韓国政界の「影の支配者」福音派牧師インタビュー 「私の助けなしには大統領になれない」
6月3日の韓国大統領選投開票を前に、現政権を含む右派陣営に影響力を持ち「影の支配者」とも呼ばれる全光焄(チョングァンフン)牧師が産経新聞のインタビューに応じた。全氏は弾劾罷免された尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領と「毎週通話していた」などと述べ、保守系与党「国民の力」と密接な関係にあることを強調。自身の支援がなければ、「韓国大統領にはなれない」と豪語した。
産経新聞の取材に応じる全光焄(チョン・グァンフン)牧師=5月9日、ソウル市内のサラン第一教会(時吉達也撮影)反北朝鮮、大規模デモを主催
全氏は、聖書の内容を忠実に守ることを重視するキリスト教のプロテスタント福音派の牧師。同性愛に反対する原理主義的な言動や反北朝鮮の姿勢で知られ、革新系の文在寅(ムンジェイン)政権(2017~22年)下で活発化した右派陣営の毎週定例の大規模デモ「太極旗集会」を主催してきた。
多い日には警察推計で6万人以上の動員を誇る太極旗集会について、全氏は「(宗教の自由がない)北朝鮮主導で朝鮮半島に連邦制が敷かれれば、『教会が運営できなくなり、信者は移民を余儀なくされる』との危機感から支持者が集まっている」と説明。地方住民のバスでの動員や人件費など、1回あたり「10億ウォン(約1億円)」に上る開催経費を参加者の献金で賄っているとした。
全光焄(チョン・グァンフン)牧師主催の礼拝集会で、両手を挙げて全氏に喝采を送る参加者ら=5月11日、ソウル市中心部の光化門前与党「国民の力」と強固な関係
太極旗集会には保守系与党「国民の力」の現職議員らが出席することもあり、同党との強固な関係が伝えられている。全氏は、同党所属だった尹氏と、前回22年の大統領選挙以前から「毎週通話していた」と説明。今回大統領選の与党候補、金文洙(キムムンス)前雇用労働相とは集会を通じて過去4年間活動を共にしてきたとし、尹政権での金氏の閣僚起用についても「私が(前)大統領に推薦した」と述べた。
全氏はさらに、自身の支持勢力を背景に「私の助けなしには、韓国大統領にはなれない」と強調。李承晩(イスンマン)初代大統領ら韓国の歴代指導者に言及した上で、「今(の時代の指導者)は私だと思う」と述べた。(ソウル 時吉達也)
「非暴力の革命を目指している」
全光焄牧師とのインタビューでの主なやり取りは以下の通り。
――太極旗集会に多くの支持者が参加している
「第一の理由は信仰だ。北朝鮮主導で朝鮮半島に連邦制が敷かれれば『教会が運営できなくなり、信者は移民を余儀なくされる』との危機感から支持者が集まっている」
「すでに、金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)、文在寅という左派の大統領3人が、(南北首脳会談を通じて)連邦制に応じる署名をしている。今回、(革新系候補である)李在明(イジェミョン)が大統領に当選すれば、すぐに連邦制への移行を進めるだろう」
産経新聞の取材に応じる全光焄(チョン・グァンフン)牧師=5月9日、ソウル市内のサラン(愛)第一教会(時吉達也撮影)――与党に影響力を持つようになった経緯は
「(ソウル市中心部の)光化門広場での(太極旗)集会を通じて、議員らと4年間活動を共にしてきた。公の場では言わないようにしていたが、実は尹錫悦(前)大統領とは(22年の)大統領当選前から毎週通話をしていた。われわれの勢力が大きいから、私の助けなしには大統領になれないんだ。(保守系候補の)金文洙(前雇用労働相)の閣僚起用を尹大統領に推薦したのも私だ」
――尹氏の弾劾を審理した憲法裁判所に対する暴動をあおったと批判されている。法治を軽視していないか
「わが国はすでに、司法が崩壊しているじゃないか。憲法前文には(李承晩元大統領の選挙不正を糾弾した1960年の四月革命を指す)『4・19』の理念を継承するとの記載もあり、韓国国民には『抵抗権』が保障されている。ただ、われわれは非暴力の革命を目指している」
――大統領選の見通しは
「李在明が当選する可能性が高いが、新政権が日本や米国とうまくやろうとすれば、北朝鮮が放置しない。北朝鮮(の工作活動)によって、1年以内に弾劾されることになるだろう」
――過去には「神様も俺に楯突けば死ぬ」などの発言が物議を醸した
「過去2000年間で、言葉遣いが最も汚かったのは(米公民権運動指導者の)マーティン・ルーサー・キング牧師だ。闘争の中では汚い言葉も飛び出すものだ」
「私の発言は一種のジョークで、一部を切り取って伝えられた。ただ、発言を告発した者はその後、自殺した。李承晩初代大統領をはじめとした時代の指導者と対立した者は、みな死ぬことになっている。神様が歴史を運営する原理だ」
――自身もその系譜を継ぐ指導者だと考えるのか
「今(の時代の指導者)は、私だと思う」