【コラム】古米が揺さぶる石破政権、小泉氏の次の一手は-リーディー
コメ価格高騰の日本で打ち出された対策は、古さを「ビンテージ」として売り込むという小売業の定番戦略だ。
コンビニエンスストア大手のローソンは、古米などを使い「ヴィンテージ米おにぎり」として販売する。政府は価格抑制を狙い、備蓄米を放出した。
米国での卵と同様に、価格高騰が日本の主食であるコメの大きな問題だ。1年で倍に上がった価格の影響を受けるのは家計だけではない。石破茂政権の命運すら左右しかねない。
すでにこの問題で、石破首相は農林水産相の交代を余儀なくされた。政権運営にも影が忍び寄っている。今夏の参議院選挙では、有権者がインフレへの不満から与党に厳しい審判を下しそうだ。この危機はしかし、次期リーダー誕生の契機にもなり得る。
日本の消費者はここ数年の物価上昇を大方受け入れてきた。そのことは、コスト増を価格転嫁できずにいた企業にとっては予想外の展開だった。
だがコメに関しては、さすがに我慢も限界のようだ。この1年でコメの価格は98%上昇し、消費者物価指数(CPI)の押し上げに0.5ポイント近く寄与。コメ5キロは4000円超と、カロリー単価ではパンを上回る。
石破首相は 農林水産相を辞任した江藤拓氏の後任に、昨年9月の自民党総裁選で競い合った小泉進次郎氏を起用した。小泉氏が就任早々に取った手法は、消費者の心と胃袋をつかんでいる。
就任から数日で小泉氏は競売を介さず、備蓄米を小売業者との随意契約で直接売り渡す措置を講じた。その結果、「古古古米」は現在、2000円未満相当で店頭に並んでいる。
実績残せるか
コメは国としての日本と深く結び付いている。米粒には七人の神様が宿ると教えられ、子どもたちはご飯を残さないよう育てられる。日本酒は神道の儀式における神聖な酒だ。
1918年の「米騒動」はコメ高騰を受けて発生し、20人が死亡、2万5000人が逮捕され、当時の政権が崩壊する事態となった。かつては日本人の1日の摂取カロリーの7割をコメが占めていた。
コメは重要だ。政府は長年、自給率の維持と消費者と農家の両方が納得する価格の両立を図り、市場に介入してきた。60年代には過剰供給を招き、その後は「減反政策」で農家にコメ減産を促した。この制度は2018年に正式に廃止されたが、現在も農協の主導で自主的な調整が行われている。
一方で、日本人のコメ消費量は食生活の欧米化で長期的に減少している。
1962年には1人当たり年118キロだったが、現在はその半分以下だ。今年のコメ不足の背景には、需要が予測を上回ったこともある。農業人口の減少や減産奨励により、わずかな需給のずれでも供給不足が起きやすくなっている。
この問題の根底にあるのは、政策の矛盾だ。政府は安価な米を求めつつ、国産にこだわる姿勢を取っている。この課題に取り組むことこそ、小泉氏が真価を発揮できる場だ。失敗すれば無能と見なされ、価格を下げ過ぎれば農協の怒りを買うという非常にリスクの高い責務だ。
小泉氏は、父・小泉純一郎元首相の手法を取り入れているのかもしれない。2000年代初頭に首相を務めた純一郎氏は、既得権益の象徴だった郵政事業の民営化に挑み、旧態依然とした体制への国民の不満を受け皿にして国民的人気を博した。
父親にとって最大の成果となったこの闘いに倣い、農業改革という長年の課題に取り組めば、次男である進次郎氏もまた行動で評価を得られるかもしれない。
日本には現在、休耕田が全体の4割近くあり、日本食の国際的な人気を追い風に輸出用として活用すれば、生産拡大は十分に可能だ。小規模農地の集積は、農協が反対する可能性の高い政策だが、実現すれば、生産効率も上がる。
夏の選挙後に日本が新たな首相を必要とするかどうかはまだ不透明だが、遠からず空席となるのは確かだろう。総裁選に敗れた小泉進次郎氏の最大の弱点は実績のなさだった。今や同氏には、全力で取り組み実績を残すべき課題がある。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:How ‘Vintage’ Rice Is Shaking Up Japan’s Politics: Gearoid Reidy (抜粋)