〈目撃〉「世界最長の野生のヘビ」をギネスが認定、7m超のアミメニシキヘビ、インドネシア(ナショナル ジオグラフィック日本版)
その巨大なアミメニシキヘビ(Malayopython reticulatus)との出会いはあまりにも衝撃的だった。「こんなに大きなヘビは見たことがありませんでした」と、インドネシアのバリ島で20年暮らしてきた探検家で自然史写真家のラドゥ・フレンティウ氏は振り返る。「おとなのウシは無理だとしても、子ウシなら簡単に飲み込んでしまうでしょう」 【動画】「世界最長の野生のヘビ」を測定する様子 ギネス世界記録は最近、「男爵夫人」を意味する「イブ・バロン」と名付けられたこのヘビを「検証可能な形で計測された野生で暮らす最長のヘビと考えられる」と認定した。 イブ・バロンが初めて目撃されたのは2025年末。場所はインドネシアの南スラウェシ州のマロスだった。これまで何度も巨大なヘビと遭遇してきたフレンティウ氏にとっても、まさに記録破りの大物だ。 フレンティウ氏に巨大なヘビの存在を教えたのは、ボルネオ島出身の野生動物ガイド兼保護活動家で、ヘビを取り扱う法的資格を持ったディアス・ヌグラハ氏だった。2人はイブ・バロンを計測するため、スラウェシ島へ向かった。 2026年1月18日、両氏はイブ・バロンの体長と体重を測った。可能な限り透明性を確保するため、作業は写真と動画で記録された。イブ・バロンの体に沿って測定テープで測ったところ、頭から尾の先までの長さは7.22メートルだった。また、空腹時の体重は96.5キロだった。 フレンティウ氏はイブ・バロンは鎮静剤を投与せずに計測したため、実際の体長はもっと長い可能性があると言う。ヘビを麻酔にかけると筋肉が完全に弛緩し、長さは10~15パーセント伸びる可能性がある。
アミメニシキヘビは通常でも3~6メートルに達する世界最長のヘビだ。イブ・バロンよりも大きいアミメニシキヘビの目撃情報はこれまでも寄せられているが、その大半は直接目撃していない第3者による報告か、発見直後に殺されてしまったものについてだった。 多くの場合、ヘビはサイズを確認できる前に姿を消してしまう。「巨大なヘビはステータスシンボルとして注目を集めます。ヘビは姿を消してしまうことが多いです。さもなければ、ヘビの身に何か悪いことが起きますから」と、フレンティウ氏は言う。生き延びていることこそが、イブ・バロンを特別な存在にしているのだ。 イブ・バロンが今も生きているのは、地元の保護活動家であるブディ・プルワント氏の迅速な行動に負うところが大きい。氏はイブ・バロンのうわさが広まると、売られてしまったり殺されてしまったりする前にこのヘビを確保し、自分の土地に即席のシェルターを作った。 イブ・バロンは今、ブルワント氏が保護したヘビ数匹とともに、そのシェルターで暮らしている。地元でイブ・バロンを放つのは危険だ。バビルサやその他の野ブタなど、獲物となるような大型の動物がほとんどいない一方で、人間の集落がたくさんある。 「これだけの大きいヘビです。おそらくは村に近寄ってしまうでしょうが、そうなれば、まず間違いなく殺されてしまいます」とフレンティウ氏。 インドネシア全土で、生息地が失われつつあることや獲物が減っており、巨大ヘビと人間が間近に接触する機会が増えてきている。アミメニシキヘビは毒ヘビではないが、体が大きくて力も強く、家畜や、ごくまれにではあるが人間を殺してしまう可能性もある。 ヘビは食肉用に狩られたり、違法な野生動物取引の標的とされたりしているが、ヘビにとってしばしば致命的となるのは、人間がもつヘビに対する恐怖心だ。 フレンティウ氏、ヌグラハ氏、プルワント氏にとって、イブ・バロンはこうした状況を変えるチャンスだ。イブ・バロンを保護し、ギネス世界記録の認定などを通して人々の目に触れれば、巨大ヘビを殺してしまうより生かしておく方が価値があることを示せるのではないかと、彼らは願っている。 「イブ・バロンを大切なもの、そしてできれば価値のあるものとして認識してもらいたいのです」と、フレンティウ氏は言う。「そうすれば地元の人々もヘビを守り、長期的な資源として見てくれるでしょう」 フレンティウ氏は1つの可能性として、規模は小さいが人気上昇中の爬虫両生類ツーリズムを挙げる。これは、爬虫類と両生類の観察に特化した野生動物ツアーなどを催行する試みだ。 ただし、フレンティウ氏はイブ・バロンを史上最長のヘビとして位置づけてしまわないよう心掛けている。イブ・バロンよりも大きいヘビがいる可能性は十分にあるからだ。「私はこれが野生で暮らす最大のヘビだとは少しも思っていません。私は幸運だっただけです」と、フレンティウ氏は言う。 「自然にはまだ多くの驚きが残されています。イブ・バロンはその1つですが、最後の1つではありません」
文=Mary Bates/訳=三好由美子