ベッセント米財務長官、中国のレアアース政策に各国が協調対応へ
トランプ米大統領は15日、米国が現時点で中国との貿易戦争の状態にあるとの認識を示した。ベッセント米財務長官はこれに先立ち、中国が発表したレアアース(希土類)輸出規制の先送りを条件に、高水準の対中関税をより長期にわたり適用停止とすることを提案していた。
トランプ氏は、米中が通商合意に至らなければ、両国が持続的な貿易戦争に突入することになるのではないかと記者から質問されたのに対し、「今まさにそのさなかにある」と答えた。
米中は今年、最高で145%に上る高関税を90日間適用停止とすることで複数回合意しており、次回の期限は11月に迫っている。トランプ政権は中国のレアアース輸出規制強化の阻止を交渉の最優先課題に据えており、中国に対して規制撤回の見返りをちらつかせる一方、応じなかった場合の厳しい制裁措置を警告して圧力をかけている。
ベッセント長官は「見返りとしてより長期の適用停止は可能か。おそらく可能だろう。だが、それは今後数週間の協議次第だ」と、ワシントンで開いた記者会見で述べた。
トランプ氏とベッセント長官の相反する発言内容は、米中関係の緊張激化に揺れる投資家心理をあらためて浮き彫りにした。長官の発言を受けて米国株は上げ幅を拡大した一方、トランプ氏の発言はニューヨーク市場の取引終了後に伝わった。
また、グリア通商代表部(USTR)代表は、中国のレアアース規制が実際に実行できるか懐疑的な見方を示した。規制が発動されれば、「微量のレアアースを含むさまざまな消費財の貿易が途絶えかねない」と指摘。その上で「その規模と範囲は想像を絶しており、実行不可能だ」と主張した。
ベッセント長官の発言後、S&P500種株価指数は一時上げ幅を拡大。一方、クリティカル・メタルズやUSAレア・アース、MPマテリアルズなど、米上場のレアアース関連株は下落した。
協調対応
ベッセント氏は中国のレアアース規制強化を巡り、複数の同盟国およびパートナー国が協調して対応に乗り出す考えを表明。「われわれはこの問題に対して十分かつ組織的な対応を取る。中国の官僚が世界全体のサプライチェーンや製造プロセスを管理することはできないからだ」と述べた。
ワシントンで15日開催される主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、中国のレアアース輸出規制の阻止に向けて共同で対応することを協議する見通しだ。
クリングバイル独財務相は記者団に対し、的を絞った措置を通じて中国の輸出規制に対処する共通のアプローチについてG7会合では議論すると指摘。一方で、自国経済に悪影響が及ばないよう慎重に臨む必要があるとの認識を示した。
ベッセント長官はG7にとどまらず、より広範な国際社会の支持を得たい考えを示している。
今週ワシントンで開催される国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会に「私のカウンターパート(各国の財務当局者)が一堂に会している」と同氏は指摘し、「欧州の同盟国やオーストラリア、カナダ、インド、アジアの民主主義諸国と協議するつもりだ」と話した。
中国政府は先週、一部のレアアースを含む製品や関連技術に関する新たな規制を発表。中国産レアアースが使用された製品を輸出する外国企業は中国政府から輸出ライセンスを取得する必要があるとしている。
これに反発し、トランプ氏は11月1日から中国からの輸入品に100%の追加関税を課すと表明。習近平国家主席との首脳会談を中止する可能性も示唆した。14日には、中国からの食用油輸入停止を検討していると明らかにした。
ベッセント氏はこの日、現時点での認識として「トランプ氏は今月下旬、韓国での習主席との会談に出席する意向だ」と発言。その上で、自身がトランプ氏に先立ってアジアを訪問し、中国の何立峰副首相と会談する可能性が高いとの見方を示した。
アジア歴訪
ベッセント長官は、トランプ氏のアジア歴訪中に通商関連で複数の発表が行われるとの見通しを示した。トランプ氏はマレーシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席した後、日本とアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地である韓国を訪れる予定。
ベッセント氏はまた、米韓の通商交渉について「最終段階にある」と述べた。最近の協議では、大型の投資プログラムの枠組みを巡る議論が中心となっているという。さらにカナダとの協議も「軌道に戻りつつある」とし、インドとも交渉で進展がみられると語った。
円相場
日本経済新聞によると、ベッセント氏は円相場について「水準についてはコメントしない」としながらも「日銀が適切に金融政策を運営し続ければ、円相場も適正な水準に落ち着くだろう」と指摘した。日経など米国内外の主要メディアを財務省内に招き、質疑応答に応じた。
利上げの是非を巡っては「植田和男総裁がどのように判断するか私からはコメントしない」とした上で、「植田氏とは長い付き合いだが、非常に有能な人物だ」と語ったという。
一方、G7会合出席のため訪米中の加藤勝信財務相が15日、ワシントンでベッセント財務長官と会談したと共同通信が関係者の話として報じた。円安・ドル高傾向にある為替相場について協議した可能性があるという。
さらにベッセント氏はロシア産エネルギーの輸入について、すべての国が代替の調達先を確保すべきとの考えを表明。日本についても液化天然ガス(LNG)の輸入削減を求める考えを示したと日経は伝えた。
原題:Trump Declares US-China Trade War, Bessent Floats Long Truce、Bessent Floats Longer Tariff Truce for China Rare Earth Delay、G-7 Set to Discuss Joint Response to China Curbs on Rare Earths(抜粋)