米富豪ベゾス氏の結婚式、ヴェネツィア市民の抗議で会場移動へ 3日間の巨大イベントを計画
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サラ・レインズフォード・ローマ特派員、ダヴィデ・ジグリオーネ記者(ローマ)
米アマゾンの創業者で富豪のジェフ・ベゾス氏とテレビ司会者ローレン・サンチェス氏の結婚を祝う3日間のパーティーをめぐり、開催地の伊ヴェネツィアの市民や環境団体などが抗議活動を行っている。この抗議の影響で、ベゾス氏らの主要な祝賀イベントが、ヴェネツィア中心部から別の場所に移された。
ベゾス氏とサンチェス氏の結婚を祝うパーティーの詳細な会場は、公には発表されていなかった。
しかし、最終日となる28日には、豪華な祝賀行事が、ヴェネツィア中心部にある慈善団体の建物「スコーラ・グランデ・デッラ・ミゼリコルディア」で開催される予定だったという。
だが、ヴェネツィア市の関係者がBBCに明らかにしたところによると、ゲストらは代わりに、市内中心部から離れたアルセナーレ(造船所跡)に集まることになった。
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抗議活動を主導した市民団体は、地元市議に「ばかげている」と非難されながらも、「大きな勝利だ」と大いに喜んでいる。
「ノー・スペース・フォー・ベゾス(ベゾスの場所はない)」を名乗る団体のトンマーゾ・カッチャーリ氏は、「私たちはとても誇りに思っている! 私たちは無名の存在で、お金も何もない!」とBBCに話した。
「私たちはただの市民だ。自分たちで組織を立ち上げて、世界で最も権力を持つ人物の一人、そしてすべての億万長者たちをこの街から追い出すことに成功した」
結婚式は今週後半に始まる予定で、出席者にはキム・カーダシアン氏、歌手のミック・ジャガー氏、俳優のレオナルド・ディカプリオ氏、トランプ一族の何人かなど、世界的な著名人が名を連ねているとうわさされている。
ヴェネツィア空港にはプライベートジェットが殺到し、港には個人所有の大型ヨットが並ぶ見通し。市内のホテル5軒が全館貸し切られており、元アメリカ海兵隊員が警備に雇われているとの報道もある。
この大型イベントに対し、オーバーツーリズムに反対する地元住民や気候変動活動家、さらにはベゾス氏がドナルド・トランプ米大統領を支持することに反対する人々まで、さまざまな団体が抗議の声を上げた。
ここ数日、市内には「ベゾスの場所はない」と書かれたポスターが多数貼られ、運河にかかる橋にも抗議の横断幕が掲げられている。
23日には、「エブリワン・ヘイツ・イーロン(みんなイーロン<・マスク氏>が嫌い)」と名乗る団体の活動家が、サン・マルコ広場でベゾス氏の巨大な顔写真と、「結婚式のためにヴェネツィアを貸し切りにでるなら、もっと税金を払えるはずだ」と書かれた幕を広げ、超富裕層に抗議した。
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環境保護団体グリーンピースのシモーナ・アッバーテ氏は、「私たちは結婚式そのものではなく、それが象徴するものに抗議している」と話した。
「これは単なる結婚のお祝いではなく、ひたすら持続不可能なライフスタイルをひけらかすイベントだ。最も裕福な人々がぜいたくに暮らす一方で、他の人々は自分たちが生み出したわけではない気候危機の影響に苦しんでいる」
こうした抗議活動を、ヴェネツィア当局は厳しく批判している。市の関係者らは、富裕層の訪問が重要な市の収入源だと主張している。
「抗議者たちはまるで、ヴェネツィアが自分たちの物だとでもいう態度だが、そんなわけはない」と、同市の経済開発を担当するシモーネ・ヴェントゥリーニ市議はBBCに述べた。「誰ならここで結婚していいかなど、そんなことを決める権利は誰にもない」。
ヴェントゥリーニ氏は、抗議団体らは「ごく少数派」で、ヴェネツィア市民全体を代表するものではないと述べた。
その上で、「今回のイベントには、厳選された約200人のゲストが参加する予定で、街に大きな経済的利益をもたらす」とし、すべての催しが民間所有の施設で開催されていると強調した。
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ヴェネツィアをはじめとする南欧各地では、オーバーツーリズムの問題が深刻化しており、地元住民は美しい街が観光客に占拠され、生活が成り立たなくなっていると訴えている。さらに水上都市であるヴェネツィアは、気候変動によって深刻な水害のリスクにもさらされている。
同市当局は先に、観光客に対して1日5ユーロの入市税を導入したが、活動家らは、この措置では観光客が1人も減っていないと批判している。
ベゾス氏らの結婚式のゲストは、27日からヴェネツィアに到着する予定。一部の活動家はこれに合わせ、主要会場付近の運河に自ら飛び込む「水上抗議」を計画していた。空気でふくらませたビニールのワニと共に水中から富裕層の動線を妨害し、抗議の意思を示す狙いだったという。
この抗議は中止されたものの、「ノー・スペース・フォー・ベゾス」は週後半も、市内の建物にメッセージを投影する計画を継続しており、28日夜には抗議の最終行動としてデモ行進を呼びかけている。
「ベゾスはパーティーのためだけにヴェネツィアに来ている。それが問題だ」と、同団体のカッチャーリ氏は語った。「彼にとってヴェネツィアはもはや都市ではなく、私用のために貸し切り可能な巨大テーマパークのようなものだ」。
「彼はこの街全体が、大金持ちのパーティーの背景に過ぎないのだと、そういうメッセージを発信している」