判官」が自分の大統領権限を覆そうとしており、全国的な差し止め命令は「民主主義に対する重大な脅威」だと批判した。

記者会見に出席したパム・ボンディ司法長官は、最高裁判決を受けて、裁判官がトランプ大統領の政策を止められないことになったと主張。次の最高裁会期が始まる今年10月には、出生地主義による国籍取得そのものを最高裁が審理することを期待していると述べた。

今回の最高裁判決を受けて、司法は大統領の行動が違憲または違法とみなされる場合は、それを差し止めることができるものの、それは連邦地裁や高裁ではなく、最高裁の判断となるため、大統領の行動の余地が拡大する。

今回の判決について、米ノートルダム大学法科大学院の教授で、全国的な差し止め命令に詳しいサミュエル・ブレイ氏は、この判決について「連邦裁判所と行政府の関係を根本的にリセットした」と述べた。

行政措置へ対抗する手段として、これまでは全国的な差し止め命令を下級裁に求めるのが定番だったが、それが今後は通用しなくなるとブレイ教授は説明する。

最高裁判決で多数意見を執筆したエイミー・コーニー・バレット判事は、連邦裁判所は「行政府に対する全般的な監督権を行使」するのではなく、その代わりに「連邦議会が与えた権限に合致した訴訟や論争を解決」するのだと述べた。

「行政府が違法に行動したと裁判所が結論した場合、裁判所も自らの権限を逸脱することが、答えにはならない」とコーニー・バレット判事は書いた。

賛成意見を書いたブレット・キャヴァノー判事は、「主要な新しい連邦法令や行政行為の暫定的な法的地位に関する最終的な決定権を持つのは、依然として多くの場合」、連邦地方裁判所や控訴裁判所ではなく、最高裁判所だと書いた。

反対意見を書いたソニア・ソトマイヨール判事は、リベラル派判事たちを代表して、トランプ政権は「駆け引き」として最高裁に訴えを起こし、それに最高裁が「同調している」と批判。「(最高裁の)決定は政府に、どうぞ憲法を迂回(うかい)してくださいと言っているに等しい」と書いた。

「法の支配は、この国において、そして他のどの国においても、最初から当然のようにあるものではない。法の支配は私たちの民主主義の指針であり、政府の三権のすべてにおいて、勇気ある者がその存続のために闘ってこそ、永らえる。最高裁は今日、その取り組みにおいて不可欠な自らの役割を放棄した。ペンの一筆で、大統領はこの国の憲法を 『厳粛ぶって嘲笑 』した」と、ソトマイヨール判事は批判した。

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