関税交渉に託す石破首相「次のXデーは8月1日」、失敗なら責任論再燃
自民・公明の連立与党が参院選で歴史的大敗を喫した。野党が主張する消費減税を真っ向から否定した石破茂首相の続投で市場の財政拡大懸念はひとまず後退。8月1日に期限を迎える日米関税交渉に失敗すれば責任論が再浮上する可能性がある。
赤沢亮正経済再生相は21日から訪米し、8回目の関税協議に臨む。石破首相は同日の会見で、成果を得るべく、比較第1党として責任を持って詰めの協議を行っていると主張。自ら早期にトランプ米大統領と会談し、「目に見える成果を出したい」と意欲を示した。交渉が失敗した場合の責任論を問われ、「今たらればの議論をするつもりはない」と突っぱねた。
今回の与党敗北は交渉にも影を落とす可能性がある。赤沢氏は20日、「何よりも国益最優先でやってきており、選挙結果が特に影響することはない」との認識を示した。だが、衆参両院で過半数を割れた政権の閣僚との交渉に、従来と同じスタンスで向き合うかどうかは米国次第だ。
平成国際大学社会・情報科学研究所所長の佐々木孝夫氏は、「石破政権が求心力を失った今、交渉の主導権は米国にある」と指摘。「足元を見られた状態での関税協議は極めて困難で、日本にとって最悪のタイミングだ」と語った。
自動車や鉄鋼・アルミニウムなど個別に関税がかけられている品目を除き、8月1日からは一律で25%の関税が賦課される。政府は目先の交渉期限として同日を念頭に置く。トランプ氏は対日関税は発表通り発動されると強気の姿勢を示す。一方で、米側の交渉を主導するベッセント財務長官は「米国と日本双方に貿易協定は依然として実現可能な範囲にある」としている。
SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは関税交渉の成功は困難とみる。一方で、石破首相が政権維持のために大規模な補正予算を編成し、責任を問われても「当面は辞任しない」と予想。「関税交渉の失敗と大型補正がセット」だとの見方を示した。
金融政策にも影響
日本銀行も米関税措置の影響を経済・物価を巡るリスク要因の一つと位置づけている。明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは、「高関税が導入されれば景気後退の可能性が強まり、これまでの利上げ路線をいったん停止せざるを得ない状況もあり得る」と指摘する。
日銀は与党敗北を受けた長期金利など金融市場の動向や、今後の経済・財政政策が経済・物価に与える影響を注視することになる。30、31日に開く金融政策決定会合では、米関税政策を巡る不確実性が強い状況の中で、金融政策は据え置きが決まる可能性が大きい。
政権基盤の弱体化に伴う先行き不透明感の強まりも日銀が様子見姿勢を強める要因になり得る。一方、消費者物価が日銀の想定よりもやや強めで推移している中で、財政拡大の思惑などが一段の物価上昇圧力につながらないか注意が必要だ。経済・物価の最新の見通しを示す来週の決定会合を控え、23日に行われる内田真一副総裁の講演と記者会見が注目される。
参院選後の外国為替市場では、円が対ドルで上昇。過半数割れが小幅にとどまり過度な円売り圧力は和らいだ。連休明けの22日の日本市場は東京株式相場は上昇して開始した。債券相場は下落。今後の財政悪化懸念が残るほか、23日の40年債入札に対する警戒感が重しになっている。
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くすぶる懸念
石破首相の政権運営は野党の協力なしには進まない。消費税や所得税の減税を主張する野党の影響力拡大で与党が譲歩を強いられることも想定され、財政拡張懸念はくすぶっている。専門家からは今後の財政政策運営で混乱が避けられないとの声が出ている。
衆院に続き参院も与党が過半割れに転落したことで、政策遂行は一層停滞する可能性がある。中でも消費税の考え方を巡っては、社会保障財源としての必要性を訴えた与党に対し、野党は税率の引き下げや廃止を主張し、落としどころは見えない。
双日総合研究所の平田明日香・主任研究員は「消費税に対する考え方は与野党で真反対を向いており、一致点を見いだすのは極めて難しい。税を含めた財政政策運営での混乱は避けられないだろう」と分析する。
石破茂首相は21日の記者会見で、消費税減税も含めた物価高対策について「財政に対する責任も考えながら党派を超えた協議を呼び掛け、結論を得たい」と、野党に秋波を送った。しかし、立憲民主党の野田佳彦代表は消費減税に向け、軌道修正するならば「議論の余地があった」が、「それがないということは反省がない」と首相の姿勢を批判した。
ゴールドマン・サックス証券の田中百合子エコノミストらは21日付のリポートで、自民党が秋に策定するとしている経済対策では、公約に盛り込んだ3兆円の給付金に加え、野党が掲げるガソリン税の暫定税率撤廃(1.5兆円)や子育て関連などの支出拡大を一部取り入れる形で策定されると予想。消費税減税は「自公中心の政権運営が継続する限り、ハードルが高い」としている。